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「周年イヤー」はちょっといやーん

ラジオを聴いていたとき,きゃりーぱみゅぱみゅが「10周年イヤーを迎えました」と言ってて「周年」に「イヤー」をくっつけてたことに驚きました。でも,日々ラジオを聴いているとけっこう「〜周年イヤー」って出てくるんですよね。そこで「xx周年イヤー」という表現をいろんな観点から考えてみました。

利用者の範囲がけっこう広い

ウェブで見つけた例をいくつかあげます。

最初のきゃりーもそうですが,芸能関係ばかりです。もしや業界の偏り?と思ったのですが,ac.jpで検索したら大学にもありました。

ちなみに企業も出てきますし,なんなら国立指定公園でも出てきます。

業界用語漏れ出系?

大学でも使われていることは予想外でしたが,調べると広告配信関係のサービスがヒットしました。どうも「周年イヤー」という言葉そのものは広告業界で使われていて,それが広まったように見えます。ただ,数字+周年イヤーではどうかちょっと確信持てませんが。

ちなみにこういうもとは特定の業界で使われていたが一般に広まって使われていった言葉を「業界用語漏れ出系」と言ったりします。Twitterでは今でも2014年のツイートまで遡れますが,それより前からあったっぽい使われ方です。

いつからあるのか?

歴史も気になるところなので,国デジで調べてみたところ,1984年の用例が見つかりました。

これらは雑誌ですが,新聞だと2005年の読売新聞の記事が見つかります。

各地区の団員長や役員ら約百三十人が出席した。連盟長の麻生渡知事が「八十年の歴史を振り返り、新たな歴史をつくっていく決意を込めて、八十周年イヤーのオープニングを宣言します」とあいさつ。その後、会員らによる活動報告が行われた。

「ボーイスカウト県連が80年式典=福岡」『読売新聞』2005年1月23日 朝刊

もっともこれは記事本文というより挨拶をそのまま書き取ったものなので,新聞記事に使われているというとちょっと違和感があります。

探してみると投書欄にも出てきます。

私が49歳になった先月の誕生日は、82歳の母の「母親歴50周年イヤー」の始まりだ。

「(声)母親歴50年表彰、娘の私から 【大阪】」『朝日新聞』2015年12月05日 朝刊

このように一般でも2005年には使われていることを考えると,業界用語漏れ出系とするにはちょっと厳しそうな感じもあります。

周年イヤーへの違和感(いやー感)

そもそもなぜ「xx周年イヤー」を使うのでしょうか。私の語感では「xx周年イヤー」って「年」と「イヤー」が重複しているんでいやーな感じがあるんですよね(世の中に重複表現はたくさんありますが)。なので「2023年に○○はデビュー10周年を迎えました」という表現にまったく違和感を覚えません。もちろんイヤーを使う人も違和感がないのかもしれませんがイヤーを付ける方がしっくり来るということですから,原因はあるでしょう。

ひとつに「周」の字があるので「デビュー10周年を迎えました」と言うと20年という期間全体を指しそうで「今年」っぽさがないというのが浮かびました。例えば「今年でデビュー10年間になります」はけっこう違和感があると思います。それと同じように「10周年」は期間全体を指しているっぽいと感じた,または「10周年イヤー」の方が特定性が高いと感じた,とかでしょうか。なにせ私が使わない方の人間なのではっきりと分かりませんが。

「周年イヤー」が好まれるパターン

「周年イヤー」の使われ方を見ると,ある程度パターン化出来るかなと思い,いろいろな表現を後続させて比べてみました。

まずGoogle検索を使って「10周年」+「を迎え/に突入/となった/の始まり/を飾る」で比較してみました。上2行はヒット件数,イヤー比率は「xx周年」と「xx周年イヤー」を比べたときの「xx周年イヤー」の占める割合,構成比は「を迎え/に突入/となった/の始まり/を飾る」の中での割合です。

これを見ると,「に突入/の始まり」では「周年」に比べ「周年イヤー」を好む傾向がある(ただしそれでも「周年」のほうが多い)ことが分かります。ただ,「周年イヤー」の中で比べると「を飾る」が多いです。

もう少し単純に助詞だけ比較してみます。この場合はGoogleよりももっと絞り込まれたものの方がいいでしょうから,日経BPでのヒット数を比較します。ちなみに裸での検索結果は「周年」(周年イヤーを除く)が8135件,「周年イヤー」が68件で,「イヤー比率」は0.008です。

これを見ると,「周年イヤー」の方を好みがちなのは「は」です。それでも2件なのですが。それに対して助詞の間を比べると「を」の比率が高く,「に」「の」が続き,「は」の比率は低いです。

では「周年イヤーを」が多いのは何によるものでしょうか。「周年イヤーを」に後続する表現を数えると,「迎える」がかなり多いです(「迎える」と「迎えた」のように活用の区別しない)。

もっとも,同じ表現を「周年」で比較すると,「迎える」は圧倒的に多く,その影響を伺わせます。なお,「祝う」が多いのがちょっと特徴的ですね。

ちなみに「周年イヤー」に後続しないので表には入っていませんが「周年を記念」が840件あり,大きな割合を占めています。完全には網羅できていませんが,目立った後続表現を集めて集計してみました。

だいぶ余談が長くなりましたが,まとめると,「周年イヤー」が好むのは「に突入」と「の始まり」で,「迎える」はたしかに多いのだけど,これは「周年」の特性に引きずられたと考えていいでしょう。

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