夜の海を、酒片手に眺める
3月の上旬、ちょっと野暮用があり2〜3日実家へ帰っていた。
実家は山と海に囲まれた…なんて言うとどこぞのラノベが始まりそうな文句ではあるが、実際に私の実家のある地域は山と海に囲まれた場所に位置するがゆえに、この文句はさほど見当はずれでもない。
実家に着いたその日、夜も耽ってそろそろ10時…という頃、私はふと思い立って母に「ちょっと散歩に行ってくる」と言った。
「え!?今から!?やめとき!!!」
とそれなりの剣幕で反対されたが(当たり前だけど)、いやまぁ…大人でございますし…子どもの頃にはほとんど見たことのない「夜も耽った故郷」ってやつを堪能したかったんだよ。ほんとに。
「まぁ…ちょっと行ってくるよ」と母に残し、私はコートを着込んで散歩へと出発した。
「どこに行こうか」なんて全く考えてなかったけれど、前回実家に帰った時、昼頃に行った海岸の記憶が脳裏をよぎった。
「夜だけど…ちょっと海の方に行ってみるか」とプランを立て、私は海方面へと歩き始めたのであった。
道中、「海を見ながらの酒もオツなはずだ」的思想のもと、薬局でチューハイのロング缶を買い込んだ。
ロング缶の栓を開け、ちょっとだけ口に含んで胃に流し込む。
__夜の故郷はなんだか不思議だった。
私には盗んだバイクで走り出す友達もいなかったし、夜の校舎の窓ガラスを壊して回る友達もいなかった。
それゆえに(それゆえに?)、高校3年までの間に夜の街を徘徊することなんてほぼほぼなく、夜の街を移動するといえば父母の運転する車に揺られるぐらいのもんだった。
昼の街は知ってるけど、なんだか夜の街は幻想世界に迷い込んだようでワクワクした。
もうすでに冬からちょっと抜け出して、春特有の柔らかな空気が私を包んでいた。
海までは家から歩いておよそ15分〜20分ほど。途中、ちょっと寄り道やわざと遠回りをしながら行ったので30分近くかかって到着した。
「海」と言っても、到着した「そこ」は浜辺ではない。
いや…うん…あの〜…そうね、なんか言葉で説明するのが難しいんですけど…。
大きな階段みたいに幾重もの段差があって、その下に堤防みたいな出っ張りがあり、その正面に海がある…的な感じだ!!
入り口から階段形式で下に降りていくシステムで、高低差はおよそ10メートルぐらいだろうか。
その場所から200メートルほど先には文字通り浜辺があるのだが、そこまでいくのはちょっとしんどく、さらには今いる場所が隠れ家的な雰囲気がして私の好みにあっているため、とりあえずそこの上から2段目ぐらいに腰をおろして海を眺めた。
本当はもうちょっと海に近づきたかったのだが、なにぶん周囲に明かりがほとんどなくほぼ暗闇で、しかも波の音が予想以上に怖かったため、「うん…この辺で勘弁してください」と言わんばかりに上の方で腰をおろした次第である。
ロング缶の中身はあと3分の1ほどに減っていた。ここに来るまでに結構飲んでしまった。
夜の海を眺めながら…私は何か物思いに耽ろうと思って、頭をフル回転させた。
昔の友達が今どうしてるかとか、昔好きだった人がどうなったか…とか。
自分の将来のこととか、今までこんなことしでかしちゃったなぁ…とか。
なんかそういうアニメの主人公みたいなことを考えようと思ったけど、3月の海はまだ寒く、さらには波の音がざばーんざばーんとかなりの音量で耳をつんざいてきたために、そんな妄想チックなことを考えるどころではなかった。
あと家出る前にビールを3本ぐらい飲んでたのもあってそれなりに酔ってたし。
20分ぐらいゆっくりしようと思って意気込んでいたものの、結局10分いないぐらいで早々に海から引き上げた。
「まぁ、こういうのもアリだ」と納得させつつ、カラになったロング缶を持って家路についたのであった。
おーわりっ!
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