林 幸史

旅と写真の研究 https://sites.google.com/view/hayas…

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観光心理学とその研究領域

観光心理学とは?観光心理学とは、観光者の旅行前から旅行中、旅行後へと至る行動過程、さらには、観光者と観光事業者、受け入れ先の地域住民との相互作用とそれによってもたらされる影響について研究する心理学である。 上記の定義は、わが国でこれまで観光の心理学研究を牽引してきた偉大な先人達の記述を踏まえた上でのものです。以下では、その先人達の言葉を引用しながら、観光心理学とその研究領域について記したいと思います。 前田 勇観光行動の心理学研究において、わが国での先駆者である前田勇は、

    • 観光の楽しさ、オモシロさ

      観光の楽しみ  観光は、楽しみを目的とした旅行と定義されます(岡本, 2001; 前田・橋本, 2015)。では、ここでの「楽しみ」とは、具体的に何を指すのでしょう。人によって楽しみはさまざまですよね。今回は観光の楽しみは人によってどう違うのかについて考えてみたいと思います。  楽しみを目的とするということは、心理学では、内発的に動機づけられている状態です。内発的に動機づけられているとは、興味や好奇心が行動の推進力であったり、その活動を行うことで内的報酬(楽しさや満足感)が

      • 旅を楽しむためのスキル

         1996年。大学1年の夏休み、私の初めての海外旅行先はカナダでした。2週間のホームステイの後、地球の歩き方を片手に、初めて一人旅を経験しました。バンクーバーからグレイハウンドのバスに乗り、バンフ、ジャスパー、カルガリーなどを巡る2週間ほどの旅をしました。バックパックを背負って歩くこと、ドミトリーに宿泊すること、ヒッチハイクで移動すること、何もかもが初めての体験でした。  その時から私は一人旅の魅力に取りつかれたのです。と言いたいところなのですが、実際はその逆でした。毎日毎日

        • 続・旅と、旅行と、観光と。3つの定義。【完】

          以前に投稿した記事で、旅と、旅行と、観光の3つの概念の定義について考えました。そこでは、暫定的に下のような結論に至りました。 けれども、納得はいかず、もう一度考えてみたわけです。 学術的な定義を再び 日本観光研究学会監修の『観光学全集』第1巻では、24時間以上1年以内で居住地に戻ってくる旅行が「ツーリズム」とされており、その下位概念に「観光」は位置づけられています(溝尾,2009)。その「観光」については、観光政策審議会の定義である「余暇時間の中で、日常生活圏を離れて行

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        観光心理学とその研究領域

          旅と、旅行と、観光と。3つの定義。

          観光の研究をしていると、旅と、旅行と、観光という言葉をどう使い分けるかについて悩むことがあります。学術論文を書く上では、概念の定義は非常に重要なのですが、観光学においても、これらの3つの言葉をどう使い分けるべきかということについて、研究者間での共通認識があるわけでもありません。このような事情から、ここで3つの言葉の違いについて、考えてみたいと思います。 国語辞典を引いてみる手はじめに、手元にある国語辞典で3つの語句を引いてみました。まずは岩波書店『広辞苑』(第六版)。 【

          旅と、旅行と、観光と。3つの定義。

          観光の本質とは?

           これからの観光を考えるためにも、観光の本質について改めて考えてみたいと思います。結論から述べるならば、観光することの本質は、「相対化する視点を得ること」なのだと思います。「気づきを得ること」と言い換えてもいいでしょう。そして、相対化する視点を得るためには、私は、次の3つが欠かせないと考えます。 ①よその土地に移動すること  住んでいる場所を離れて、他の場所に移動するということは、漫然と見るのではなく、意識的に外の世界を観たり、自分の内面を観るための視点を獲得したりするため

          観光の本質とは?

