今夜あなたが震えていればいい。 『20代で得た知見』
いつも誰かを探している。
自分と同じ、深く青い香りをまとった誰かを。
そして祈るように呪っている。
今夜あなたが孤独に震えていればいいと。
感想
言葉はあくまで記号であって、それそのものではありません。
だからどうしても言葉では届かない領域があります。
空気とか、時間とか、香りとか、言葉では表現しがたいそれらを、著者のF(エフ)さんは「文学の領域」と呼びました。
ところで「文学の領域」は誰かと共有するの難しい。
言葉にならないものなので、言葉で説明ができないんです。当然ですね。
そんな「文学の領域」を共有する数少ない手段のひとつが、そこに一緒に足を踏み入れること、つまりその瞬間を一緒に体験することなんだと思います。
たとえば花火が打ち上がった瞬間の「それ」を言葉で表現できなくても、隣に立つその人と目を合わせれば、きっと言葉はいらないでしょう。
この「文学の領域」を共有することこそ、幸せと呼ぶんじゃないかと私は思いました。
そしてそれを共有できないことを、孤独と呼ぶんじゃないかと。
ずいぶん昔に読んだ小説に、こんな台詞がありました。
誰もいない世界で生きる、孤独な老人の口から出た言葉でした。
それはあまりに切実な言葉で、いまも私の価値観に刻みこまれています。
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