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「残念石」から考える「文化財とは何か」

先月、耳を疑うようなニュースが飛び込んできた。木津川市にある大坂城築城時の残石、通称「残念石」を大阪万博会場のトイレを含む休憩施設の建材に使おうというのだ。主催者側の説明では石そのものに手は加えないとしているが、千田嘉博先生をはじめとする考古学者や私を含む考古学専攻の学芸員からは反発が相次いだ。文化財は現状変更に制約があり、それを毀損すると文化財としての価値が失われてしまうからだ。今回の残念石の一件は、文化財の活用の範囲を逸脱していると我々には見えた。さらに、大阪維新の会擁護派が「指定文化財以外は文化財ではない」という誤った認識で論争をふっかけており、非常に混乱をきたした。

残念石。城に使われなくて残念と思われた
ところからきた通称だが、実際はストック
されていた予備の石材らしい。

ある意味、文化財とは何かを考えるいい機会になったので、ここで残念石を文化財として捉え直してみよう。
文化財とは「我が国の長い歴史の中で生まれ,はぐくまれ,今日まで守り伝えられてきた貴重な国民的財産」であり、そのうち特に重要なものを国宝,重要文化財,史跡,名勝,天然記念物等として指定,選定,登録している。今回の騒動で勘違いしている者が散見されるが、文化財とは指定等されるものではなく、歴史的価値を持つものはすべて文化財として扱われるのである。したがって、残念石も文化財として扱われるべきもので、文化財指定の有無は関係ない。これは埋蔵文化財の場合がわかりやすいが、遺跡範囲内における開発工事に際して発掘調査を実施するのは、開発でやむを得ず失われる埋蔵文化財を次善の策で記録し保存するためである。指定文化財以外が文化財としての価値を持たないとしたら、史跡指定地以外は何をしてもいいことになり、そうなるとなぜ自治体が周知の埋蔵文化財包蔵地(遺跡)をわざわざ設定し、発掘届の提出を義務付けているかが説明できなくなる。今回の場合、木津川市は未指定ながらも『木津川市文化財保存活用地域計画』資料編に構成資産として残念石を記載しており、文化財として取り扱っているのがわかる(そうなると、今回の件についての木津川市の対応が不可解である)。

文化財の体系図。一口に文化財と言っても種類は様々。

文化財には様々な種類があり、文化財保護法では文化財を「有形文化財」「無形文化財」「民俗文化財」「記念物」「文化的景観」「伝統的建造物群」と定義している。今回話題の残念石は、有形文化財あるいは記念物となる。石単体は動産なので扱いが微妙だが、『木津川市文化財保存活用地域計画』では「石造物」という項目を作ってそこに分類している。ちなみに所有者は国である(河川内にあるためだろう)
あまりいい説明になっていない気がするが、文化財とはなにかと、残念石の文化財としての位置づけを見直してきた。ある意味、文化財とは属性なのである。


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