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愛の不時着もK-POPも知らない私がハマった韓国小説の話~ファン・ボルム『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』

やすこさんへ

最近、世の中何度目かの韓国ブームみたいね。私は韓流ドラマもK-POPもさっぱりなんだけど、なぜか今、韓国の小説にハマってます。

翻訳ものって読みにくいのもあるけど、私がこれまで読んだ韓国の小説はどれもすごく読みやすかったし、読めば読むほど日本人と韓国人って似てるんだなあと思わされます。儒教の影響で年上の人を敬う(少なくとも表面上は)ところ、他人の目を気にするところ、女性の社会的立場が低いところ、いい学校行っていい会社に入って高給取りになってこそ成功みたいなプレッシャー(親の期待、世間の目)が根強いところなど。似ているからわかりやすくて読みやすいのかも?

私が特に好きな作品は『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』

ヒュナム洞書店に集まる人たちは、みんな何かに躓いて、心に傷を抱えながら必死で立っている人たち。
一流企業でバリバリ働いていたけれど、ストレスで精神のバランスを崩し、離婚し会社も辞めて何かに追われるようにヒュナム洞書店を開いたヨンジュ。名門大学に進学したけど就活に失敗し、ヒュナム洞書店でバリスタのアルバイトをしているミンジュン。常に夫への不満を抱えながらも現状から抜け出せないジミ。常連客のミンチョルオンマは高校生の息子ミンチョルが全てに無気力であることに悩み、ミンチョル自身ももちろん自分の人生に悩んでいる。

それぞれ年齢も立場も違うけれど、わかりやすい<成功>や<幸せ>の型に上手く嵌れなかった人たちが、時に自分を信じられなくなったり、他者の期待に応えられなかったことに苦しんだり、傷ついたり怒ったり悩んだりしながら、少しずつ会話を重ねて、傷をいたわり合って、ゆるい連帯の中でゆっくりと自分にちょうどいい生き方や幸せを見つけていく。そういう話が私はどうも好きみたい。

読んでいて『違国日記』の笠町君を思い出したよ。
これしかない、ここから落ちたら終わりと思っていたけど、実はなっていい自分は他にいくらでもあったと気づいたって話。あれもすごく好きなエピソードなんだよね。そういう話、今とても求められている気がする。

あとがきの言葉がまたいいんだ。

つまりわたしは、自分が読みたいと思う物語を書きたかった。自分だけのペースや方向を見つけていく人たちの物語を。悩み、揺らぎ、挫折しながらも、自分自身を信じて待ってあげる人たちの物語を。ともすれば自分や自分に関係する多くのものを卑下しがちな世の中で、自分のささやかな努力や労働や地道さを擁護してくれる物語を。もっとがんばらねばと自分を追い詰めて日常の楽しさを失くしてしまったわたしの肩を、温かく包んでくれる物語を。

P.358作者のことば

まさに作者の思いがそのまま結実したようなこの小説。今のところ、これ、私の2024年上半期ベスト1です。

やすこさんは韓国の小説って読んだことある?なければ最初の一冊にぜひおすすめ。

2024年2月16日
かおり


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