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【王からの手紙1】ラワールピンディで王様みたいな人に出会った時の話。

 「汝はなぜアフガニスタンを目指す?」


 目の前の王様のようなオーラを出している男が、私に尋ねてきた。
 つい10秒前には想像もしていなかった突然の問答に、常にこれを自問自答してき、出していたはずの回答が、無限に頭の中を駆け巡ったが、頭から発せよと命令された言葉達が、緊張して締まってしまった喉を通過できない。

 この質問に誤った答えを出せば、私はアフガニスタンに招かれざる客人となり、訪問のチャンスはなくなってしまうのかもしれない。

 そう思うと、ますます喉に力が入って話せない…


【後日追記】この記事ですが、皆様のおかげでたくさんのスキをしていただけた記事だったそうです。ありがとうございます!!!


※ 今回のコラムは、避難勧告が出ている国、エリアへの渡航を推奨するものではありません。旅の情緒を伝える目的で投稿をしておりますので、あらかじめご承知おきください。

 私は、パキスタンのラワールピンディに居た。

 ここからは、西へと旅を続ける予定で、パキスタン西部の街、ペシャワールから、アフガニスタンに入り、北へ抜けてウズベキスタンへ行く計画をしていた。

 アフガニスタンに行こうと思っていた理由は、「深夜特急」(沢木耕太郎 著)だった。深夜特急を読み、”旅人”と言うものに憧れを抱いたのがそもそも旅人になった理由だが、この小説の中での「アフガニスタン」での筆者が見たであろう風景、感じたであろう情景、触れたであろう情緒、これを私も感じてみたい、そして「アフガニスタン」と言う土地に絶対に行きたいと思った。ただそれだけだった。

 どの国でもそうだが、初めて出会った旅人達の挨拶は、
 「どこから来たの?」
 と
 「次どこへ行くの?」
 だ。

 私は、
「次はアフガニスタンに行きたい…けど…」
と答えていた。

 私の返答を聞いたすべての旅行者からの返答は、
「そうなんだ…頑張ってね!」
 だった。

 それも当然だ。
 当時のアフガニスタンは、戦争が終わったとはいえ、まだ散発的な戦闘は繰り返されており、不安定な状況だった。そのため、当然にアフガニスタンからパキスタンに入ってきた旅人に会う事はなかった。

 旅人の間で、アフガニスタンの情報は皆無であり、現在どのような状況であるのかもまったくわからず、ラワールピンディで身動きを取れずに、何日も過ごしていた。

 そんなある日、いつも通り出会った人に、
「次どこ行くの?」
と聞かれ、
いつも通り、
「アフガニスタンに行きたい…けど…」
と答えたら、今までにない回答が返ってきた。

「もし本当にアフガニスタンに行くなら、いい人に会わせてあげるよ!」


!!!


「今から時間ある?行こうか」


 今日初めて出会った人だが、思いもよらなかった言葉に、ワクワクして、その人についていく事にした。

 オートリキシャ―(東南アジア風に言うとトゥクトゥク)に乗り込み、数十分揺られ、1軒の雑居ビルのようなところの前で止まった。

 ―― 一体ここでどんなことがあるのだろう…「いい人に会わせてあげる」と言われたのだから、誰かに会う事になるのだろうが、誰かは全く聞かされていない。オートリキシャ―乗ってる時も教えてくれなかったな。
 なんだこの雑居ビルは…薄暗くてジメジメしている。悪の組織の拠点って言われても違和感ないような雰囲気。
 …エレベータで上がるのか。何階まで上がるのだろう。ここまで付いてきて来てみたけど、大丈夫なのか!?っていまさらそんな事考えても仕方ないし、ついていくしかないよな…
 もうすぐボタンが押されてる階だな。降りたらイキナリなんか不幸な事になったりしないよな…お、エレベータの扉が開いた。

 「ここだよ!」
 「あ、はい」

 ――暗い…なんだこのフロアは、パキスタンの雑居ビルの明るさはこんなものが標準なのか?目が慣れてきた…えらい大きな観音開き扉があるだけやん。この階はこの部屋だけなの?

 「この向こうに、その人は居られるよ。あなたが来る事は予め言ってあるので、自分でこの扉を開けて行っておいで」



え?


