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『話が通じない相手と話をする方法』会話/の/哲学

面白い。

本書では、会話の方法論を難易度別に紹介しています。一番難しいのはイデオローグとの会話です。

イデオローグ。それは、なんというかゲームの裏ボスのような存在です。

『話が通じない相手と話をする方法』著者は、ピーター・ボゴジアン+ジェームズ・リンゼイです。

後半部分の7章から考えます。人間の心理は、信念によって揺るがない。この原因は、ほとんど価値観によっている。

価値観は道徳的な面では6種類。私が整理したものが網掛けの部分です。

ケア、公正、忠誠、権威、神聖、自由

(この場合のケアは、危害とペアになる概念)

主義者は、どのような価値観に訴えるか。

リベラル主義∶3つ
(ケア、公正、自由)

保守主義∶全部
(リベラル主義と異なる道徳を重視)

リバタリアン∶ただ1つ(自由のみ)

トランプを挙げてしまいますが、彼の場合は極論も多いが、幅広い論点を扱っている。接点はあります。納得はしませんが。

近年では保守主義の政党が強い事と、リベラル主義は動員力と問題意識の切実さで負けてしまう。例えば経済的なものです。(経済問題はページ下に、注1)

リバタリアンは、自由主義の過激派で政府機能の縮小(夜警国家)する過剰な民営化路線です。

著者はリベラルをキャンセルカルチャーとして批判し、リバタリアンを過激派として非難する傾向があります。やや保守的なイデオロギーがある。

本書の帯で、哲学者の戸田山さんが指摘しているのは、著者の思想的な傾向であって、例えば現代思想家バトラーのジェンダー理論を批判しているように思えるからです。

他の論点をひとつ挙げます。私の体験として、AIとの会話で出現したパターンです。

アメリカのリベラリズムの衰退についての質問でした。網掛けが会話部分です。

私∶ロールズの正義は、今日では否定される。

AI∶それは面白い言説ですね~。さて、詳しく説明していただけますでしょうか。

〈会話A〉

こんな感じだったように記憶しています。

ロールズの正義については、包括的な「合意」が現代ではどのように成立するのかという課題はあるものの、否定されるとまでは言えない。(ロールズは、注2)

ここでAIは「私」に、極めて慎重な態度をとった。つまり、話が通じない相手と話をした。

最後に、この本の著者との会話を。

私∶この本の主張は、イデオローグとして否定される。

著者∶それは面白い言説ですね~。さて、詳しく説明していただけますでしょうか。

〈会話B〉

・・・会話は続く。

著者にとってイデオローグとは私の事かもしれない。(本書の主張のひとつに、会話の中で不明な点は聞くべしがあった。)

あらゆるイデオロギーは、その真偽は保留される。(倫理、道徳観、普遍性)

これは、イデオローグとの「成功した会話」ですら例外では無い。

会話それ自体。会話にひそむ本当の意図としてイデオロギーとは、一体どういうものなのだろうか。

本書の裏テーマ、ソフトなイデオローグには注意です。このあたりを巡ってゴールの無い会話が、哲学的です。

完。

・・・・・・・・・・・

以下、注。

(注1∶経済問題は、国内政治を考えた場合は古い産業の保護=脱競争が良く、国家はグローバルな領域にあるので生産性が重要で、この場合は脱保護=競争になります。競争力に相関する国力と為替うんぬんによって、安い賃金は、国家の転落になってしてしまう。

ニューヨークのラーメンセットは五千円なり。内政問題は、必ず外交問題になる。論点は1つではなく2つが大事で、できれば6つ)

(注2∶ロールズについては、本音では重視したいのです。『正義論』では、公正とケアについて。論点は2つ。いわゆる正義の原理です。

発展させた『政治的リベラリズム』の包括的リベラリズムでは社会の構成員の合意に限定する。プロセスとして会話を重視するタイプです。本書の主旨では、幅広い価値観の道徳を記述していない場合は、保守主義に敗北するはずです。

この場合では、多様性つまり社会が複雑になりハッシュタグのような論点が増えれば増えるほど、問題が狭い領域に限定され、保守主義が勝ってしまうはず。結果に納得はしません)

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