          偶発性を楽しめる旅を

          旅の予約で埋まるもの 世界中でインターネット環境が整備されたおかげで、交通機関や宿泊施設はもちろん、飲食店やテーマパークの入場券も予約を済ませた上で、旅行に出掛けることができるようになりました。限られた旅行日数で、それなりの予算を費やすわけですから、効率的に旅を楽しみたい、後悔はしたくないという気持ちが働いてのことだと思います。事前予約を行うのには、そのような気持ちに加えて、不確実性を回避したいという心理も関与しています。観光は、日常の時間と空間から抜け出すことに楽しみがある

          偶発性を楽しめる旅を

          旅が心に効く理由(移動がもたらす健康効果)

          疲れたらどこか遠くへ 観光における移動は、目的地に存在する魅力的な何かに近づくための行動と捉えがちですが、裏返せば、今いる場所を離れたり、そこから逃避する行動と捉えることもできます。  『どこでもいいからどこかへ行きたい』の中でphaは、旅行の目的について次のように述べています。  多分、僕が旅に求めているのは珍しい経験や素晴らしい体験ではなく、単なる日常からの距離だけなのだ。  いる場所を変えるだけで考えることは変わる。特に家からの距離が重要で、同じように見える街でも

          旅が心に効く理由(移動がもたらす健康効果)

          旅は心を癒す?(ヘルスツーリズム)

          心を癒す観光  メンタルヘルスとは、心の健康や精神的健康のことです。WHO(世界保健機関) は、 メンタルヘルスを次のように定義しています。  Mental health is a state of well-being in which the individual realizes his or her own abilities, can cope with the normal stresses of life, can work productively and

          旅は心を癒す?(ヘルスツーリズム)

          旅好きな人の性格と遺伝子

          人は変化を求めて旅に出る 観光心理学では、新しい刺激や変化に対しての欲求が、人々を観光へとかりたてる根源的な要因だと考えられてきました。佐々木(2007)も、人が、楽しみを目的とした観光旅行に出る理由は、日常の生活状況では満たされない「快」欲求を、日常生活圏外での新奇な経験によって満たそうとするためだと述べています。 では、どのくらいの距離を移動すると、人は変化や新奇性を感じることができるのでしょうか。日常生活圏の範囲をどう捉えるかは、議論が分かれるところですが、ここでは、

          旅好きな人の性格と遺伝子

          見えない世界への扉:歩き遍路の心理学

          「足痛めてしてもうて、焼山寺さん向かう山の中の階段でもう歩かれへんやったとき、ふと前を見ると草鞋履いた人が歩いてはってね。その人の姿は見えなくなったんやけど、階段の先にお大師さんの像があってね。足の痛みも嘘みたいにスッと消えてしまってたんよ。」 (ある歩き遍路の語り) 四国遍路の世界 四国遍路とは、四国四県にある八十八ヶ所の霊場(札所)を巡る旅です。真言宗の開祖である弘法大師空海(お大師さん)によって、今から約1200年前に開創されました。徳島県の1番札所の霊山寺から香川県

          見えない世界への扉:歩き遍路の心理学

          人はどうして旅するの?(観光動機)

          心理学では、私たちの行動を引き起こす原因となるのは、欲求や動機といわれる内的状態だと考えられています。例えば、「世界最高峰のエベレストをこの眼で見てみたい」といった気持ちが欲求であり動機です。そして、それを実現させる方向に向かって行動を開始し、維持しようとする過程を動機づけ(モチベーション)といいます。 観光者のモチベーションは、人々を観光にかりたてる働きをする動機や欲求であるpush要因(発動要因)と、具体的な目的地を選ばせるように働く観光地のイメージや魅力であるpull

          人はどうして旅するの?(観光動機)

          大学生への一人旅のススメ:社会心理学の観点から

          大学生になったら旅に出よう。どうせならば一人で長い旅をしてみよう。少しのお金と時間さえあれば、旅は誰にでも出来ることです。たとえ、運動神経が悪くても、勉強が苦手でも、語学に堪能である必要もありません。一人旅には憧れるけれど、一歩を踏み出す勇気が出ないというあなた。実は、そんな人にこそ一人旅は向いています。 私が大学生のみなさんに一人旅をすすめる理由は、旅先の環境やそこでの出会いを通して、もう一人の「自分」を知ることができるからです。旅で「自分」を知ることは、自身の成長につな

          大学生への一人旅のススメ:社会心理学の観点から