『20年越しのプレゼント』 #1


 最近、ひとり親の家庭が増えているというニュースをよく聞く。
 離婚や死別、色々理由はあるだろうけれど、子どもにとっては悲しい状況であることがほとんどなのではないかと思う。というか、ひとり親というとそれが前提で話が進められる。子どもは可哀想なものである、という前提で。
 しかしこの中でも、ひとり親であったとしても幸せ、というか、ひとり親になることができて良かったと感じられるパターンはある。

 ――それは、親が家庭内暴力を行なっていた場合の話。

「ここまで話せばなんとなく察したと思うんだけど」

 社内の会議室の一室にて。少々重たいようにも思われる話を目の前の彼に繰り広げる。
 ココアを一口飲んでから私が発しようとしている言葉を、彼は固唾を飲んで見守っていた。

「私の父親、とんでもないDV親父だったんだよ。それで、母は私を守るために離婚したの」

 彼氏兼仕事の後輩でもある彼は、「そうだったんだ」と声を漏らした。それから押し黙ってしまう。彼の手元にあるコーヒーはいつからか冷めきっていた。
 私の手元のココアは元々アイスココアだったから問題ないが。

「ま、そういう訳だから。ひとり親の子どもが誰でも別れた方の親と会いたいと思ってるとは考えない方が良いよ。そういう偏見を取り除かないままに同情されるの、鬱陶しいから」

 昔から、離婚の原因を知らない大人には好き勝手言われたことを思い出す。その同情は最早同情ではなく、ただの迷惑に過ぎなかった。
 彼に釘をさすと、「気をつける」と零してからやっとコーヒーに口をつけた。苦みに顔を顰めているのから話の内容に顔を顰めているのかは判別がつかない。

 ——私達は今、行政機関から委託されているひとり親に対する支援活動に従事している。
 ひとり親の子どもは、親が仕事の都合でなかなか一緒に居られる時間が取れないから、その分居場所として公民館などの一室を提供しようというものだ。
 そこでは勉強するも良し、遊ぶも良し、昼寝するも良し。兎に角子ども達には自由に過ごしてもらっている。

 彼とはそこで今度開く予定のクリスマス会の内容について話し合っていた。どんな流れでその話になったのかは忘れたが、ひとり親の子どもは別れた方の親と会いたい筈だというような話になって、この話になったのである。
 その後は気を取り直し、クリスマス会の内容について話し合った。結局無難にビンゴ大会を開催し、プレゼントをいくつか設けることに決まってその場はお開きとなる。
 稟議書の作成とプレゼントの選定は彼に任せることとして、私は普段の業務に戻ることにした。プレゼントに何を渡すと子どもが喜ぶかは、きっと彼の方がわかるだろうから。

 ——クリスマスは、昔から苦手だった。
 これに関しては自分の家庭環境を呪うしかないけれど、父から虐待を受けていた私に一般的なクリスマスというものは存在しなかった。
 サンタからクリスマスプレゼントが贈られることはなく、中学生になってやっと父と離れられた時にはサンタはいないということを既に悟っていた。

 あの頃の私が何を欲していたのか。
 それは今の私には、思い出せなかった。


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noteへの小説の投稿はこれが初となります。
こちらは、Twitterで公開している140字小説を短編小説化したものとなります。そのため少し季節感がおかしいですが、ご容赦ください。
#2 、もしくは#3で完結予定です。元の140字小説は最後に紹介いたします。

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