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映画『ゲットアウト』ー人種差別とは海外だけの話なのか?

 7月にあったAmazonプライムデーで欲しかったものを買いそびれ、意気消沈気味だった私。なんとなくAmazonビデオを見てみたらこっちでもレンタル&セルのセールをやっていて。
 何本か借りたり買ったりしたんですが、中でもえぇー?と驚き戸惑い考えさせられた映画が、ジョーダン・ピール監督のアメリカ映画『ゲットアウト』でした。

ゲットアウト(原題:GET OUT)2017年公開 103分
監督:ジョーダン・ピール
主演:ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ

映画『ゲットアウト』のあらすじ

 写真家のクリス(黒人)は、恋人のローズ(白人)の実家に一緒に行くことに。車で向かっている途中で、ローズは鹿を轢いてしまいます。同乗者なのに黒人だからと、クリスにまで免許提示を言い出す警官(白人)。ローズが制止してその場は収まります。
 ローズの実家に着き、家族から手厚い歓迎を受けるクリスですが、お手伝いさんのジョージナも庭の管理人のウォルターも黒人であることに違和感を抱きます。
 変な出来事はさらに起こり、心理カウンセラーの母親にクリスは催眠術をかけられて怖い夢を見て、さらに大好きなタバコも吸えなくなります。また、夜になるとジョージナやウォルターが奇怪な行動をしていたのです。
 謎のパーティーのゲストは全て白人。クリスはその中で唯一の黒人を見つけ話しかけますが、この人もどこかおかしな様子。しかも彼は、クリスのカメラのフラッシュを見て突然豹変し、鼻血を出しながら「出ていけ!」と暴れはじめます。
 心底不気味な状況に、ローズに「家に帰ろう」と懇願するクリス。ローズもそれに賛成しますが、本当の恐怖はここから始まるのでした…。

映画『ゲットアウト』の感想と考察

 久しぶりに大どんでん返しというか、結末が予想外な映画に出会いました。人種差別によって無理やり奴隷にさせられた黒人…という話だと思っていたら、真逆なんですよね。

 この映画、序盤(というか中盤まで)は長ったらしくアーミテージ家の不可解な様子をずっと映しているだけなんです。
 父親は脳神経外科医なのでやや威圧的、母親も癖があってとっつきにくい。医学生の弟はお薬でもやってるの?ってくらい好戦的。
 ジョージナは常に情緒不安定っぽくて、気持ち悪いほどの笑顔だったり、かと思えばクリスの充電器を勝手に外したことの言い訳をつらつらと話し始めたり。ウォルターも大人しそうな人かと思っていたら、夜中に庭を駆け回ってて、こいつもヤベェ奴かよ!と思わされる。

 この辺のアーミテージ家の日常を紹介パートが、ずっと続くしどうでもいい会話かなって思ってつい聞き流す感じになっちゃうんですけど、実はこれも伏線という無駄のない作りになってるんですね。
 ちなみに私はホラー耐性ゼロ+一人の深夜に見ちゃったので、全部完璧に見てませんでした(笑)急にドドーン!とか来られるとマジでヤバいので…。でも、ビックリ叫び系ホラー要素はほぼありませんよ!若干のグロはありますが。

*「普通の人」が潜在的に持つ差別意識*(ここからネタバレあり)

 この映画を見る前に、一応どのくらいのホラー要素なのかをAmazonレビューで確認したんですけど、そこには「人種差別」という言葉があったんですよね。
 主人公とその親友、家のお手伝いが黒人で、恋人一家とかその知り合いのセレブたちは白人、というのを見て、あー黒人を奴隷にするのかと思っていました。
 白人セレブたちを呼んで開いたパーティーでは、ビンゴ大会(オークション)がこっそり行われるんですが、主催者の父親の横にはクリスの写真が飾ってあるんですよ。
 ジョージナやウォルターだけでなく、セレブな白人中年女性が連れている若い黒人男性も明らかに挙動がおかしいし、これはきっと黒人連れてくる→監禁して母親が洗脳→オークションでセレブに売る→奴隷化完了というやつなんだなって思いました。

 ところがどっこい、物語の結末は全く違っていて、実は「黒人に憧れる白人が、黒人を買って自分の脳を黒人に移植し、新たな自分になる」=凝固法(コアギュラ)を行っていたのです。
 それを知ると全ての伏線に繋がっていくんですよね。実はたくさんの場面でありとあらゆるヒントが散りばめられていた。
 黒人差別する警官に盾突くローズ、黒人最高!と語るセレブたち。みんな実は人種差別などしていなくて、どちらかといえば黒人大好き!みたいな思考の持ち主なんです。
 クリスがジョージナに「白人だらけのパーティーで嫌だ」みたいなことを話すんですが、その言葉にジョージナは涙を流しながら「違う違う」と言います。ジョージナは祖母、ウォルターは祖父の生まれ変わり=黒人大好き派なのでクリスのあの発言に対して「違うのよ」と言ったんですね。

 黒人大好き派ってことなのは分かるんですが、結局黒人を買って脳を取り出して移植するわけですから、それって黒人尊重してるのか?という疑問にたどり着きます。
 人種差別しない、平等主義というのは、どんな人たちに対してもその生き方や思想を尊重し理解できるということですからね。結局この人たちも差別してるやん!ということになります。
 セレブたちの会話が分かりやすかったですね。「あらーやっぱ黒人は良い体してるわぁー」「黒人はアッチ♂のほうもすごいんだろ?」「時代はブラックだ!」と、言いたい放題でしたね。

 でもこの考えって、別にこの映画の人たちや人種差別する人たちだけの話ではないと思います。
 アフリカ人は目が良い、アメリカ人は大雑把、南米の人はサッカーがうまい、日本人は真面目みたいな「イメージ」って誰しも持つものだと思います。この映画はそういうみんなが潜在的に持つイメージがテーマなのかなと感じました。
 つまり、決して差別についての映画ではなく、私たちの身の回りの話ということなんですよね。もちろん脳移植して乗っ取るってのは、フィクションであってクレイジーな話なんですが。

 最後にクリスがウォルターに襲われかけたとき、咄嗟にカメラのフラッシュを浴びせるんですが、これによってウォルターは黒人の人格に覚醒します。あのパーティーでの黒人男性の「出ていけ!」というのは、実際には覚醒した本来の黒人人格からの「逃げろ!」という警告でした。
 タイトルの『GET OUT』も、出ていけとも逃げろとも取れますから、そういう部分もこの映画の一つのヒントになっているんでしょうね。
 パトカーがやって来て、ローズが助けを乞いクリスが両手を挙げたとき、まさかあのときの警官じゃないよな!?とハラハラしましたが、AIRPORTの文字で本当にホッとしました。エンドロール始まるまでローズが追いかけてくるんじゃ…と不安でしたが。

 最初はゾッとする感じで直視できずにチラ見しかできなかったんですが、見れば見るほど、考えれば考えるほど、面白さがじわじわ出てくる映画だと思います。
 あと、持つべきは心強い親友ですね。この映画のMVPは間違いなくロッドですし、最悪なのはローズでしょう。

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