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「袖を留めるクリップ」と言われたら

A氏が入院していた時の出来事です。

九死に一生を得て、集中治療室から一般病棟に移ったA氏。点滴台を引き連れながらではありますが、やっと洗面所で自分で顔を洗うことができるまでになりました。

朝。洗顔しようとしたA氏です。が、どうしても病衣の袖が濡れてしまいます。自分で袖をまくりながらというのもその時のA氏には難しいことでした。

そこでA氏は、そばにいた(病室から洗面台まで付き添ってくれていた)病院スタッフ(以下Sさん)に、

「袖を留めるクリップ、ないかな?」

と尋ねました。

するとSさんは、

「お待ちください」

と、その場を離れ、どうやらスタッフステーションに向かった様子。

が。

なかなか帰ってきません。

10分経過してやっと戻ってきたSさん。A氏にこう伝えたそうです。

「袖を留めるクリップというのはありませんでした」

以上。

手ぶら。

えーっと。もしかして【「袖を留めるクリップ」というそのものズバリの品物】を10分間も探していたのかい?

確かに「袖留めクリップ」に類するものは世の中に存在する。検索すればヒットする。

だけど、その時のA氏は「袖を留めるクリップというものがあるのなら使ってみたいなぁ♪」という興味関心で袖留めクリップをピンポイントで要望したのではなく、袖を濡らすことなく顔を洗いたい、ただそれだけ。欲しかったのは「(濡れないように)袖を留める(ための)クリップ(か何か)」です。

10分も待たせて「ありませんでした」って、手ぶらで帰ってきてどうする!

「袖を留めるクリップ」がなかったら、事務用クリップでも、洗濯用クリップでも、なんなら紐でもなんでもいいから、何かこの場の「袖を濡らすことなく洗顔する」を解決する代替案を持ってこないと!

けっきょくA氏は、そばを通りがかった別のスタッフに輪ゴムをもらって対処したそうです。

さて。改めてこの状況のSさんの行動を考えます。

ありていに言えば、気が利かない。
専門職っぽく言うなら、ニーズをキャッチできていない。

ということですね。

Sさんは病室からずっとA氏のそばについていた専門職です。A氏の病室から洗顔までの一部始終を見ています。袖が濡れそうで困っている場面はそんなSさんの目の前でのこと。

なのに、言われたワードだけにしか意識が向いてないこのふるまい。その場にいながらA氏が何を求めているのかが分からなかったこの展開。想像力が及んでいないこの結末。

Sさんにすれば「だって、袖を留めるクリップって言われたから。だったら、袖が濡れないようにするためのものなら何でもいいから持ってきてって言ってくれないと」と思うのかも知れません。

ですが、それは対人援助職としていかがなものかと思います。その人の要望をキャッチすることが求められているからこその(非言語を含めた)コミュニケーション能力。だからこその観察力。だからこその判断力。だからこその専門職。

患者側(A氏)に非があったとは思えません。「(濡れないように)袖を留める(ための)クリップ(か何か)」の(カッコ)は言わなくても分かると思って当然です。

・・・って力説するほど難しいシチュエーションでもなかったと思われるこのたびのA氏洗顔シーン。

残念なこととしてA氏が語ったこれは、
Sさん個人の問題なのか?
それとも専門職養成課程の問題なのか?
それとも社会的な問題なのか?

もしも養成課程の問題なのだとすれば、どうすれば良いのでしょう。

演習か何かで「A氏から、この状況で【袖を留めるクリップ】を求められました。あなたならどうしますか?」とグループワークで考えるとか⁇

無事に退院したA氏からこのエピソードを聴きながら、うーむと考え込んでしまった私でした。

本日は以上です。

今日も良い一日を!

*****柳田明子社会福祉士事務所〰聴く・伝える・ともに考える〰(2001年開業)〔(公社)日本社会福祉士会の独立型社会福祉士名簿に登録されています〕ブログ(2010年~)http://a-yanagida.asablo.jp/blog/***** 
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