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寺山修司の短歌「レントゲン写真に嘴を」

レントゲン写真にはしをあけし鳥さかさにうつりかれざる胸

『血と麦』(『寺山修司全歌集』255頁)

『血と麦』の「血」の「第四楽章」に収められている。寺山修司の母親との関係を示唆する歌だ。

■語句

はし――くちばし。

あけし――「あけた、あけている」

うつり――「うつる(写る)」の連用形。終止形で終わらずに、連用形で切ってしまう連用中止法が使われている。まだ言いたいことが続く印象を与える。

■解釈

自分の胸のレントゲン写真を見ると、そこに嘴を開けた鳥が逆さに映っているように見える。ああ、自分は母に愛されなかったから鳥が逆さになっているんだ、苦しんだから嘴を開けているんだ、と思う。

「鳥」は寺山が自分を投影する代表的なモチーフだ。

心に傷を抱えている人は、知らず知らずのうちに、外界のさまざまなものをこんなふうに見立ててしまうものだ。

「うつり」と連用中止法を用いている。歪んだ鳥の描写がもっと続くように読者は思う。しかし、詠み手はそれ以上の描写を打ち切り、ずばっと自分の心情を持ってくる。

何だろう、と思って読んでいくと、最後でショックを受ける。

■おわりに

ここには、外套を着て自分を鎧った寺山ではなく、自分の心の傷をさらけ出した寺山がいる。しかし、愛を受けなかった「われ」の哀れさを過剰に演出しているところがあるようにも思う。

まあ、それが寺山なんだろう。

■参考文献

『寺山修司全歌集』講談社学術文庫、2011

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