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長寿と健康のシンボル。松に鶴のモチーフは多くの絵画に描かれます。

ツル科4属15種の大型の鳥の総称。日本では北海道の釧路湿原周辺の留鳥であるタンチョウ、本州・九州に冬鳥として飛来するナベヅル、マナヅルが知られる。アジアに多い鳥です。
西洋でも東洋でもツルは縁起のよい鳥、瑞鳥(ずいちょう)とされてきました。中国ではツルは1600歳にして初めて子を産む長寿の鳥とされました。これはツルの鳴き声が大きく響くため、その長く特徴的な気官(ラッパ管)を漢方の任脈(前正中線を流れる経路で生命維持の急所)と混同したからといいます。
日本でも「ツルは千年、亀は万年」と言われるように長寿の鳥とされました(実際は野生で20〜30年といわれます)。また、天空から舞い降りてくる優美な姿は、仙人の乗り物とされ、日本航空やルフトハンザのシンボルマークになっているのも頷けます。異郷から飛来する瑞鳥であるので、鶴岡、鶴見、舞鶴などの地名にも多く現れています。
画題としても「松に鶴」のモチーフが多く描かれましたが、これは松の樹上に巣をつくるコウノトリの習性と混同されたものです。
ツルは湿原や草原などの地上に巣をつくり、木に止まることはほとんどありません。長寿と健康のシンボル(縁起物)ともなり、銭湯の正面飾りなどに使われ、「松の湯」「鶴の湯」などの名が多いのもそのためです。花札の「松に鶴」の役札も同様です。1000年の寿命にあやかろうと、江戸時代にはツルの肉が非常に珍重されました。正月の宮中で行われた「鶴包丁」をはじめ、大名家でも慶事の際にツルを賞味することが行われ、幕府への献上品にも多く用いられた高級な食材でした。江戸時代の俳諧書『毛吹草(けふきぐさ)』には、ツルを使った料理がいくつも記されています。また猟鳥とされ、徳川吉宗は在職中に黒鶴(ナベヅルとマナヅル)を22回、徳川家斉は13回捕らえたという狩猟記録があります。
全長140cmにもなるマナヅルと、それより小型のナベヅルは、ともに主にシベリアから中国北部に生息しますが、冬季に日本に南下して越冬します。かつては日本各地にあった飛来地が環境破壊のため失われ、いまでは鹿児島県出水平野が一極集中的な飛来地として知られ、国の自然保護区になっています。しかしここにマナヅル全体の50%、ナベヅルの80%が集中し、総数1万羽を超えて越冬するため、感染症発生の際には絶滅が危惧されています。実際、これらのツルから高病原性鳥インフルエンザウイルスが発見されたこともあるので、慎重な対処が必要です。
タンチョウは日本でも中国でも、ツルといえばこの鳥を指すというほど古くから親しまれてきた鳥です。優美な姿は工芸品の意匠や画題としても多く登場してきました。学名もGrus japonensisで、「日本のツル」を意味するように、日本を代表する鳥です。
ちなみにクレーン(起重機)、クランベリー(果実)はどれも形状がツル(英語でcrane )に似ていることから名付けられたもの。水道などのカラン(オランダ語 kraan)も同様です。

姉羽鶴之図  高力猿猴菴図  国立国会図書館蔵 
同上


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