098 「安易な"変態"という言葉を凌駕する想像力」が好き <下>

(↓前回、前々回からの続きです)

『ネオ・変態論』 -3-

5.
 改めて性癖の話に戻る。

 まず、日常の会話で、ただ単に順方向のエロに興味がある人・あるいは性欲が強い人に対して「変態だね~」という人がいるが、それは変態ではないと思う。
ただただノーマルに順方向にエロに興味があって、性欲が強かったりするだけだから「普通の人より順方向にエロに興味があるよね~」というのが正解だろう。

 あるAV男優さんが、変態性癖のある人に潜入取材した連載コラムがあり、それをたまに読んでいるのだが、登場する人たちの性癖は、ここでは例すら書けないぐらい飛び抜けたものばかりだ。
見ていて具合が悪くなる回もある。具合が悪くなっているということは、僕も変態ではなく、現段階でただただ順方向にエロいだけだ。
そのすべてが本当に予想もつかない方法でひらめいており、なんのてらいも無く行動に移されている。目的はただただ、自らの芽生えてしまった特殊な性への探究心・あるいはパートナーの満足のためだ。

 そして、自らの性的欲求を満たそうとする過程で、合意のない見ず知らずの他人に危害を加えたり、肉体的に危険に晒す、のは変態ではなくただの犯罪者である。

 例えば、Sの人がムチでMの人を叩く、というオーソドックスなSM行為にしても「いじめてほしいというMの人の願望があり、それを満たすためにムチで叩く」という、(合意の上の)奉仕の心から生まれている。
 あえて突然予想外にサディスティックな行為を加えたり、あえて行為をしないのも、「突然そういう裏切りをして、緩急をつけたらもっと喜ぶだろうな」という奉仕の気持ちが二重で働いているのではないだろうか。

 こう考えるとどっちがSでどっちがMなのかわかったもんじゃない。MのほうがSでSのほうがMなのではないか。
SMクラブでは、要求通りいじめてくれないと劣化の如くキレてクレームを入れるMの客もいるらしい。それに平謝りするS。考え始めると頭がクラクラする。

 件の連載を拝見する限り、変態の方の多くは、ただでさえアブノーマルで理解者の少ない世界ということもあるのか、たがいにいたわりあい需要と供給を明らかにして、性的欲求を満たしているように見える。
 自分と相手の特殊な性癖を、相互に理解し、相手が喜ぶ・あるいは互いの気持ちが盛り上がる→プレイが盛り上がる、ということを”想像”しあっている点で、変態の方はクリエイティビティが高い。
加えて、性癖の外にいる人には危害を加えないジェントルを持っている。そういった、とんでもないバランスの元に性癖が成り立っているのだ。
こういった方々にこそ、「変態」という言葉は使うべきだろう。(あえて”べき”と言わせてもらう)

 さあ、ここで改めてあのコールセンターに電話をかけてきた男に立ち返ると、あんなやつは変態の風上にも置けないし、変態という言葉はもったいなさすぎる、そう称するには100000万年早い存在であるということがおわかり頂けるだろう。
 見ず知らずの人の仕事中に電話をかけてきて、業務を妨害するのみならず、変態行為をしてやろうとして選んだ言葉が”何色のパンツ履いてるの?”とは失笑ものである。失笑すらもったいない。
迷惑な上に想像力がなくつまらないという、最低の男である。
たぶん普通に趣味の話とかしてもつまらない。自称・変態界から足を洗って、鹿の生態から勉強をしてほしいところである。

6.
 ここまで何故”何色のパンツ履いてるの?”という発言がムカつくのか、ということを題材に、変態という言葉について拙いながらも論じてきた。

 要するに、性的な意味での本物の変態は、概ね相互理解とジェントルと共にあると思っている。

 そして性的な局面以外では、安易に”変態”という言葉を使わず、
 形骸化した枕詞的な”変態”という言葉を裏切る、レッテル張りから自由な発想が、想像力を生み、クリエイティビティで楽しい空間を生むのではないか、と僕は思っている。

 僕の周りの友達は、クリエイティブに生きようとしているかどうかはわからないが、予想もつかないバランスで自由な発言をして僕を笑わせて驚かせてくれる人ばかりである。
逆に言えば、”変態”と思われようとする、不自然なてらいが不自由を生み、その人の本来の良さ、”変態”という言葉を凌駕する想像力・発想を奪ってしまうようにも思う。

 どうでもいいのだが、もしも自分が犯罪で逮捕されたら「容疑者は過去にこんなことも…」ってこの文章がニュースで取り上げられそうだなあ。
それも、中身もろくに見ようとしないでのレッテル張りだぞ!!!!!!だからこの手錠を外してくれ!!!!!!!!!!!!!離せ!!!!!!!!!!!!!!!!!!頼む!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

<完>

うれしいです。