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埋められない、替わりでは。と彼女は言った。

友人(女)が失恋をした。
私も何度かあったことのある人だった。

彼女にしては、珍しく
長く続いて彼女がちゃんと好きでいた彼だった。

夜遊び、浮気、男遊び
3つが揃い踏みしたような女だった彼女。
彼に出会うまで私はそんな彼女しかしらなかった。

「遊べるときに遊ばなきゃ」
「女なんて、若くなきゃ価値がないんだよ男には」
そんなことを淡々と平気で言う女だった。

彼に出会って、私は見たことのない彼女に
たくさん出会った。

好きな人のために服を選ぶ彼女を
好きな人のためにメイクを少しずつ変える彼女を
男と遊びに行くときに連絡をいれる彼女を
絶対に終電で帰るようにする彼女を
私は初めて見た。

だから、別れたと聞いたとき
なんの関わりもないはずの私なのに、
一瞬彼を憎んだ。

以前の彼女なら、考えられないようなことを
お前のためにやっていたのに。
以前の彼女なら、ばかにしていたようなことを
お前のためにやっていたのに。と。

もちろんそんなことは彼の知ったこっちゃない
私の立ち入ることじゃないことなどわかっていても。

別れた次の日の夜、彼女は電話で
私にそれを伝えてきた。

「わたし、すごく、好きになったと思わない?」

彼女の恋愛遍歴を知っている私に
彼女は問いかけて、私は

「うん。頑張ってたよ」

と答えた。

電話のあと1週間ほどして、彼女に会った。
メイクも服も以前のように濃くはなく
かといって
彼に合わせていた雰囲気のものでもなかった。

「ほんとにね、好きだったんだよ、私。」
へへっと笑いながら、彼女は言った。

「きっともっといい人、いるよ。
恋愛ってうまくいくことばかりじゃないし。
前の貴女みたいに。」
そう言うのが精一杯だった。

彼女の苦しみや切なさは私には理解できない
安易に「わかるよ」「辛いね」などと言えるほど
私は恋愛経験も人生経験もしていない。

「替わりがね、いないの。」
ポツリともらしたひとことだったけれど
衝撃だった。

遊び歩くのが当たり前
彼氏がいても男と呑みに行くのは当たり前
だめだったら替わりがいる
そんな女だったのに。

「替わりがね、いないの。」
そんな言葉を言うような女じゃなかったのに。

男によって変わるのだな、と
感心しつつ
つくづく女は身勝手だな、と思ってしまった。

言い方がよくないが
勝手に振り回されておいて
勝手に振り回しておいて
いざとなったら
「替わりがいない」だなんて。

それでも
恋愛の穴は恋愛でなければ
友情の穴は友情でなければ
特定の感情や特定のぽっかりと空いた何かは
求めているものでなければ埋まらないんだろうな

彼女の話をききながら、考えた。

きっと彼女の心のなかにはまだ
彼のスペースがあって
そこには誰もはまれない。
柔軟にそのスペースは動いてくれないのだ。
まるでカタヌキのようにパズルのように
「替わりじゃ、埋まらない」
スペースがきっとあるのだな、と思う。

そんな、女の子の話。

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