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稲村悠『元公安捜査官が教える本音嘘秘密を引き出す技術』WAVE出版

タイトルからして刺激的であり、すぐにでも知りたい知識であるが、そんなに簡単なものではないと誰もが思うところである。

著者はかつて、警視庁で公安捜査の任務に従事していたと言う。公安とは何だろうか。本書は、最初に公安について説明する。

公安とは、公安警察のことだと言う。著者は、警視庁公安部に所属していたそうである。東京以外は、公安部がなく警備部の中に公安課があるそうである。

公安の任務は、暴力主義的な破壊活動や国益を侵害するような行為を未然に阻止することだと言う。「事件になる前に動く」ということが、公安の基本姿勢となる。非常に慎重な姿勢が求められる。

情報収集が主体となり、諜報活動とみなされることも行うが、違法行為も辞さないスパイではない。絶対に法を犯さないと著者は断言する。

スパイが情報を集める手法は3つあると言う。
①オシント(OSINT)
 新聞、雑誌、インターネットなど、誰でも入手できる情報を分析する。
②ヒューミン(HUMINT)
 人を介して収集された情報の分析、いわゆるスパイ活動。外交活動など合法的な手段のほか、身分を偽った接触などがある。
③シギント(SINGINT)
 通信や電気信号を傍受する情報収集。情報システムのハッキンング、偵察機による画像撮影など、何らかの技術を使う。

ヒューミントに不可欠なのは、信頼関係の構築であり、目の前にいる人に心を許し、確固たる信頼を寄せたとき、必要な情報を手に入れることは難しくないと言う。イスラエルの諜報機関モサドは、「人間としての尊厳と正直さ」を必要な資質とする。「魅力的であれ。相手に信頼させるのだ。」と、「究極の人たらし」であることを求める。

人から情報を得る手順は、次の5つのステップを踏む。
①選定(情報を引き出す対象者、対象者の近づく紹介者を選ぶ)
②基調(対象者、紹介者となる人物像の分析、推測をする)
③接近(偶然を演出して、相手に会う約束を取り付ける)
④獲得(信頼関係を構築して、協力者にする)
⑤運営(協力者との信頼関係を維持し、継続的に情報を入手する)

基調のため、ネット上の古い情報が必要なら、ウェイバックマシーン(Wayback machine)を使用する。日本レジストリサービスの「WHOIS」で、ドメイン登録者の氏名や住所がわかることもある。私的情報はSNSが有効で、フェイスブックは実名登録が基本なので、アカウントが特定しやすい。ニックネームや名前+誕生日下4けたはよく使われるパターン。

行きつけのカフェで、さりげなく隣の席に座り、テーブルにわざと手帳を置き忘れて、印象づけをする。オープンな交流会であれば、自ら出席し、会場で紹介者となってくれる人をさがし、仲介してもらう。

相手との距離を縮めるため、ミラーリング(自分と同様なしぐさや行動をする人に好感を持つ)という手法を使う。著者は、好印象を抱いてもらうため、会話の中で「相手の発言に同調する」「相手と同じ意見だと見せかける」ことも意識していたと言う。

また、最も効果的なのは、「相手の弱みに手を差し伸べる」ことだ言う。弱みや悩みの見立てが正しいかの確認のため、「情報を先に出す」という手法をよく使うとも言う。

嘘を見抜くテクニックとして、しぐさを観察する、顔が急に赤くなる、何度も唾を飲み込む、大量に汗をかく。このような自律神経の乱れのほか、顔をさわる、視線が泳ぐ、まばたきが増える、咳払いをする、鼻をすする、急に怒り出す。

相手に語らせてほころびを突くというオープン話法もある。同じ話を二度するだけで、そこに嘘があれば、何かしらの矛盾点が浮かび上がってくる。三度目、四度目と回数を重ねると、矛盾が疑いようのないレベルに顕在化する。

矛盾点を指摘されてもなお、シラを切り続けるときは、問答法というテクニックを使って、最後は沈黙に追い込む。知っていると見せかけて情報を引き出すこともある。

沈黙の時間ができても、あえてそのままにしておくことも必要である。そして、その後、できるだけ短い質問を直球で畳みかける。沈黙で答えが出たら深追いしない。

緊張後のリラックスした瞬間を狙う。厳しい追及のあとで共感する。キャップで相手の心を動揺させることで、本音を引き出すきっかけになる。

著者は、大切な個人情報、企業情報を狙って接近してくる外国人スパイと無縁でなくなってきているとも言う。スパイが目につける4つの不徳がある。4つの不徳は、①情欲、②名声欲、③復讐欲、④強欲で、とくに目立つのは、情欲と名声欲であると言う。

スパイだけでなく、詐欺師から身を守ることも重要で、「無意識の信頼感」に気をつける必要があると言う。冷静になる時間を被害者に与えないのが詐欺の手口と言う。

最後に、著者は、テクニックを知っていて安心していると、思わぬ失敗をするものであると戒める。本書は、他人から秘密を引き出すためのテクニックを知るだけでなく、自分の大切な情報などが盗まれることを防ぐためにも必読であると思われる。




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