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ライラックぽん 掌編・短編小説5編

おはようよねちゃんさん

子供たちなに見つけたのハルウララ

空遊ぶ春の雲たちもくもくと

riraさん

やはらかな春を宿したひと雫

くーや。さん

音程の外れし歌よ春の空

ぽんっ!📕

「ねえみて!」
「わあ!」
「おもしろいね~!」
「こっちも!」
「かわいい~!」

 外から子どもたちの声が聞こえる。4月もそろそろ終わる。あの子たちは、今年の新入生ね。この前あいさつ当番をしたとき、教えてもらったの。この前はまだ緊張と不安で硬い表情の子もいて、バラバラにあいさつしてくれたけど、すっかり仲良くなったのね。よかった。見上げた空に、しゃがんだ地面に、なにを見つけたのかしら。

「くもね~、くじらぐもみたいだね~!」
「くじらぐもってなあに?」
「きょうかしょのうしろのほうにのってた! おっきいの! くじらみたいなの!」
「どれどれ?」
「ぼくがだすよ! まってて」
「「うん」」
「これだ!」
「あー! ほんとだー! くじらぐもだー! もくもくだ~」
「でしょ~」
「ほんとだ、もくもくだね」
「こっちのおはなもみて! かわいいね~」「これ、ちゅーりっぷってゆうんだよ」
「しょうがっこうにもあったやつだ」
「このさあ、ちょこんってのったみず、かわいい」
「きのうのあめかなあ」
「みずやりしたのかも」
「あー! きょうがっこうのおはなのみずやりとうばんわすれてた……どうしよう」
「だいじょうぶだよ。きのうあめふったもん」「かれちゃわない……?」
「あしたのあさ、みんなであげにいこうよ」「ごめんね~ってさ」
「うん。ありがとう」
「うん。あ、ぼくこっちだ、またあした」
「わたしこっち! またね~」
「またあした!」

 きゃっきゃと楽しそうな声も、しばらくすると止んで、あら、歌が聞こえてきたわ。まあ、かわいらしい。覚えたての校歌ね。私も歌ったわ。少し音程が外れているところも、初々しくって。音痴だから人前で歌うのは苦手だけど、歌うのは好きだし、歌を聴くのも好きなの。こっそり、ハーモニーを重ねさせてね。

鼻唄でひっそりハミング春夕焼

☁️🌷💧🎶

これでも母さん

おぼろ月亡くした友の笑う声

のんちゃさん

一人呑むクラフトコーラと春の月

うつスピさん

花丸の並ぶ手帳の春めいて

十六夜さん

月朧シュレディンガーの猫ゆらり

沙々良まど夏さん

泣きすぎてまぶたが重い四月かな

林白果さん

泣いた日の夢にすみれの花となる

ぽんっ!📗

 カーテンを開けると、ぼんやりと滲んだ月が、こちらを覗いていた。クラフトコーラ片手に月を眺める。カラカラと、氷の音だけが響く、静謐の夜。

 君と並んで歩いた日々。学校帰り、いつも遅くまで寄り道したね。君は小さな花にもよく気づいて、いつも教えてくれてた。猫を見つけたら、じいっと見つめてたね。今日こそって近づいて、逃げられちゃうのがお決まり。いつも明るく照らしてくれる月が霞んで、ぼやけてる。君の笑顔の写真も、なぜだか滲んで。あれ、どうして……
 でもね、思い出すのは、コロコロした笑い声。私はうるさいって言われるくらい大声で笑っちゃうんだけど、君はこぼれるように笑ったね。声は鮮明に、耳の奥に響いてるんだ。大丈夫。私のなかにいるから。いっぱいお土産話持って、そっちに行くから、しわしわになっても覚えててね。
 君は、俯く私を喜ばないでしょう。いつも通りに戻るのが、怖いよ。あの月のように、思い出がおぼろげになるなんて、やだよ。だからね、手帳に書き留めてるんだ。思い出をいっぱい。そして、お土産話もいっぱい。君の分まで毎日、いきてる。今は少し離れてるけど、私が覚えていれば、また会えるよね。
 今日、仕事で失敗しちゃったんだけどね、帰り道、迷子の子をお父さんに送り届けたよ。お父さんが連絡先を持たせてくれててよかった。泣きじゃくる子を前に、本当は不安だったの。でもね、君なら絶対諦めない。私も、君のように諦めなかったよ。だから、今日も花丸をつけるよ。カラフルな花丸いっぱいの手帳を携えて、花束代わりに持っていくから。花の好きな君と、花丸の日々を分かち合うために。

