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価値観を壊してくれる旅『アイスランド編』


旅の始まり

少し前に「カズレーザーと学ぶ。」という番組で、人は「旅」に出ると、脳の『サリエンスネットワーク』と呼ばれる働きが活性化し、日常と違う周囲のことに注意が向くようになるという趣旨の話をしていた。
「旅」をしている時、人は目の前で起きていることへの注意力が高まるため、結果的に日頃の悩みから解き放たれる。初めての場所や人、文化に出会うといった“新奇体験”によりドーパミンが放出され、ポジティブで意欲的になれるという。

また、人類の長い歴史のなかで、人が定住して暮らせるようになったのはつい最近のことであり、人類は生きるために移動をして食料や生業を得てきた期間が非常に長く、移動することが染み付いているのではないか、という趣旨の話もしていた。つまり、人にとって「旅」は本能的に求めている行為なのだ。

これまで自分にとって「旅」といえる海外旅行は両手で数えられるほどなのだが、「旅」は日常の生活の中で凝り固まった自分の過去の常識を壊してくれ、今目の前にある刺激に集中し、新しい気づきを与えてくれる未来でもあり、貴重な体験として自分の記憶に刻まれている。

北欧に惹かれる

北欧と聞くと、家具やデザイン、自然であれば北極やオーロラなどが思い浮かぶと思う。実際、自分もその程度の知識だったが、何かのメディアで見た北欧の風景は、厳しい自然環境のなかで本当に必要なものだけを研ぎ澄まし、そして与えられたミニマルな選択肢のなかでいかに豊かに暮らすかを考えているように見えた。
30を過ぎたころの自分は、無駄に肥大化した東京でのしがらみと自意識に飽き飽きしていた。そして、北欧の孤独を恐れないように見える孤高の格好良さは、自分にとって精神的に足りない何かがあるように見えた。

何かが何なのかは分からない。だが、無性に北欧に惹かれて、世界地図を眺めた。そのなかでも地図の最果て、アイスランドに何かを感じ、なんとか友人を口説き落としアイスランドに行くこととなった。

最果ての国アイスランド

アイスランドと聞いて何を思い浮かべるだろうか。おそらく名前からの連想通りの極寒の地、くらいだろう。音楽に詳しければビョークやシガーロスも思い浮かぶかも知れない。日本からはさほど縁のない、話題もあまり出ない国だ。
自分にとっては映画「LIFE!」のロケ地として印象に残る国だった。高い木もない荒涼とした大地に、荒々しい山や海岸線。冴えない主人公が広大な自然の中、ポツンと駆ける姿が印象的だ。旅に出る前に何回も「LIFE!」で予習した。
時期は2020年1月末、いま思えばコロナ禍で世界が混乱するギリギリ前の滑り込みの旅だった。

出国の日、成田で友人と待ち合わせてフィンエアーに搭乗する。それまでの旅では発展途上国に行くことが多く、漂うエスニックな機内が国際線のイメージになっていたが、フィンエアーは北欧デザインのある洗練された機内で、はやくも北欧気分にさせてくれた。フィンランドのヘルシンキでトランジットして、アイスランドのケプラヴィーク国際空港へ降り立つ。アイスランドは北極圏に少しかかった国。1月は極夜ではないが、日照時間は短い。おそらくそんなに遅い時間ではなかったと思うのだが、すっかり日は暮れていた。空気は澄んで寒く、肌が痛い。あたりはもちろん一面雪。ああ、アイスランドに来たんだなと感じた。
バスに乗り、首都のレイキャビクに移動、友人が取ってくれたゲストハウスにチェックインし(北欧はとにかく物価が高いため、宿代を抑えることにした)、簡単な夕食をとって、その日はすぐにベットに入った。ここからおよそ1週間、日本とは全く違う自然環境、全く違う文化圏で暮らす、自分の常識の外に行けるんだと気持ちを高揚させながら就寝した。

移動中の景色

違う惑星にいるような雪と氷の世界

これまでの海外旅行でもそうだったが、肉眼で見る自然の景色に勝るものはなく、自然とはそのスケールの壮大さだけでなく、匂いや肌に感じる気候などが伴って記憶に刻まれる。かつて行ったサハラ砂漠やエベレスト、カリブ海などおそらく一生忘れることはない。
この旅の目的のひとつももちろん自然の景色で、広大な氷河と氷で形成された青の洞窟というものを見るのが目的だった。
現地のバスツアーに乗り込み、道中いくつかの滝に立ち寄りながら、その日は目的地近くのホテルに止まり、翌日早朝から氷河を目指す。翌朝、バスが目的地周辺で海岸近くの駐車場に着くと、そこから見える黒砂の砂浜には氷塊が漂着していた。いつも旅していて思うのは、ひとは想像の範疇にない景色を見るとびっくりするし、感動するのだということ。こんな景色知らない。思わぬところで、自然に感動していた。

