うまくいかない事業承継が教える、中小企業経営の一つのカンどころ

安倍首相が辞任を発表しました。連続在位日数の歴代最長記録を達成した直後のことで世間を大いに驚かせたのですが、もう数日後には次期首相が決まり、新政権がスタートします。この報道に触れて頭をよぎったのは、長期政権に続く新政権は、往々にして短命に終わるということです。長期安定状態にあるものというのは、それだけ基盤が強固で、いろいろな物事がうまく運んでいるということが言えますが、その半面、強固な基盤や推進力の陰に隠れたところで手付かずの問題が種々、長期間にわたって蓄積されているのかもしれません。政権が安定しているときはこうした陰に隠れた潜在的な問題点や、未解決・未解消の問題点による悪影響は表に出てこないのですが、いざ新政権に移行して基盤や推進力がリセットされたときには、陰の部分を抑えるパワーが失われ、問題点が次々と露呈し、政権の基盤を揺るがすものとなっていくのかもしれませんね。

このことは、創業者から事業を引き継いだ二代目経営者の苦悩を連想させます。

創業者による強い牽引力のもと長期にわたって順調に成長を続けてきた企業でも、二代目が事業を継承した後にさまざまな問題が起こり、経営がうまくいかなくなるというケースが少なくありません。それにはさまざまな要因があることと思いますが、ここでも全体性の欠如/全体的・統合的視点に立った経営がなされているか否かがうまくいかない要因を探る一つの視点となるのではないかと考えられます。企業経営とは、事業や組織にかかわるありとあらゆることに目配り、気配りをして、遠きをはかり、適時に的確な手を打つことであると言えますが、創業後の勢いで事業を伸ばしてきた創業者というのは、必ずしも全体(事業や組織にかかわるありとあらゆること)をバランスよくマネジメントできているわけではありません。それが、経営者が交替することによって勢いが失われたりすると、創業者の勢いに圧され隠れていたさまざまな問題が表面化するというようなことが少なくないように思います。

今般のコロナ禍についても、同様のことが言えるでしょう。

企業や事業のプラスの面がうまく機能して順調に経営してこれていたように見えていても、実は、その陰に隠れてさまざまな問題が水面下で発生しており、新型コロナウィルスの影響でうまくいっていた部分が大きなダメージを受けると同時に問題点が一気に表面化し、うまくいかなくなるということです。このコロナ禍でもびくともせずに事業を継続している会社、順調に業績を伸ばしている会社と、一方でなかなか打開策を講じることができない会社との差は何なのか。これも全体性の問題が潜んでいるように思います。

経営者自らが認識しているかどうかは別として、業績が上がっているから、概ねうまくいっているからなどということで、陰に隠れた問題点に目をつぶって一部又は多くの社員に我慢を強いてしまっているということがあるのではないと思います。それが、予想もしなかった困難に直面した時に、一気に表面化するということです。

では、どうすれば、こうした潜在的な問題が表面化して会社経営や事業運営に支障をきたしてしまうことのないようにマネジメントすることができるのでしょうか。

ここでカギとなるのが「自律」ということだと思います。

社員を指示・命令で動かし、社員の行動や成果を管理するというトップダウンのやり方では、コロナ禍や事業承継などのような大きな環境変化に直面すると、柔軟にこうした変化に対応することができません。変化した環境に合わせた完全なる指示・命令を全社のすみずみにまでいきわたらせなければなりませんし、社員もその新たな指示・命令に速やかに適応しなければ、機能するはずがありません。

一方、社員一人一人が会社の経営理念・ビジョンへの理解・共感をし、やりがい、働きがいを感じて自分がやるべきことを自ら考え判断し、行動するような組織であれば、どんな環境変化があったとしても必要な適応行動が自然と引き起こされてくるものでしょう。

長期政権の後の政権が短命に終わるというケースも、創業者から事業承継したあとにうまくいかないというケースも、他律の上に成り立っていた安定であったのかもしれません。政権にしても企業にしても、物事がうまく運んでいるときというのは、そうした目に見えない行動環境における問題点には気づきにくいものです。売上や利益といった成果がすべてを覆い隠してしまうからです。でも、どんな環境変化に直面しても、何代も事業を承継していったとしても、うまく適応して安定成長できる組織、会社を作るためには、やはり、成長ドライバ理論のフレームワークでいうところのメインドライバ「行動環境」を外すことができないということなのだと思います。

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成長ドライバ理論のフレームワークにおいて、「ビジネスモデル」、「システム化・型決め」が相対的に高くて「行動環境」が弱いという状態は、発見しづらいものです。

事業承継がうまくいかない会社のうち多くは、創業社長の経営が、「ビジネスモデル」(及びそれを支える「システム化・型決め」)が強く牽引する経営となっているケースが多いのではないかと感じています。これら2つのメインドライバが強いことによって、「行動環境」が弱くても「成果」を出し続けることができているのです。そして、多少の環境変化、競合の出現があったとしても、社長がリードして「ビジネスモデル」「システム化・型決め」を微調整することによって環境適応、競合対応をうまくこなしてしまうのです。こうした会社は、表面的には成果を出す優良企業のように見えても、実は、コロナ禍や事業承継といったことを機に、その弱さを露呈してしまうように思います。後継者は創業社長の事業をそのまま引き継いだとしても、自分が作った事業ではありませんから、環境変化や競合に対して創業社長のような適応をそつなくこなすことができるとは限りません。

だからこそ、成長ドライバ理論のフレームワークが示すような「経営の基本メカニズム」をしっかりと押さえることが大切なのです。どこかに恒常的に無理がかかり過ぎていないか、注意しておく必要があります。目の前の「成果」が満足できる水準だったとしても、それでうまくいっているのだと勘違いしないことです。会社の持続可能性、成長可能性に思いを巡らせ、基本メカニズムの全体に目配り、気配りをすることです。こうした経営の基本メカニズムがきちんと機能していることが前提となり、その上で社員を大切にする経営を行い、一人一人の社員がやりがい、働きがいを感じながら前向きに仕事ができるという状態になっていさえすれば、大きな環境変化があったとしても、会社全体で一丸となってうまく対応していくことができるのです。 (東渕)

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