 カーテンを閉める。そろそろ、明日の仕事の準備をしなければ。どこかで小さいにゃあという声が聞こえた気がした。月明かりに、ぼんやりと影が揺れたのは、その猫なのか、それとも。

 夢を渡って、一足早く君がきてくれた。心配性だなぁ。ごめん、やっぱり涙はなかなか堪えられないんだ。君がくれたすみれの花を、押し花にして取っておきたい。
 もっとゆっくり寝ていたかったけど、無情にも朝は来る。まぶたが重いのは、眠たいから、だけじゃないけど、起きなきゃね。腫れぼったい目を、今日もアイシャドウでごまかす。
 すみれの花は、朝にはやっぱり消えていた。せっかく早起きしたから、早く家を出て、少し寄り道したよ。ほら。君がくれたのと同じ、すみれの花。君もここで摘んできたの? あんまりにも同じだから。こんなにもきれいなすみれ畑だったっけ。前に君と来たときより広がってる気がする。一つ、分けていただくね。押し花にするから、いつまでも、そばにいてね。

🌕️💮🐈️💜

見据茶さん

春セーター暇なサンタはティータイム

しろくまきりんさん

コットンのシャツ袖通す春炬燵

ぽんっ!📙

 ふぉっふぉ。年末の大仕事が終わって、もう春じゃ。年末が終わるとの、怒涛の繁忙期の落差で、冬眠でもするかのように眠り続けてしまうんじゃ。大丈夫、ごはんは食べておる。また今年も子どもたちの笑顔のために、働かんといけんからな。トナカイも心配せんでよい。ちゃんとごはんをたっぷり用意して、毎日適量注がれる仕掛けを作っておいたからな。
 そんな日々をしばらく過ごすと、すっかり春になっておってな。分厚いセーターが暑くて気づくんじゃ。おぉ、春じゃのう、衣替えをせんとの、とな。ゆっくりと起き出して、たんすの引き出しを開けると、コットン生地のシャツ、春セーターが顔を覗いたわい。今着ておるのより薄手の、たんぽぽ色のセーターじゃ。着心地のいいコットンシャツも好きでな。赤はこれ見よがしにサンタクロースじゃと主張しておるように見えるからな、季節が変わるとこうして違う色を着たいんじゃ。
 袖を通すと、ちときついな。こりゃまた運動せないかんな。まあでも、急がずあせらずじゃな。とりあえず、しまいそびれた炬燵に入って、紅茶でも飲んで、これからのことを考えるとしようじゃないか。

🎅☕

西野圭果さん

沈丁花初研修の帰り道

とのむらのりこさん

春、海に続く黄昏の坂道を
今ここを生きる勇気に変えて

チズさん

自転車の猫背しなって春夕焼

すうぷさん

春雷や自己決定の幸福論

風(ふぅ。)さん

あと一歩ゴール手前の春驟雨

ぽんっ!📖

 今日は研修初日。入社式を終え、あっという間に一日が過ぎた。帰り道、甘やかな香りに誘われて歩みを進めると、沈丁花が咲いている。おつかれさまと、言ってくれたような気がした。