漂着した氷塊

その後、雪原を歩いて、氷河が水面を挟んで対岸に見える場所に着く。アイスランドは大抵の場所がそうなのだが、高い木が少なく見渡す限り雪原が広がっているので、本当に広大な雪と氷の惑星にいる気分になる。

見渡す限りの雪原

対岸に見える氷河ももの凄い年月をかけて出来た景色であり、地球の時間が織りなす壮大さに気が遠くなりそうだった。

氷河は海に溶け出している

このあと4WDに乗って氷河の上を走り、青の洞窟も見に行った。もちろん綺麗で神秘的な空間だったのだが、こちらは事前に想像を膨らませ過ぎてしまい、かえって想像の範疇を越えなかったので、予習し過ぎるのも問題だ。

身近にデザインが溢れる北欧のくらし

もうひとつ、この旅の目的はその国の文化を感じること。海外旅行に行く時、スケジュールをパンパンに詰めないようにしている。自由時間を多くし、その国の街をゆっくりと探索し、なるべくその国に住んでいる人たちと同じ目線で景色を見たり感じたりしたいのだ。今回も滞在する首都レイキャビクをぶらぶらする日程を多めに取っていた。

北欧はご存知の通り、降雪量が多く、寒い。そして何より北極圏が近いために、冬の間は日が短い。そのため、家の中で家族と過ごす時間が必然的に長くなる。また自然環境が厳しいために資源が少なく、結果としてミニマルなデザインが栄え、限りあるもので豊かに過ごすというライフスタイルが尊ばれている。
そのことが、北欧インテリアと呼ばれるようなミニマルなデザインのプロダクトに反映されていたり、ヒュッゲに代表されるような家の中で豊かに過ごすというライフスタイルに繋がっている。レイキャビクももれなく至る所にミニマルなデザインがある。工事現場や図書館ですらデザイン性が高い。

工事現場
図書館

日本も侘び寂びといった自然に対する畏怖からくる引き算の美(=ミニマル)が根底にある国だし、日本画を始めとする芸術は他国との大きな差別化になっていると思う。だが、今の日本は欧米の価値観を始めとして、大量の情報で溢れかえっており、有象無象が入り混じったカオスだ。日本特有のミニマルな価値観はもっと大事にした方が良いと個人的には思う。

ともかく、このミニマルデザインに加えて、ゆったりとした時間も流れている。人口30万人前後の辺境の国だということもあるだろうが、日々をせかせか過ごしていない。アイスランドの人は物静かで、こちらから話しかけない限り話してくることはないが、それでも話しかけると感じ良く対応してくれる。
モノの選択肢もそう多くはない。だが、物質的に多い=満たされているではないことがこの国にいると感じることができる。洗練された空間で、ゆっくり過ごすのが心地よかった。

Joe & the Juice

個人的にお気に入りだったのは、Joe & the Juiceというフレッシュジュースのカフェチェーンだ。本店はデンマークだが、レイキャビクの景色に馴染み、必要最低限の音楽のなか、ゆっくりと過ごすことができた。

終わりに

レイキャビクから見えたオーロラ

ほかにももちろん色々な場所に行ったり、体験したりした。名物の間欠泉にいったり、いくつもの壮大な滝を見たり。宇宙一美味しいというホットドックを食べたり。突然の吹雪に帽子を飛ばされそうになったり。オーロラを見るために何日も深夜にレイキャビクの海岸線を歩いたり。
ご飯も美味しかった。アイスランド料理といってもイメージがないと思うが、どの料理も美味しかった。島国なので漁業が盛んで、フレッシュな魚料理が印象に残っている。ただ物価がもの凄く高いのだけは要注意である。感覚的に2倍なので、お酒を飲みに美味しいお店に入ると平気で1万円を超える。

アイスランドを旅して思ったことは、日本人である自分にとって凄く心地が良い国だったということ。もちろん個人差はあると思うが、アイスランドの精神性からデザイン、ライフスタイルに至るまで全てが心地良かった。他の北欧には行ったことがないので分からないが、北欧に惹かれる意味が分かった気がした。

「旅」は新しい気づきを与えてくれる。
アイスランドを旅したことで、間違いなく自分のなかでの価値観がアップデートされた。ああ、「旅」に出たい。このnoteを記しながらそんな気持ちを掻き立てられてしまった。


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