 

ちょ待って。意味が分からないから。


 

や、そんな優しい笑みでこっちをみて「大丈夫だから」みたいな雰囲気を醸し出されても、こっちは、まったく納得できないねんけど…


でも、このままここに居ても仕方ないし、とりあえず、行かないと。
とりあえずノックはしてみるか。

トントントン!

「※◎◆▼□★★~」

なんか中から声が聞こえる。太い声だったし、男性の声だな。

「おじゃましま~す」
ゆっくり失礼のないように開けないと…ってこの扉…重っ!!!

部屋の中は…えらい眩しいやん、中がはっきり見えない。

ようやく見えてきた…ん?
なんか、めっちゃ厳かな雰囲気…で、めっちゃ偉そうな雰囲気のおじさん?おじいさん?が座ってる…

これって完全に王様の雰囲気やねんけど…

おお、王様の前に1つのパイプ椅子が置かれてるやん。
ここに座れって事?
なんか面接みたい💦

とりあえず挨拶だけはちゃんとしないと。

「アッサーラーム ムアライクム!」

よし、これでとりあえず椅子に座ってみるか。

 ちゃんと座ったけど、この場がなんで設けられてるのかも分からんし、目的も分からんけど、とりあえずめっちゃ目の前の人オーラ出まくりやし、賢そうに座って、ちゃんと目線も上げて見ておこう。

 …お、なんか口が動きそうだ!何を言われるんやろ。と言うか、何語で話しかけられるんやろ。


「汝はなぜアフガニスタンを目指す?」

(英語)




…いや、普通「初めまして」とか、「私の名前は○○で、△△をしている者で…」みたいな、自己紹介あるやん?



 とか考えてる場合じゃないよな💦

 ひとまずこの質問に答えないと…実際は、
「深夜特急っていう小説を読んで、その小説の中でのアフガニスタンの描写がとても魅力的だったから、実際に見てみたいから」 
 みたいな事やねけど、これを上手く英語で表現できるのか?と言うか、仮に英語で上手に言ったとしても、

へ?深夜特急ってなに?


って絶対返ってくるやん!?

ん?深夜特急…

お!

このシーン、深夜特急の中で似たやつあったやん!
主人公が、シンガポールからの航空券をデリー行きをカルカッタ行きに変えてもらった時のシーン。あの時に、確か主人公はけんか腰に言っていたが、大人の雰囲気で言えばきっとこんな感じの事を言ってたはず。
(ここまで0.3秒)


「私は、アフガニスタンと言う国が大変美しく、人が親切で大変魅力的な国だと、様々な出会った人から聞きました。それはそれは大変素敵な体験であったと。
 私も、アフガニスタンと言う国を、聞いた話だけではなく、実際に自分の五感で、見て、聞いて、匂って、触って、感じてみたいのです。」


 あー緊張した!ちゃんと言えたかな。
 あれ?
 なんかずっと黙ってる。
 
そして目を閉じている

 なんでなん?なんでなん?なんでなん?
 私、なんか変な事言ったかな?

 …すでに10秒は絶対経ってるし。
 「沈黙が耐えられない」の限界領域なんですけど…

 

あ、目が開いた!


絶対今からなんか言うやん!なんて言われるねんろ…




「望むところだ!お前にアフガンがどれだけ素晴らしい土地か、知らせてやるわい!」


「ジャララバードに私の息子2人が住んでいるから、彼らを訪ねるがよい。きっと力になってくれるだろう。」


 え?

 
 私は今、どんな顔すればよい?💦
 展開が予想の斜め上行き過ぎてて、もう頭と表情が付いて行かない…


 そして王様、なんか、書き出したねんけど…
 あ、書き終わったのね。そして、それを私に渡してきてるけど…

 

見た事ない文字で書いてるから分からん!

 

「その手紙を、ジャララバードに居る我が息子に見せるのじゃ!」

 

 やなぎやは「王からの手紙」を手に入れた~
(RPGで重要アイテムを得た時のお好きなメロディを頭の中で流してください)


 そんな、重要アイテム「王からの手紙」をゲットした旅のある日の話。

 続きは以下より


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