 僕の住むアパートは、海辺の小高い丘にある。少し遠いが、安くて眺めもいい。電車に乗る。車窓の景色は瞬く間に変わりゆく。都会の喧騒から離れ、建物も疎らになってゆく。次第に海が見えてきて、最寄り駅で降り、海辺の自宅を目指し、続く坂道を行く。
 自転車が横を通る。丸まった背中には、リュックサック。籠にもマイバッグが詰まっている。後ろにはチャイルドシート。退勤後のお迎えだろうか。夕日に、勇姿が照らされ、影が伸びてゆく。

 空に閃光が走る。遅れて、遠くから雷の音が聞こえた。坂が続き下ばかり見ていたから、気づかなかった。夕焼け空はいつしか雲に覆われ、薄暗くなっていた。この辺は天気が変わりやすいのだ。
 就活は難航し、今日足を踏み入れた先は第一志望ではなかった。不安が大きかった。しかし、社長の挨拶は、格式張ったものではなく、心からの歓迎がこもっていて、研修をしてくれた上司、先輩方も温かくご指導くださった。第一志望でないから、なんだ。僕はここでがんばっていくんだ。そして、幸せになって、見返してやる。そんな決意が、雷と同期した。

 坂道がゆるやかになってきた頃、急に雨が降ってきた。雷が連れてきたか。パンパンのカバンに、折り畳み傘を入れ損ねた僕は、最後の力を振り絞ってひた走る。お金がなくて、スーツはこれともう一着。びしょ濡れになる前に帰って洗濯し、型崩れしないようにしなくては。
 息を切らせて部屋の前に着くと、雨は止んでいた。夢中で走っていたから、やっぱり気づかなかった。走ったからか、スーツも少し乾いている。これは逆にまずい。早く洗濯しよう。そしたら一息ついて、母が持たせてくれた作り置きのおかずをよそい、朝炊いておいたごはんを注いで食べよう。明日、また出社するために。

