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「一生このまま・・」⑩ソロ活デビュー


 
 梅雨入りと同時に、翻訳の仕事が入り始めた。外国企業との往来が始まり、契約書関連の翻訳者が必要になってきたのだ。
 対面の仕事はないものの、やるべきことができた、そしてそれが、いくばくかの金になる。佐知は久しぶりに、生きてる実感を得ていた。

 コロナ禍の二年間、ほんとうに、仕事をする振りをしながら断捨離やら、エンディングノート書きやら、いらん読書やら、さまざまな事をしてきたが、やっと、ぼちぼち日常が戻ってきたのだ。

 雨の日も多く、ヨガ教室には週に一度行けるかどうかになった。頻尿も気になるが、佐知はやはり、仕事が好きだった。集中力も年々目減りし、老眼もひどいから、以前より時間がかかったが、それもありがたかった。
 自分を生かせることが、こんなにも嬉しいとは・・・。
 この喜びに、佐知は出来るだけ長く、浸っていたかった。

 家族は相変わらずリモートワークで、もう自粛しないでもいいのに、外食もしないでおうちごはんを続けていた。
 それが一番ラクなのだろう。金もかからない。花梨は外で食べたかったら、友達と食べる。その方が楽しいからだ。
 最近は週一で出社することになり、社に気になる男もできた。向こうから声を掛けられ、ルールズに従って放置しているらしい。
「同期入社だったらしいんだけど、私は覚えてないんだよねー」 
 と嬉しそうだ。ダイエットが成功したのか、気になる子ができたせいか、綺麗になってきている。佐知は胸をなでおろした。

 夫は梅雨時だからか、ますます苦虫を噛み潰したような顔をして日々を過ごしていた。男の更年期なのか。不愉快なムードが、重く家にのしかかっている。
 気晴らしにどこか出かければいいのに、自粛癖がつき、週末も休日も、家に居座っていた。
 週に一、二度出社するようにはなったが、以前のように飲み会などはなくなっていた。感染者数が減り、もう自粛はいらないムードにはなってはいたが、社として飲み会、接待は完全にコロナが収束するまで禁止だという。

 完全にコロナが収束する・・・そんなことが、今後あるのだろうか。もしかしてこのまま一生・・・。
 佐知は、世界のあちらこちらでコロナが蔓延したり、収束したりを繰り返している中、検査する限り、無くならないだろうと思った。

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