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押韻論

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日本語の押韻の基礎的な考察や研究
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記事一覧

日本のHIPHOPをグローバルなレベルにするためには

 こんばんは。Sagishiです。  今回は「日本のHIPHOPをグローバルなレベルにするためには」、何を意識しないといけないのか、ということについて、自身の備忘録も兼ねて書いていこうと思います。  あえてグローバルと書いてはいますが、要するに「USで通用するためには」という意味です。わたしは、現在の日本のHIPHOPはある分かれ道に立っているのではないか、と若干ながら感じています。  それは、「日本人だけに通用する道を行くのか」と「USにも通用する道に行くのか」という

川原繁人『言語学的ラップの世界』にツッコミを入れまくる記事

 こんばんは。Sagishiです。  先月、川原繁人さんの『言語学的ラップの世界』という本が出版されたので読んでみました、という記事です。  結論からいえば、この本には著者の推測・思い込みによる記述が多数含まれており、科学的な根拠がなく、妥当性に疑義があるような内容、また曖昧な表現が散見されます。  今回の記事では、わたし自身の考えの備忘録も兼ねて、色々とツッコミを入れていきます。舌鋒鋭い場面もあるかと思いますが、とはいえラップをまともに研究題材にしたことがある学者は貴

日本語の押韻論:「複数音制約」について

 こんばんは。Sagishiです。  今回は日本語の押韻にとって特徴的な問題である、「複数音制約」について書いていきます。 1 複数音制約 日本語は、複数音で1つのアクセント(トーン)を構成する言語です。最低でも1音節2モーラ存在しないと、日本語は基礎的なアクセントを構成できません。  「複数音で1つのアクセントを構成する言語」というのは、現在わたしが情報として知る限りだと、日本語の他には韓国語・慶尚道方言しかない状態です。  英語やイタリア語やフランス語のストレス音

日本語の超重音節と押韻論

 こんばんは。Sagishiです。  今回は新しい押韻論の構築にむけて、現在導入中の理論をまとめていきたいと思います。 1.日本語の超重音節1-1.CCVG/CCGVG  これまでわたしは「日本語には超重音節(3モーラ音節)はない」という前提で押韻理論を組み立ててきましたが、どうもあるという前提で組み立てたほうが良さそうだと分かってきました。  その理論的証拠としては、単語の句音調を確認することで分かります。  「白菜」という単語の句音調は「サ」に起こっています。こ

対照押韻論:フランス語の導入

 こんばんは。Sagishiです。  今回は、フランス語のrhymeスタイルを少し勉強したので、それのまとめの記事になります。 1 フランス語のrhymeタイプ フランス語のrhymeタイプを調べて驚きましたが、いわゆる「完全韻」的な価値観を持っていないことが分かりました。  以下が、フランス語のrhymeタイプです。  いわゆる完全韻/不完全韻的なrhymeタイプの区分けではないのが分かります。特に英語のrhymeタイプと異なるのは、エコー(同音韻)を許容しているこ

日本語の完全韻の定義(2023年暫定版)

 こんばんは。Sagishiです。  今回は、日本語の完全韻(Perfect rhyme)について、その定義をまとめる記事を書きます。2023年の暫定版になります。 1 表記法の説明 日本語の完全韻(Perfect rhyme)の説明をするまえに、日本語音声の表記法について解説をします。  まず子音等の表記は、以下の独自の表記法に従います。既存のIPA(国際音声記号)に複数の課題があるため、独自の表記法を構築しました。  また、音節主音(音節核を持つ)母音には、以下の

日本語の詩歌の脚韻はどのようなスタイルにすれば良いのか-翻訳を通して考える-

 こんばんは。Sagishiです。  今回は、詩の邦訳の脚韻について書いていきます。  日本の詩歌の翻訳をみると、なかなか原詩通りにrhymeをしているものが少ないです。しかし、その希少なrhymeを取り入れている翻訳も、どことなくぎこちなさがあるようなものも多いです。  日本の詩歌文学においては、まだrhymeというものが浸透しておらず、技術的にどのように扱えば良いのか、どのようなrhymeをすれば良くなるのか、自然になるのかが、あまり周知されていないと思います。