🌅🌧️⚡🏡

かっちーさん

散りてなほ潜むを知らず花筏

雪華さん

花いかだ与えてばかりで受けとらず救ってばかりで救われぬ人

すーこ

気遣ってくれるあなたは私より忙しいのにままならぬ春

ぽんっ!📘

 桜は、遠くからでもよく目立つ。散ってもなお、道を桜色に染め、風に吹かれた花弁は、川面に浮かび留まれり。花筏はしばらく川を彩って、春を主張する。

 花筏を眺めながら、ここ数日を振り返る。新年度が始まったが、私の部署は旧年度の忙しさを引きずったまま。私も先輩も忙しいけれど、その比ではないほど、上司は多忙を極めている。
 月曜日の定例会で仕事の割り振りを決めるのだが、声を上げたくなるほどに、流れるように上司自ら引き受けていく。しかし、入社して間もない私にできることもなく、目の前の仕事を、できるだけ周りに迷惑をかけないようこなす日々。
 金曜日、初めて休日出勤を決めた私は、ともに残っていた上司に申請のやり方を伺う。聞けば上司も明日、出社するという。手続きをすると、「あっ」と声がする。何かと横を見れば、机に手をついていた。声をかけると、「一瞬くらっときただけ、大丈夫」と。「いやいや、今すぐ帰ってください。戸締まりはしておきますから」「でも」「でもじゃないです、この前やり方教わったので、大丈夫です」離席していた先輩が何事かとやってきたので、事情を説明。先輩が、「私が一緒に戸締まりしますから、帰ってください」と説得し、やっと帰ってくれた。
 休んでほしい、との願いも虚しく、上司は翌日休日出勤してきた。私は、早起きして、開いているスーパーを梯子し、昨日調べておいた貧血や睡眠不足によさそうなものを身繕い、マイバッグをパンパンにして、出社した。出勤時間十分前に顔を出した上司に昨日のことを聞くと、結局地下鉄に乗れずタクシーで帰ったそう。「昨日はすぐ寝たからもう大丈夫」と言うが、顔色は芳しくない。今日は絶対定時で帰ると意気込み、黙々と仕事を進める。
 十五時になり、冷やしておいた苺を洗い、ヘタをとり、皿に分けて上司に渡す。「苺好きですか」と聞くと、「うん」と。ほっと胸を撫で下ろす。ただ一番好きな果物は葡萄らしい。種無し葡萄と迷ったのに。もし次があれば、葡萄にしよう。次がないことを祈りながら、苺を口に入れる。甘酸っぱい。水切りが甘く少し水っぽかったが、疲れた脳に糖分、栄養が行き渡る。
 そうしてまた互いに仕事を進め、定時五分前。「帰れそう?」と聞かれ、「はい」、と答える。準備万端。日報も書いたし、後は退勤ボタンを押してパソコンをしまうだけ。窓の戸締まりも、空気清浄機の電源オフもそれぞれ済ませておいたし、定時を待つばかり。束の間、ゆるやかな時間が流れる。
「今日、予約してたサイン本を取りに行くんだ」
「いいですね」
「ごめん、心配かけて。仕事の負担も減らせなくて。採用活動進めてるんだけど、なかなかね」
「なんとかしたいですね、人手不足。でも、あなたが倒れてしまうんじゃないかと、それが一番心配です。元気でいていただかないと、困りますし、悲しみます、みんな」
「うん、ありがとう。今日もゆっくり寝るよ」「そうしてください」
 定時になり、退勤ボタンを押す。鍵をかけ、電気を消し、エレベーターを降り、セキュリティーをかけ、外に出る。もうこの時間、こんなに明るくなっていたんだ、と今日初めて気づいた。
「今日の空は、一段と青く見えるよ」
「綺麗ですね」
「それじゃあ、僕はこっちに」
「サイン本楽しみですね。お疲れ様です」
「お疲れ様」

 花筏が流れゆく。どんなに大きな細かい網で掬っても、すべてを掬うことはできない。無情にも、取りこぼした花弁は流れ去ってしまう。でも、できるだけ、掬えるものは掬い上げたい。花弁の合間の水面に映る私は、決意の顔をしていた。

🏢🌸🌉

白熊杯で初めてぽんに挑戦。
お二方の三作品ずつから、それぞれお話を書かせていただきました。
今回は、みなさんの素敵な作品を繋いで、お話を紡いでみました。
どんな風に受け取っていただけるだろうかと、ドキドキしています。
朗読もそうですが、他の方が心を込めて作られた作品を別の形に昇華するのは、非常に難しく、勇気がいります。

プレ企画から考えると、二ヶ月近く楽しませていただいています。
仕事もプライベートもいろいろあった二ヶ月間。ライラック杯が心の支えの一つでした。
みんなの俳句大会でも、大きな発表がありましたね。私の思いはこちらに。

何もできない私ですが、ただ感謝しながら、楽しませていただき、ひとりでも多くの方と、めいいっぱい楽しめたらうれしいなと、勝手にたまにリンクを共有させていただいています。

私は、勝手に賞をお贈りする自信がなくて、今回もそこには踏み出せません…ごめんなさい。
すべての作品にまだ目を通せておらず、また、未熟な私が多くの方の目に触れるところで感想を書くのは怖くて。
こっそり味わわせていただき、ひとまず私の作品にコメントを寄せてくださった方のところにだけ、コメントに伺っております。
でも、本当にみなさんの作品はどれをとっても素敵なものばかりで、一つとして同じものがありません。
今回、なんと俳句だけで399句とのこと。すごいですよね。
運営のみなさん、参加されたみなさんが輪を広げ、素晴らしい才能が集い、運営のみなさんがお忙しいなか回って一つ一つの作品にコメントされ、一覧を作ってくださり、投票所をご準備くださる。そして、後日、みんなで選んだ賞と、ご審査員の方からの賞も決まります。
まずは今回、最後まで楽しみたいです!

サポートしてくださる方、ありがとうございます! いただいたサポートは大切に使わせていただき、私の糧といたします。