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読書録:地形で読む日本

金田章裕『地形で読む日本』(日経プレミアシリーズ)
何度も繰り返し書いているが、今年の夏は抗精神病薬の過剰投与によるとみられる過鎮静状態によって眠気と意欲減退に悩まされ、それに夏の異常な暑さが加わってほとんど何もできなかった。当然、読書もできず、本書は読みかけのまま半年近く放置することになった。
本書は歴史地理学をテーマにしている。歴史学と地理学の学際にあるのが歴史地理学である。本書は歴史地理学の理論的な部分は排除し、具体的な事例を読み解くことで歴史地理学の世界を一般向けにわかりやすく紹介している。
宮都、城館、都市、それらの立地を読み解くと歴史が見えてくる。それらがその立地を取るのには、深い意味があるからである。その意味は歴史学と地理学の双方から読み解くことで明らかになる。歴史学と地理学の融合したものが歴史地理学だといえる。
本書では、宮都、城館、都市が扱われている。中世から近世にかけて、城が山から平地へ移動した理由、都市が水陸交通と密接に関わっていた理由、都が奈良から京都へ移った理由、それらはすべて歴史地理学によって明らかにできる。なぜその場所が選ばれたのか、その理由は、一つは地形、もう一つは交通の利便性である。地形で言えば、城は守りやすく攻めにくい場所が選ばれた。時代が下がると城が政庁の役割を持つようになり、山城から平城へ変化するが、守りやすく攻めにくい場所というのは踏襲され、河川を天然の堀として取り込むなどの工夫がなされている。河川は水運に利用できるため、交通の利便性という観点からも河川の近くはいい立地である。これに加えて、近傍にどれだけ耕地を確保できるかも重要であった。都が奈良盆地から京都盆地へ移ったのは、都市を支えるための耕地面積の確保という点も大きかった。
読み終わるまで時間はかかったものの、いい読書体験だった。


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