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私はアイスクリームが嫌い

「私はアイスクリームが嫌い」

20代半ばのある日、雷に打たれたように、ふいにその言葉が浮かびました。ユリイカ!!そう、そうだ!!
隠れていた心の声が叫びました。
「私は、アイスクリームが、嫌い」
解放された歓喜。全ての謎が解けた爽快感。

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子供のころからずっと、アイスクリームは喜んで受け止めるべきものとして、生活の中に存在していました。常に、やった、アイスクリームだ!とはしゃいで食べていました。

叔父が遊びにくるときは、大抵サーティワンのバラエティパックがお土産。うちは三兄弟。これがいい、あれがいい、という取り合いを、叔父は嬉しそうに見ていました。それよりも、私はドライアイスを水の入ったボールに入れるのが楽しみでした。

「ソフトクリームだー!」
「きゃー、食べよう食べよう!」
ソフトクリームからは、女子高生を惹き付けるフェロモンがでているのでしょうか。みなさん、めざとく見つけて、狂喜乱舞します。
「美味しかったー」
「ねー、もう一個食べたい」
そういう同級生の横で、一向に食べ進められない私。垂れてくるソフトクリームとの攻防戦をひとり繰り広げていました。べとつくやん。

パンケーキ、嫌いじゃありません。ホットケーキは昔から好きなおやつ。でも、なぜパンケーキにはアイスが乗っているのでしょう?暖かいふかふかのパンケーキに、冷たいドロッとした、甘いアイツが…。和スイーツも、ちょっとランクアップするとすぐアイスを入れてきます。クリームあんみつよりも、普通のあんみつ。なんなら豆かんが一番。

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それでも、アイスクリームが嫌いだとは気づいていませんでした。
なぜなら、子供たるもの、女性たるもの、「アイスクリームに嬌声をあげるべし」という、無言の圧力を感じていたから。そうあるべきという社会通念に、貞淑に従っていたから。

なので、抑圧された思いが言語化したとき、これまで私を覆っていたドライアイスの霧が晴れました。気分爽快!

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改めて、私がテンションが上がる食材は何か考えてみました。

わかめ、浅蜊、空豆、つぶ貝、めかぶ、佃煮、結び蒟蒻、油揚げ…

貝と海藻と大豆製品と甘辛く煮たものが、私にとってのアイスクリームです。道理でスイーツの店でテンションが上がらないわけだ!

そして最近、アイスクリーム好きにとっての「ハーゲンダッツの限定のパフェっぽいいろいろ入った高級なやつ」並みに、日常のプチ贅沢でテンション上がる食材を発見しました。

それは、生ゆば。

一口食べると、とろーりと口腔を満たす優しい舌触り。大豆の品のある甘みとコク。表面はちょっとだけ歯応えがあって、内側は豆乳と豆腐の間をたゆたう、妖艶なとろけ具合。
ああ、芳醇。ああ、至福。

一般的な「自分へのご褒美」を買ってもなんだか満たされないとき。ひょっとしたら、あなただけのテンション上がる食材に出会えていないのかも。

いいですよ、生ゆば。

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