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外科的気道確保の時に注意すべきこと

この記事では、救急医として必須の手技である外科的気道確保(特に輪状甲状靭帯切開)の手技における注意点について解説します。

外科的気道確保(eFONA)とは?

外科的気道確保とは、読んで字の如く「外科的に気道を確保する」方法、手技です。輪状甲状靭帯穿刺、切開、緊急の気管切開などを指しています。
英語ではeFONA(Emergency Front Of Neck Access airway)とも呼ばれます。

この手技は、直ちに気道確保が必要である(例えば異物による気道閉塞でSpO2が90%未満に低下)にも関わらず、気管挿管も用手換気もできず酸素化できない状況(CICO, Cannot Intubate, Cannot Oxygenate)などで必要となり、救急医にとって重要な必須の手技です。

外科的気道確保実施(eFONA)にあたっての問題点

外科的気道確保(eFONA)は侵襲的手技ですので、当たり前ですが、実施にあたって、合併症などの問題が発生する可能性があります。手技を行うものとしてはこうしたトラブルにも習熟しておく必要があります。しかし、この手技を行う機会はそう多くないため、経験が十分に共有されないという問題点があります。

そこで筆者らは自身の経験や自施設で外科的気道確保が必要になった症例を振り返り、問題点を抽出し論文として出版しました。

この記事ではその先日出版した下記の外科的気道確保に関する論文を紹介します。

論文紹介

Adverse events of emergency surgical front of neck airway access: an observational descriptive study. 
Okada A, Okada Y, Kandori K, Ishii W, Narumiya H, Iizuka R. 
Acute Med Surg. 2022 Apr 15;9(1):e750. 
doi: 10.1002/ams2.750. PMID: 35441035

背景と目的
メスによる輪状甲状靭帯切開などのemergency Front of Neck accsess airway(eFONA)は、「Cannot Intubate, Cannot Oxygenate」の状況下での気道確保のため手技である。しかし、この手技に関連する有害事象についてはほとんど知られていない。本研究では、eFONAを受けた患者に発生する有害事象とその対応について記述することを目的とした。

方法
本研究は、2012年4月から2020年8月までにeFONAを受けた救急患者を対象とした後ろ向き観察研究である。患者の特徴および手技中または手技直後の有害事象について記述した。

結果
研究期間中の救急患者75,529人のうち、31人(0.04%)がeFONAを受けた。年齢の中央値(四分位範囲)は53(39-67)歳で,23例(74.2%)が男性であった。全例中、13例(41.9%)に有害事象が発生した。その内訳は,片肺挿管6例(46.2%)、挿管チューブの頭側への誤挿入3例(23.2%)、止血を必要とした切開部出血3例(23.2%)、気胸1例(7.7%)、カフ損傷1例(7.7%),嘔吐によるチューブ閉塞1例、チューブキンク(折れ)による換気困難1例(7.7%)(複数の有害事象を含む症例あり)であった。

これらの有害事象のうちが発生した症例のうち、挿管チューブの頭側への誤挿入、嘔吐によるチューブ閉塞、チューブキンク(折れ)では、初回の試行では気道確保ができず、換気が困難であり迅速な対応が必要であった。

結論
この単一施設の観察研究では、eFONAの有害事象について報告した。特に頭側への誤挿入、チューブの閉塞などは気道確保、換気困難となりうる生命を脅かす有害事象であり、患者の安全のためにこうした有害事象についての見識を深めておくことが重要である。

著者からのコメント

この論文の中でも紹介していますが、輪状甲状靭帯切開を行ったはずなのに換気ができない時、背筋が凍るように思いをします。

「なんで?なんで? やばい!やばい!やばい!」

という思いに頭が真っ白になります。そうならないように対策しておくことが重要です。

特に「頭側への迷入」というのが最も怖い合併症です。経験者がいないとすぐには気づかない場合もあります。そんな事起こらないだろう、すぐに気づくだろう、と思うところですが意外と起こり、そして気づかないものです。

輪状甲状靭帯切開後にチューブが頭側に迷入する

このように頭側への誤挿入が起きないようにするめには、指などでチューブを誘導する他、ガムエラスティックブジーなどを用いてガイドさせるというのが一案です。また横切開ではなく縦切開を行うのもよいかもしれません。

ガムエラスティックブジーを先行させてチューブを挿入する。

また、片肺挿管になってしまうこともあります。これが最も多いトラブルでした。これを回避するためにはチューブを挿入しすぎない、というのがあります。目安として、切開部分が挿管チューブの先端の黒い線のマーカーにくるくらいが良いと思われます。

ちなみに余談ですがJATECなどで輪状甲状間膜穿刺という手技も切開と同時に教えていました(今はもう教えていないそうです)。これはサーフロー針で輪状甲状間膜を穿刺して酸素を投与する、というものです。しかし実際にやってみればわかりますが、全く換気できず、何の役にも立ちません。JATECでは穿刺したのちに切開と教えることが多い(今はそんな事ない?)ですが、迷うことなく切開した方がいいと思います。

まとめ

この記事では外科的気道確保(eFONA)に伴うトラブル、有害事象についての論文を紹介しました。滅多にないことだからこそ、シュミレーションやトレーニングが重要なわけですが、起こりうる問題点を想定して対策するというのも重要です。この記事がさらなる安全な気道確保につながればと思います。

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