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NFT(ERC721)はコンテンツ配信に向いているか?

このイベントで伝えたい内容ではあるのだが、やや説明が必要なことと結論まで聞かないとネガティブな印象が残ってしまう可能性があるため、ここでまとめておく。

NFTがデジタルコンテンツ配信に向いているとされる理由

NFTすなわちノン・ファンジブル・トークンは、デジタルデータに対して代替不可能性を提供する。

代替不可能性と言われてもピンとこないと思う。

逆にデジタルの時代、コンテンツ屋が何に困ったかを考えてみてほしい。

恐らく、コピーが容易で、かつ、そのコピーがオリジナルと同一で見分けがつかないということが最大の問題だったはずだ。その性質こそが代替可能性だ。

要はそのコンテンツビジネスの天敵である代替可能性を排除できるのだ。それは福音に違いないと思っても仕方ないと思う。

その代替不可能性は(パブリックとプライベートという違いこそあれ)誰でも閲覧可能な書き込み履歴データを保管するというブロックチェーンの特質によってもたらされる。

要は何か特殊なデータが保管されるという話ではなく、このデータは誰それさんが持っていますという情報が改竄不可能なかたちで公開・共有されているというだけの話だ。

既存の「ブロックチェーン屋」の提案では「向いている」とは言えない

それでは、NFTとは魔法の杖なのか?

NFTの技術規格の一つであるERC721で少し検索すれば分かることだが、多くの場合、その改竄不可能性非中央集権性を称賛し、IPFSなどの改竄不可能な周辺技術を用いて、その特徴を強化するという方向での実装・運用の話が多い。

改竄不可能とはどういうことか?

端的に言うとコンテンツ内容の変更を出来ないということだ。

そのことで発生しうる問題をさらに端的な事例で説明すると、一旦世に出したコンテンツに差別や小児性愛的と看做される表現があったとしても、修正が不可能なのだ。

この問題は机上の空論ではない。今そこにある危機そのものだ。

NFTやEthereumには直接関係ない事件ではあるが、ビットコインから派生し、コンテンツ自体をブロックチェーンに書き込むことを一つの目的としたビットコインSVというブロックチェーン上に小児性愛的コンテンツが書き込まれるという事件が本年2月に発生した。

この事件に際して、ビットコインSV陣営はゼロトレランスポリシーという、なんだか強そうな方針で対応するとしたのだが、何のことはない、このポリシーは僕ちゃんがチクるから、各国警察(や国際的な当局)が対応してくれるよというもので、ブロックチェーンの盲目的な信者以外は少なからずショックを受けたのではないかと思う。

実際、一旦、ブロックチェーン上に書き込むと、修正どころか、消すこともできない(NFTに関してはやや事情が異なるが詳細は後述する)のだ。

このような極端な例ではなくとも、上記のような実装のNFTの場合、NFTの持ち主は半永久的に権利を保有することができることとなる。

期限を始めとするコンテンツ使用権のコントロールはデジタルコンテンツビジネスの根幹だ。

こんなものを勧められても困るというのが、コンテンツビジネス従事者の正直な感想ではなかろうか?

実装や運用次第では使い物になる?

それでは、NFTは全く使いものにならないのかと言うと、それも違う。

代表的なブロックチェーン、少なくとも、Ethereumにおいては、コンテンツデータ自体をブロックチェーンに書き込むことは事実上不可能なので、同ブロックチェーン上のNFT規格であるERC721ではtokenURIという名称で、コンテンツのメタデータの場所(URLと思っていい)を指し示す属性が定義されている。

そして、そのJSON形式のメタデータの中で、コンテンツの画像などのURLを定義するというかたちだ。

コンテンツ管理にNFTを利用する場合、ブロックチェーン上のインデックス(一連のトークンの中の何番目か、誰が保有しているかなどの情報)> メタデータ(コンテンツ名称、説明、画像データURLなどの情報)> 画像などのコンテンツデータ という3階層で管理することとなる。

ここまで書けば、カンのよい読者はお気づきだと思うが、メタデータとコンテンツデータをブロックチェーン外の読み書き可能な仕組みで管理すれば、修正や削除が可能となる。

ERC721の落とし穴

修正や削除ができるのであれば、大丈夫じゃないか、NFT使えると思った読者の方、待ってください。

これはコードを読んでみたり、実際にNFTを発行して色々と試してみたりしないと中々理解できることではないのだが、ERC721の標準的な実装では、NFTを一旦発行し別人のウォレットアドレスに譲渡した場合、その新しい持ち主は自由にそのNFTを削除できるのだ。

さらに言うとNFTが発行者の手を離れたら最後、発行者はそのNFTを削除することも出来なければ、譲受を制限することもできない

もちろん、上記のメタデータとコンテンツデータの改変や削除というかたちで、対応することは可能だが、仮にブロックチェーンしか観測できない主体があった場合、不都合なNFTや持ち主情報は半永久的に残ってしまう。

不都合の理由

ここまで読んで、何故にこんなに扱いにくい設計にした?という感想が出るかもしれない。

一つの理由としては、NFTはデジタルというよりも現実世界の保有という概念を忠実に再現しているからだと思われる。

例えば、ディズニーのコンテンツというものは業界内の禁忌事項の一つであり、特に代替可能なデジタルデータにおいては扱いに細心の注意を必要とすることを周知のことであろう。

一方で、例えば、ディズニーランドに行って、ミッキーマウスのぬいぐるみを買ってきたとする。その保有権は半永久的に失われることはない。もちろん、捨てる権利もだ。

ただし、このメタファーには無理がある。現実世界の事物は劣化し、消尽する。その前提というか共同幻想のもとに動産の保有という概念は成立している。

この概念のもとに半永久的に劣化しないデジタルデータを取り扱おうとするところに矛盾が生じるのだ。

解決の方向性

実は筆者は既にERC721に改変・機能追加を施し、発行体のみが(保有者が誰かに関わりなく)許可なくトークンの削除や譲渡を可能とし、保有者が他者にトークンを譲渡する場合、発行体の許可を必要とする、restricted NFT的なものを実装し、既にテストネットで検証を行っている。

それでは、コンテンツビジネスにおいては同実装を使えばよいかと言えば、ことはそんなにシンプルではない気はしている。

要は、ブロックチェーン界隈の非中央集権というテーゼに全面的に反発することになるからだ。


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