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【旅エッセイ】突然目の前に止まった車に恐怖したら、淡い青春物語が始まった話

 ブォーン!キィーーーー! 

 甲高いブレーキ音で私はハッとし、顔を上げると私の3mほど先に黒い車が横付けで止まっていた。 

 音に驚き、ビクッと震え上がった身体。足が止まり、何が起こっているのか分からず、私はただその黒い車を見つめていた…


 ここは、マレーシアのマラッカ。
 2008年に「マラッカ海峡の歴史的都市群、マラッカとジョージタウン」として世界遺産に登録されており、今は観光客も多く訪れる街のようだが、当時はマレーシアの地方都市で、ゆっくりまったりとした時間が流れる、のんびりした都市だった。
 
 私がマラッカに行った理由は深夜特急で、
 「マラッカの夕陽は美しい」と聞いた主人公が、実際にマラッカに行ってその夕陽を見るシーンに感動し、私もその夕陽を見てみたいと言うミーハーなものだった。

 完全に蛇足だが、そのまま街の雰囲気に魅了され、合計25泊し、結果的には約1年間の旅の中で滞在した日数の最多の都市となっていた。


 バタン!

 目の前に止まった車の扉が開いた。

 ―――誰が降りてくるのだろう…めっちゃ怖い人降りてきて、誘拐とかされたらどうしよ。車の止まったイキオイ的にはその可能性が高いんちゃうん?

 …いや、こんな街中で派手に誘拐とかないやろ、としたら強盗?
 でも、これもここでやるには目立ちすぎるやん。
 計画的な犯行だったら、私は毎日居るから行動パターンも分かるはず、もう少ししたらいつも路地に入るし、そこでやるはずやろ。

 としたら、突発的に、「あーなんか変な日本人歩いてるやん、コイツからお金奪ってウハウハしちゃおうぜ!」とか思った?やとしたら、普通の思考を持ったやつじゃないし、危なすぎるやん!

 ひとまず、今すぐダッシュで逃げるべきか?
 でももう扉開いてももうてるし、身体はもう固まってしまっている…
 あーどうしよどうしよどうしよ…

 (ここまで0.2秒)

 身体が恐怖で動かない中、開いた扉の方を凝視していた。

 降りてきたのは…

 ん?女性?しかも3人?


 いや、分からん分からん!
 これは一体どういう事なん?
 
 割と若そうな…同世代くらいか。ん?なんか3人で笑顔でキャッキャしながら、こっちに歩いてきてる…やっぱり私の前に立ち止まるのね。
 いや、立ち止まっただけでまだ何にも言ってこないねんけど…引き続きなんか3人でキャッキャしてるやん。

 …俺関係ないやん笑

 よく見ると…なんか2人の女性が、1人の女性の背中を押してるが、押された女性が、モジモジしてる。

 2人の女性はチラチラ私の方を見て、
 「ちょっと待って!」みたいなアイコンタクトしてきてる。

 

 ん?これって

 女性1   「アンタ早く言いなさいよ!」
 
モジモジ女性「え…恥ずかしいからちょっと待って! 
       「って言うか、一緒に言ってよ!」
       「なんで私1人で言わないといけないの?」
 
女性2   「アンタが言わないと意味ないでしょ!」
 みたいな事してる?

 

もしかして、”甘酸っぱ青春物語”がはじまろうとしてる?笑


 なんかちょっとワクワクしてきた…

 ん?あれ?

 よく見ると、この子たち見た事あるかもしれない!


 たぶんいつも通ってるバー…と言うか、さっきまで居たバーで歌うたってる子たちやん!
 あやしく毎日バーに通っている日本人に興味を持って、話かけてくる子たちは居るけど、この子たちは話かけてきたことないやんっ!

 ちょっと頭が動いてきたけど、そもそもなんであんなイカツイ車の止め方してきたん💦

 おお!モジモジ女の子を何か意を決したような顔してる…初めてこっち見てきた!

 これはきっと何かを言ってくる。

 さ!なんて言ってくるんだ…

モジモジ女子「ご飯行きません?」


やなぎや「あ…うん、いいよ(いつ行くんだろう?)」  

モジモジ女子「じゃ、とりあえず車に乗って!」 


 はい?


 いや、これやっぱり誘拐か?もしくは美人局《つつもたせ》?
 だって、今、初めて言葉を交わしてから5秒よ、5秒。
 
 普通に日本で考えてもおかしいでしょ?

 車が目の前に止まって、扉が開いて、女の子が降りてきて、突然
 「ご飯行かない?」
  と言われて、
 「んじゃ車乗って!」

 って、誘拐にしても荒っぽすぎるでしょ!
 
 いや、これは乗らないでしょ。
 ましてや異国で、右も左も分からん状態で、よく知らない人の車に乗るほど私もアホじゃない!そんな事やってたらお金も命もなんぼあっても足りないわ!


 

やなぎや「O.K!」


 や、「O.K!」じゃないでしょ自分!
 だめだ、なんでいつもこんなにも好奇心がどうしても勝ってしまうのだろう…


 そして、出会って5秒の人の車に乗り込み、30分ほどマラッカ市街地をウ ロウロされ、1件のご飯屋さんに連れていかれました。

 やっぱり、モジモジ女子はやなぎやに、好意というか、興味があって声をかけてくれたようでした。その後もマラッカ滞在の間、この女子たちの男、女問わず友達を紹介され続け、昔からの友人であったかのように、毎日遊び続けました。

 そして、モジモジ女子とは…

そのご飯を食べたっきり何にも進展はなかったです笑


 あーーー俺のドキドキ返して!笑


 でも、きっと、私のマラッカ滞在が長くなった大きな要因の1つは、この子たちの存在だったんだろうな。


そんな、とあるマラッカでの一日でした。


 

 

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