愛犬キャット物語 ③ 〜 お留守番 〜
キャットという名の大型犬の物語である。
姉貴の結婚式にグアムへ家族総出で行くことになった。
姉貴はアメリカの大学を卒業し、そのままラスベガスで働いていた。そしてそこで出会ったジャックという青年と式を挙げることになったのだ。
僕はその頃、徳島の吉野川上流でラフティングのガイドをしている。徳島の実家から両親を連れ、高速バスで関西国際空港までやってきた。
弟は大学生で、神戸に住んでおり、僕らは関空で合流する。
僕と弟は海外への旅行を、何度か経験していたが、親父とオカンは初めての出国であった。
グアムの空港に降り立ち、到着ゲートの入国審査官に
「どこのホテルに泊まりますか?」
と聞かれた親父は
「アイとジャックのホテル。ほなけん、ジャックにな、聞いたら分かるけん」
と阿波弁で、たたみかけるように喋る。多少の日本語を理解している入国審査官もお手上げであった。
空港からタクシーでホテルに行く時も親父は
「アイとジャックのな、ホテルにな、行ってくれ」
とタクシードライバーを困らせた。外国人を見ると何故か彼は、
「全員がジャックの知り合い」
と勘違いをしている節がある。
話は遡るが、姉貴が外国人の彼を徳島に連れてきて、初めて親父に会わした時である。親父は、
「バースをな、知っとるか?」
と阪神タイガースのランディ・バースを、アメリカ人が知らないわけがないと怒っていたらしい。
話を戻そう、結婚式の前夜、ホテルのレストランで両家が向かいあって食事をしていた。
家族の紹介で英語と日本語が混じる中、オカンの順番になった。
乾杯のビールを一口しか飲んでいないのに、すでに真っ赤な顔をしたオカンは、
「ジャックさん、アイを宜しく頼みます」
と、とてもシンプルな挨拶をした。
その後の親父の挨拶は、グタグダで通訳のアナウンスが止まっても、彼は
「徳島の酒と焼酎について」
と纏まらない話を喋り続ける。とても間抜けなスピーチをしていた。
まあ、相手方の両親が何を喋ったかなど、飲んでいたので、全然覚えていないが、楽しい結婚式であった。
親父とオカンを徳島の実家まで送り届け、お留守番をしてくれたお婆さんとキャットに声をかける。お婆さんは居間を綺麗に掃除して、なんと晩御飯も用意してくれていた。
そうして姉貴の結婚式を無事に終えた両親は、
「あ〜、疲れたー」
と初めての海外旅行を終えた疲労の中に何とも言えぬ達成感があり、それを見ているキャットは嬉しそうにシッポを振っていた。
完
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