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朝ドラと戦争

私は朝ドラが好きです。
子供のころから親が見ていたのでなんとなく横目で見ていましたが、時間帯が変わった「ゲゲゲの女房」からは欠かさず見ています。
もはや、好きとか嫌いではなく、見ることが日課となっていますが、やはり感情を揺さぶられることも多くあります。
先日の「なつぞら」のなつの嫁入りは泣きました。柴田のじいちゃんこと草刈正雄さんの涙のシーン。あの無骨なじいちゃんが…。朝からもらい泣きです。

朝ドラは女性の一代記がほとんどです。私がちゃんと見始める前は「つばさ」や「さくら」のような現代ものが多かったのですが、その後は明治や大正から始まる物語が増えたようです。そのため、どこかしらに戦争が描かれます。
「なつぞら」では、なつは戦争で親を亡くした戦災孤児で、兄弟とも生き別れて父の戦友の家に引き取られます。
朝ドラにおける戦争の描かれ方は、大体以下のパタ ーンになります。

1.子供が戦地に赴く
「ごちそうさん」「わろてんか」
2.夫が戦地に赴く
「カーネーション」「おひさま」
3.親が戦地に赴く
「なつぞら」「ひよっこ」

立場は少しずつ違いますが、
戦争とは、大事な人が奪われて、残された家族は不安と飢えに苦しむものというのは共通しています。

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朝ドラで繰り返し描かれてきた、この戦争のイメージは、恐らく多くの日本女性に刷り込まれていると思います。朝ドラだけでなく、他のドラマでも本でもよく描かれています。
2015年の安保法案のデモの時も、友人が「子供を戦地に送るな」とSNSに書き込んでいました。戦争は、大事な人を戦地に送って死なせてしまうもの。なので、世の母親たちは、恐怖に近い感情で戦争を忌み嫌うのです。

それは、当然のことなのですが。

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「カーネーション」は、私の中で最高のレジェンド朝ドラです。朝ドラの枠を越えて、ドラマの中でも一番好きかもしれません。
「カーネーション」は、私が知る限り、唯一戦争を異なる面から描いた朝ドラです。

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「カーネーション」はデザイナーのコシノ三姉妹の母、小篠綾子さんをモデルに、洋服一筋に生きた人生を描いた作品です。
主人公の糸子は、岸和田弁をまくし立て、男勝りで猪突猛進。朝ドラヒロインの可憐さはないものの、全力でぶつかる強さと愛情深さ。それゆえに周りと軋轢を生み、泥だらけになって。きれいなところも汚いところも、丸ごと人間の生き方を見せてくれたドラマでした。しかも、15分の中で、笑わされて泣かされて。

おっと、カーネーション愛が強くて話がそれました。

「カーネーション」は、明るく戦勝ムードで始まった戦争が、少しずつ日常を変えていく様子を丁寧、じっくり描いています。どんどん窮屈になる生活の中、贅沢禁止で使えなくなった金糸入りの布をうまいこと工夫して仕立てて売ったり、着物をモンペに変える教室を開いたり、ずぶとく生き抜いて行きます。

そこには、奪われても奪われても、生きていく人間の力強さがあります。

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それと対比するように、戦争に息子二人を奪われて、変わり果てた女性が登場します。
髪結いのおばちゃんは、糸子のご近所で息子が二人いました。大工でだんじりの花形の長男と、ヘタれの次男。
糸子は次男と幼なじみで、いじめられているのを助けたり、だらしないと叱ったり。おばちゃんも糸子を「糸ちゃん、糸ちゃん」とかわいがって頼りにして、家族ぐるみの付き合いです。

その次男が出征し、体調を壊して戻ってきます。すっかりふさぎこんで閉じ籠る彼を、糸子は無理矢理連れ出し、彼が片思いしていた踊り子に会わせます。
なんとか元気を出させようとしたのですが、全く逆効果で、その日彼は家から飛び降りようとしてしまいます。それがきっかけで、おばちゃんとは決裂してしまいます。
その後、次男は回復しないまま、また戦地に送られます。そして、そのまま、戦死。長男も妻と息子二人を遺して帰らぬ人となります。

そこから、おばちゃんは以前の明るさを無くし、毎日寝込むようになります。長男の嫁にも辛くあたります。糸子にも呪詛を投げつけてきた顔は、変わり果てて鬼のようです。

それからしばらく没交渉が続き、あるきっかけでおばちゃんは立ち直ります。(と、書くとあっさりですが、そこにも葛藤のドラマがあるのですが、またの機会に)嫁と美容室を始め、以前のように明るくなり、糸子の娘たちも遊びにいくまでに関係は改善しました。

それから時が流れ、おばちゃんも年を取り病気になり、寝て過ごす日が続きます。罪滅ぼしのように、甲斐甲斐しく見舞いに行く糸子。
もう長くもないというある日。いつものように見舞いに行くと、その日おばちゃんはテレビで戦争の特集を見て、

「ずっとあの子はやられたと思っとったけど、やったんやなあ」

遠い目で、無感情に、枕元の糸子に呟きます。
あのヘタれだけど優しくて、虫も殺せない子の心が壊れたのは、やられたからではなく、やったからだ。そうつぶやいた数日のち、おばちゃんは息を引き取ります。

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息子は加害者になった
この短いシーンにが、重く苦しく突き刺さります。立ち直ったように見えても、ずっとおばちゃんの心に沈んでいた悲しみ。亡くなる直前に突き付けられた、残酷な事実。

他の朝ドラでは、被害者としての視点がほとんどでした。家族を亡くすことも、飢えに苦しむことも、空襲に襲われることも、もちろん悲惨で辛いことです。
しかしそれだけでなく、国の命令で普通の若者が人を殺したことも考え合わせると、さらに胸が締め付けられます。

「国のために散ってこい」だけでなく、
「国のために、殺して殺して散ってこい」だったこと。

私のかわいい高校生の甥が、そんなことになったら。優しくて草食系で善良な彼が、人を殺すことを強いられたら。
そう思うと、「子供を戦争に送るな」という言葉がずっしりと重みを増します。

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今日は終戦記念日。
戦争の犠牲者を悼みながら、この退屈で安全な素晴らしい日常が続くよう、平和を祈りたいと思います。

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