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[献本] 『ゲーマーズブレイン』感想

 2019年4月22日にセリア・ホデント著『ゲーマーズブレイン』の献本打診のメールをいただき、4月25日に出版社のボーンデジタルさんから本を受け取りました。そして、ゴールデンウィークの電車移動中などに読みました。

 私も本を出した際に献本をすることがあり「紹介してくれるといいいな」と、淡い期待を持ったりします。なので、紹介がてら簡単な感想を書こうと思います。4500円+税という、それなりのお値段の本なので、送るのも大変だと思いますので。

 というわけで、まずは本の情報です。

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タイトル:ゲーマーズブレイン UXと神経科学におけるゲームデザインの原則
著者:セリア・ホデント
定価:本体4,500円 + 税
発行・発売:株式会社 ボーンデジタル
ISBN:978-4-86246-444-6
総ページ数:256ページ
サイズ:B5版

https://amzn.to/2Jav8fg
https://www.borndigital.co.jp/book/13127.html

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 原著は「The Gamer's Brain: How Neuroscience and UX Can Impact Video Game Design」(Celia Hodent)。Kindle版が$46.03、ハードカバー版が$142.95、ペーパーバック版が$35.99なので、かなり安くなっている翻訳本です。原著のカスタマーレビューは星5が15です。

https://www.amazon.com/Gamers-Brain-Neuroscience-Impact-Design/dp/1498775500

 著者のセリア・ホデントは、フランスのパリ第5大学で認知発達を専攻し、心理学の博士号を取得した人です。2005年に学術研究から退き、知育玩具の製造メーカー VTech社に入社。その後、ゲーム業界に入り、Ubisoft、LucasArts、Epic Games の各社で、ユーザー体験の向上を目指してプロジェクトを主導。「Tom Clancy’s Rainbow Six」シリーズ、「Star Wars: 1313」「Paragon」「フォートナイト」「Spyjinx」などの作品に携わっています。

 また、2016年5月にノースカロライナ州ダラムで組織され、Epic Games が主催する、Game UX Summit の創始者および責任者でもあります。つまり、その方面の専門家で第一人者なわけです。

 原著が出たのは、2017年の8月16日。本文では、各分野の最新の研究などに言及しており、引用文献は2016年の研究までが掲載されています。網羅的に各分野に触れているので、各方面の知識を深めるための入門本としても使えると思います。

 本のテーマは「脳の仕組みから優れたUXを提供するにはどのように行えばよいか」です。前半は各分野の簡単な解説、後半は著者の実際の仕事の体験をバックグラウンドに、どういったアプローチや考え方が必要なのか触れています。

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 以下、目次です。

・前半:Part1 脳を理解する

Chapter 1 ゲーマーの脳に着目すべき理由
Chapter 2 脳に関する概要
Chapter 3 知覚
Chapter 4 記憶
Chapter 5 注意
Chapter 6 動機づけ
Chapter 7 情動
Chapter 8 学習原理
Chapter 9 脳を理解する

・後半:Part2 ゲームのためのUXフレームワーク

Chapter 10 ゲームユーザー体験
Chapter 11 ユーザビリティ
Chapter 12 エンゲージアビリティ
Chapter 13 デザイン思考
Chapter 14 ゲームのユーザー調査
Chapter 15 ゲームアナリティクス
Chapter 16 UXストラテジー
Chapter 17 おわりに

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 前半の「脳を理解する」は、各分野の基礎的な解説です。認知心理学などに興味があり、普段から情報に触れている人にはおなじみの話が網羅的に並べられています。特徴的なのは、現場で実務に携わり、情報をアップデートしている著者が、押さえておくべき最新の研究を多く書いていることです。現場の肌感として、どの研究が重視されているのかが伝わってきます。

 個人的には「Chapter 6 動機づけ」が面白かったです。本文には「動機づけの研究の歴史は浅く、学会での議論もまだ盛んな状態です」と書いてありましたが、一番実際のゲームの実装について考えることが多かったです。

 後半の「ゲームのためのUXフレームワーク」ですが、HowTo的な内容ではなく、考え方や視点を示すといった内容に感じました。読む前は、誤ったUIを正しいUIに変更する具体例が多いのかなと思っていましたが、もっと基礎的な原因や理由の話が多く、具体例は少なめに感じました。

 後半冒頭の「Chapter 10 ゲームユーザー体験」では、UXの歴史や、よくあるUX部門への誤解にページが割かれています。目次の「ゲームユーザー体験」が分かり難いので、少し補足しておきます。

 個人的になるほどなと思ったのは、Chapter 11、12で「ユーザビリティ」と「エンゲージアビリティ」を分けていたことです。日本語に訳すなら「使いやすさ」と「没頭しやすさ」といった感じでしょうか。

 「ユーザビリティ」は、「操作が分かりやすい」といったレベルの「入り口部分」です。「エンゲージアビリティ」は、ゲームに入った人がどう楽しむか、継続するか、課金するかといった部分になります。こちらは「離脱させない部分」というのがよさそうです。

 また、「Chapter 14」以降は、中規模以上の会社のUX部門のチームビルディングの視点で書かれていました。その部分は興味深くはあったのですが、私はなにせ1人でゲームを作っているので、直接利用するのは難しい情報だと感じました。

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 本書は、ゲームのUXに関わる神経科学、認知心理学などについて概観したい人、会社のUX部門創設について思案している人には参考になると思います。

 HowTo的な本ではなく、基礎的な情報に触れる本なので、銀の弾丸的な何かを期待している人向けではありません。

 というわけで、紹介がてら簡単な感想を書いてみました。

『ゲーマーズブレイン UXと神経科学におけるゲームデザインの原則』
https://amzn.to/2Jav8fg


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