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81.進化するインド音楽の現在 = Thaikkudam Bridge, Project MishraM

インド音楽といえば思い浮かべるものは大きく二つ、インド古典音楽とボリウッド(映画音楽)。どちらも他の地域とは異なる独自の音世界を持っています。今回はその2つの音楽の進化系、2つのバンドを紹介します。

Thaikkudam Bridge

まずはボリウッドから。Thaikkudam Bridgeです。

ボリウッド、インド映画界において最大の作曲家、A.R.rahmanの曲をメドレーでカバー。Rahman本人も客席にいます。Behindwood Gold Music Awardという音楽賞の授賞式。Rahmanの偉業をたたえるコーナーのようです。いわゆるボリウッドサウンドにハードロック、メタルなエッジも加えながら、西洋音楽、黒人のブルースがルーツのロックの進化系であるメタルの表現技法も飲み込みつつ、インド国内ではなじみが深いRahmanの大ヒット曲を再構築、演奏していきます。めくるめく場面展開、10分ほどある長尺の演奏ですがクライマックスの連続です。合唱隊、そしてボーカルの「声の力」もすごい。余談ですが、動画内にCMが入ってくる(動画内にせり出してくる)のもインド独特ですね、これなら飛ばされないし合理的といえば合理的。

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Thaikkudam Bridgeは2013年にバイオリン奏者であり映画音楽家、シンガーであるGovind Menonを中心に結成されました。映画作曲家としても受賞歴がある人で、ボリウッドサウンドのまさにプロフェッショナル。インドやパキスタンは映画業界と音楽業界が近いというか、映画業界が巨大で、ヒット曲は映画から生まれることが多いので必然的に映像系、映画系のミュージシャンが多くなっています。それもあって、YouTubeとは親和性が高い、さまざまなMVや高品質なライブ映像が上がっている印象です。

話を戻しましょう。Thaikkudam Bridgeはプロの作曲家を中心に結成され、メンバーが10名を超える大所帯。日本だとクレイジーケンバンド米米CLUBのようなイメージでしょうか。ボーカルも複数いますし、伝統楽器の演奏者も多くいます。主に活動しているのは南部のケララ州で、ケララ州のローカルTV局(インドは広いし、各地で文化も言語が違う)であるKappa TVの音楽番組「Music Mojo」で人気を博します。また、先述の通り映像にも強い人脈を持っているので高品質のMVやライブ映像をどんどんYouTubeにアップし、YouTubeでも人気者に。SNSとTVから出てきたバンドです。

音楽性は幅広く、ファンキーな曲からジャジーな曲、伝統音楽的な曲からメタリックな曲まで。オリジナル曲でファンキーな曲もどうぞ。

こちらも1曲目と同じ音楽祭でのライブ映像。Rahmanもご満悦。曲名はSAALAIKAL(道)という曲で、スタジオバージョンではDream TheaterJodan Rudessがゲスト参加、映像には出てきませんがキーボードソロを弾きまくっています。

なお、「ボリウッドサウンド」と言ってきましたが、厳密には彼らは南部のバンド、タミル語圏で活躍しているし、Govinda氏もタミル語映画向けの作曲家だったのでコリウッドサウンドですね。大きく言えばインドは北と南で音楽や文化が異なり、北がボリウッド(中心地がボンベイ)、音楽はヒンドゥスターニー音楽。南はコリウッド(中心地はチェンナイのコタンバッカム)、音楽はカーナティック音楽。彼らは南部のバンドです。南部の方がメロディや曲の型がかっちりしている。北部の方がややインプロビゼーション主体、といった音楽的な差異がある様子。「ボリウッドサウンド」と「コリウッドサウンド」の差までは分かりませんが、なんとなくコリウッドサウンド(タミル語圏)の方がメロディアスな印象があったり。

彼らはかなりメタリックな側面も持っています。メタリックな曲も1曲紹介して、Thaikkudam Bridgeのパートを終わりにしましょう。

Project MishraM

さて、映画音楽(ボリウッド・コリウッドサウンド)の次は、伝統音楽との融合を見ていきましょう、こちらも南部のバンド。なのでカーナティック音楽を進化させているバンド、Project MishraMです。インドのITの中心地、バンガロールで活動するバンドで、MishraMの意味は「Mix」。その名の通りさまざまな音楽要素をミックスしたバンドで、ベースにカーナティック音楽がありつつ世界中のさまざまな音楽を取り入れています。まずは1曲どうぞ。

