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【北尾光司/横綱双羽黒】映画『クエスト』令和四年七月場所を終えて

※映画の内容のネタバレがあります

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、最終的に関取の休場者が23人となる異例の事態の中進んだ令和四年(2022年)の大相撲七月場所(名古屋場所)は、逸ノ城が初優勝を果たして幕を閉じた。
幕下付出で初土俵を踏んだ2014年のうちに所要4場所で新入幕、さらに関脇にまで昇進し、「すぐにでも優勝、横綱」という声も多かったがその後は苦しみ、新入幕から47場所目にして悲願の初優勝となった。

2021年には鶴竜白鵬と、2人のモンゴル出身横綱が土俵を去った。2022年に入り一月場所は御嶽海、三月場所は若隆景が優勝と日本人力士の活躍も以前に比べると目立つようになったが、五月場所は一人横綱の照ノ富士が、今場所は逸ノ城が優勝。さらには朝青龍の甥にあたる豊昇龍が小結で3場所連続の勝ち越しを決めるなど力を付けてきておりまだまだモンゴル出身の勢力が衰える気配は無い。

さて表題の話。
1996年公開の『クエスト』(原題『The Quest』)というアクション映画がある。
「スーパーヴァンダミングアクション」でお馴染みのジャン=クロード・ヴァン・ダムの主演映画にして彼の記念すべき初監督作品だ。

ここで注目したいのはヴァン・ダムの初監督映画ということではなく、第60代横綱双羽黒光司こと北尾光司が出演していることだ。それもちょい役ではない。
ちょい役ではないのだが、この『クエスト』という映画自体、ヴァン・ダムの映画の中でも取り上げられることが少なく、コアな相撲ファンでも北尾光司が出演していることを知っている人も少ないのではないだろうか。
その証拠にWikipediaの北尾光司のページにはこの映画への出演の記載が一切無い(2022年7月25日現在)。

世界の各所から、それぞれの地域を代表した精鋭16人が集められて催される格闘大会を中心に描かれる映画。それがこの『クエスト』なのだが、その16人の中に、ヴァン・ダム演じる主人公とともに北尾光司演じる力士が日本代表として参戦している。
鳥山明の漫画『ドラゴンボール』の世界では「天下一武道会」という格闘大会が行われているが、裏の世界で行われる闇天下一武道会のようなものだと思ってくれるといい。

映画では圧倒的な力を見せて準決勝まで勝ち進む力士の姿が描かれており、初戦を前に立ち上がるシーンで化粧まわしが一瞬だけ映るのだが、最近このシーンを見返していて、この化粧まわしにはっきりと「北尾」の名前が刺繡されているのを今更ながら発見したことがあって今回これを書こうと思ったわけだ。大関時代までは本名の北尾を四股名に土俵へ上がっていたので私物だったのかもしれない。

本当に一瞬だけ映る

「準決勝まで勝ち進む」と前述したように 力士は準決勝で敗れる。
圧倒的な力で勝ち進んだ力士が一方的に叩きのめされる(※)のだが、これが主人公と決勝で対決する相手の強さを際立たせることになっており、非常に重要な役どころと言っていいだろう。
注目したいのは準決勝で北尾を破るこの相手がモンゴル代表だということである。

※このシーンを見て「(『北斗の拳』の)ハート様みたいになってる」と言った人がいた。非常にいいやられっぷりなので機会があればぜひ見てほしい。

冒頭でも触れたようにモンゴル出身力士というのは現在の相撲界では毎場所のように優勝争いに絡むような一大勢力となっているが、
横綱双羽黒が突然の廃業となったのは1988年の一月場所を前にしてのことで、この時点ではモンゴル出身力士の影さえ無かった。
(結果的に現役最後となった1987年十一月場所の成績は13勝2敗)
1992年旭鷲山旭天鵬ら6人が大島部屋に入門、同年の三月場所で初土俵を踏んだのが相撲界におけるモンゴル人力士の歴史の始まりだ。

1996年に北尾光司が力士役で出演した映画『クエスト』公開。
1997年には旭鷲山がモンゴル人力士として初めて三役に昇進。
2003年には朝青龍がモンゴル人力士として初めて横綱に昇進。
第68代の朝青龍から第71代の鶴竜まで4代連続で横綱をモンゴル出身力士が占めるなど相撲界はモンゴル勢に席巻されていくことになる。

未来を見越してこの映画が作られたなんてことはあり得ないのだけれども、日本の国技たる相撲界がモンゴル勢に席巻されていくのと照らし合わせるとなんとも暗示的ではないか。

第60代横綱双羽黒こと北尾光司は2019年に他界。
今となってはその心の内を知ることはできないのであるが、不本意な形で去った相撲界がモンゴル勢に席巻されていくのをどのような思いで見ていたのか、この映画に触れるたびに聞いてみたくなってしまうのだ。

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