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幕が下りた世界にも明日が来る。 『星を編む』

”わたしたちは幸せだったのかもしれないね。”

『星を編む』凪良ゆう

この先になんの物語もなくても。

”「おいしいねって一緒にご飯を食べられるのは、それだけで最大の幸せです」”
”ずっと覚えていることと、忘れられないことは、どうちがうのだろう。”
”「もう一度恋をしたいと思わないの?」”
”「幸も不幸も、一点に留まり続けるものではないということでしょう」”
”積み上がった記憶は整理も回収もされず、ある日、散らかったまま終わる。”
”ああ、そうか。そうかもね。わたしたちは幸せだったのかもしれないね。”
”あの夏、夜の海へと落ちていった幾千の火花を思い出す。”

『星を編む』凪良ゆう

花火は消える。夏は終わる。
幕が下りた世界にも明日が来る。

感想

何度選んで、何度捨てても、生きてる限り道は続く。
自由を選んだその先で、もう一度人生と幸福の意味を問い直す主人公。
凪良さんらしい瑞々しい言葉で綴られた、エンドロールのような一冊でした。

人生って物語ではないんですよね。
よく人生を物語に例える表現を目にしますが、それは花火のような一瞬のターニングポイントであって、点と点の間に横たわる時間のほとんどは、なにも特別ではない生活で埋めつくされています。
朝は起きて、昨日と似たような今日を過ごして、夜には眠る。
そうして日々を過ごすうちに、記憶は薄れていき、思想は溶けてかたちを変えてしまい、あの時出したはずの答えに、再び疑問符が浮かぶ。

”「幸も不幸も、一点に留まり続けるものではないということでしょう」”

『星を編む』凪良ゆう

そのとおりなんだと思います。
人生は物語じゃない。そんな綺麗に完結させられるものじゃない。
小説の最後の1ページを飾るような答えを、一生信じて生きていけるわけがないのでしょう。
何度でも選んで、何度でも捨てる。
もがき苦しんでようやく出した答えを疑い、何度も何度も向き合わなければいけない。
組み直して、壊して、また組み直して、そして”ある日、散らかったまま終わる。”
その繰り返しにどんな意味を見出すかは、人の自由なんでしょう。

今回は凪良ゆうさんの新作で、2023年本屋大賞の前作『汝、星のごとく』の番外編でした。
三つの短編からなる一冊で、『星を編む』はその二本目、ふたりの編集者が前作主人公が遺した小説を刊行するまでの物語なんですが、タイトルが秀逸すぎませんか。
星を、編むって。
絶対このタイトル思いついたとき凪良さん「よっしゃ!」って思ったでしょ。すばらしいセンスだと思います。
前作同様とても美しい装丁で、本棚におさめるとため息がもれました。


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