対照押韻論:新しい英語の「完全韻」

 こんばんは。Sagishiです。  今回は、『英語の完全韻』について書いていきます。 ◆英語ライムタイプの更新 歴史的に、英語のライムタイプは「完全韻」と「不完全韻」の2種別に分けられます。しかし、HIPHOP以後の現代においては「不完全韻」にカテゴライズされている脚韻がスタンダードな位置を占めています。  よって、本記事では「完全韻」と「不完全韻」の定義を更新したうえで、新しく「標準韻」というライムタイプを追加することを提案します。これにより、ライムタイプを現代的で

対照押韻論:イタリア語中心の分析

 こんばんは。Sagishiです。  今回の記事は、次期・日本語の「完全韻」構想を書いていきます。2021年にはじめて「完全韻」の定義について記事を書きましたが、時間を経るにつれ、自分のなかでも色々考えが変わってきました。 1 イタリア語の脚韻1-1 システム  「イタリア語」の押韻スタイルを調査して、面白いことが分かった。  ダンテのテルツァ・リーマは「1行11音節で、三位一体の脚韻手法」だとは聞くが、どういう押韻スタイルなのかは理解していなかった。  イタリア語

詩型論:日本語の押韻詩の詩型に関する考察

 こんばんは。Sagishiです。  いよいよ押韻詩の詩型に関する考察をしていきたいと思います。 1 詩行の音数 最初から残念なお知らせですが、現在のわたしは、現代日本語東京方言を使った詩歌で、詩の一行の音数を決めることは事実上不可能だと考えています。理由を以下に列挙します。 1-1 韻律単位の問題  現代日本語東京方言は、モーラリズムの言語ですが、話中では軽音節(1モーラ音節)と重音節(2モーラ音節)が任意のタイミングで出現します。  現代日本語東京方言の自然な日

日本語の押韻論:川原繁人の「日本語のストレス」論と『認知加重説』の関係

 こんばんは。Sagishiです。  今回は、川原繁人ほかの論文である『日本語の韻律特性と下顎の開き』(2014年)を紹介します。 1 「日本語のストレス」について 研究論文『日本語の韻律特性と下顎の開き』は、日本語にストレスがあるかどうかを実証的に確認しようとする研究です。  英語はストレス音節と下顎の開きに関係があるため、日本語でも同様のことがいえないか、日本語にもストレスを確認することができないか、という視座に立った研究です。  論文を読むと、被験者(調査サンプ

Rakim『Guess Who's Back』ライムスキーム分析1

 基礎的なライムスキーム分析から、見えることもある。1verseだけ。  よくよく見てみると、flash this[flˈæʃ.ðís]とか、中間の非ストレス音節がないように見える。前回の記事に書いたAEの例っぽく見える。  あと、floors just stop[flˈɔɚz.dʒə.stάp]のjustの発音とかどうなっているのか正直よく分からんw  Allah[ˈæ.lə]とdollar[dά.lɚ]は、日本人の音感だといけてるように感じるけど、前者にはr音ないし

日本語の押韻論:長短韻の問題、リズム単位(等時性)の重要性

 こんばんは。Sagishiです。  今日は、わたしが日本語の不完全韻の1つとして独自にカテゴライズしている「長短韻」に、問題があることに気づいたので記事にします。 1 日本語の不完全韻 わたしは日本語の不完全韻には「重音節韻」「長短韻」「撥音韻」、またややイレギュラーなスタイルとして「語感踏み」があると考えています。  特に「重音節韻」と「長短韻」は、日本語ラップにおいて広く実践的に使われている押韻形式ですが、これまで明確に定義化がされたことがありませんでした。これを

日本語の押韻論:『語感踏み』の追加検証(句両端の認知加重)

 こんばんは。Sagishiです。  前回書いた「語感踏み」の記事の、句両端の認知加重についての記事が、かなり自分的に良い線いっているので、追加的検証をしようと思います。 1 前回のおさらい 提案内容としては、音声学の概念で使われる「アクセント句(Accent Phrase=AP)」や「イントネーション句(Intonation Phrase=IP)」を押韻論に適用しつつ、句の両端にあたる音は認知的に重要が高くなる「認知加重」が起きているかもしれない、というものでした。