やや緩めのレゲエ調からスタート、人を食ったようなボーカル。そのまま行くのかと思いきや口ドラム的な、カーナティック音楽的な早口のボーカルにDjent的なザクザクと切り刻むリフが絡み合う不思議な音世界に。バックでは笛の音が鳴り響きます。さまざまな音楽をフランケンシュタインのように取り入れてながら、ベースにはカーナティック音楽という幹が通っています。

彼らは自分たちのことを「プログレッシヴ・カーナティック・フュージョン・バンド」と位置付けています。確かに、プログレッシブ”ロック”ではなく、ロックも取り込んだプログレッシブ・カーナティック音楽です。ロックはブルースからスタートしたUS、そしてそれを再解釈したUKの発明ですからね。その後、世界中でロックムーブメントが起きていますが、後の時代になるにつれ、また、非英語圏、US、UKの音楽的影響から遠い地域になるにつれてより自由に自国の音楽にさまざまな音楽的要素を取り入れています。インドはそもそも巨大な音楽文化があり、プロフェッショナルな音楽家も多い地域なので斬新なバンドが多い印象です。

もう1曲、こちらはカーナティック音楽の古典をメタル風にカバーした曲をどうぞ。

他の地域では生み出せない、独特で強烈な音像です。

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いいビジュアルですね。音楽の探究者といった佇まいです。1stアルバム「Meso」を2021年にリリース。こちらも素晴らしい内容です。


今回メインとなるバンドはこの2組ですが、他にも「インドならでは」のバンドを3組紹介しましょう。

Pineapple Express

Pineapple Expressは2014年にデビューEPを発表したこちらもバンガロールのバンド。キーボード奏者のYogeendra Hariprasadを中心に結成された8人組のバンドです。人数が多いですね。Project MishraMといいTahikkudam Bridgeといい大人数バンドですが、こういうのがトレンドなんでしょうか。Nu Metal的な音像、ラップメタルとヒンディー音楽を融合しています。曲によって表情がぜんぜん変わるバンドで、他の曲もなかなか面白い。ただ、まだEPしか出していなくてアルバムを出していません。アルバムがどうなるか楽しみですね。

こういうバンドに共通しているのが歌が上手さ。きちんと伝統音楽の歌手としても成り立つ歌唱力を持っています。インドは歌が上手いボーカルが多い。音楽的にはオーソドックスなハードロックでインド色はあまりありませんが、Girish and The Chronicles(GATC)もボーカルの歌のうまさで話題になりました。興味のある方はPVをどうぞ

Bloodywood

当noteではお馴染みのBloodywood。第一回の記事でも取り上げた記念すべきバンドです。ボリウッドサウンドとメタル、メタルコアの融合。この曲は何度聴いてもテンションが上がります。「ここ数年で一番衝撃を受けた曲を1曲あげろ」と言われたらこの曲を選びます。

Sitar Metal

こちらも当noteでは何度か取り上げているアーティスト。完全に伝統音楽側、シタール奏者として活動しているRishabh Seenを中心としたプロジェクト。もともとシタールは早弾きだし、タブラは高速ブラストビートだし、メタル的な表現と相性がいいんですよね。むしろ、プログメタルや超絶早引きはインド音楽をロックに取り入れた形式とも言える。ラヴィ・シャンカールが1967年にmonterey pop festivalでライブを行い、超絶高速演奏による酩酊、真のサイケデリアをヒッピームーブメントの真っただ中でぶちかましていますから、その影響がサイケデリックに流れ、ハードロックが生まれ(ブラック・サバスもサイケデリックブルースの流れで出てきた)、そしてメタルに繋がっていったことを考えるとそもそも源流がインドとも言える。親和性が高く見事に融合しています。

以上、インド伝統音楽を現代にリバイバル、再構築している5組のアーティストを取り上げました。他に面白い流れとしてはVedic Metalと言われる「ヒンドゥー教の神話を取り上げたメタルバンド」の一群がいます。シンガポールのRudraが祖とされていますが、ヒンドゥー教の本拠地たるインドにもDemonic resurrectionThe Down Trrodenceといったバンドたちが活躍中。こちらはブラック/デスメタルの色が強く、インド伝統音楽ベースというよりはメタルが中心に在り、そこに色付けとしてインド伝統音楽が加えられている感じなので今回は取り上げませんでしたが、どれも独特の音像を持ったバンドです。

それでは良いミュージックライフを。

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