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ジェームズ・ボンド(もしくはジャッキー・チェン)とばあちゃん

 小学生の頃に、よくばあちゃんと映画に行った。父と母が喧嘩して、母が家出をするときには、自分はよく母方の実家へ一緒に逃げていたので、そういったこともあって自分はばあちゃんっ子だった。ばあちゃんの映画の好みは結構渋く、アクション映画が大好きで、007シリーズ(当時のボンドはピアース・ブロスナン)とかジャッキー・チェンの映画をよく見に行った。映画を見終えたら母が迎えに来て、近くのショッピングセンターでとんかつやパスタなんか普段食べないものをたくさん食べた。今思えば、ばあちゃんとの映画鑑賞は映画を観ることの原体験であり、また、映画を観て美味しいものを食べるというのは、最も幸せな小学生の頃の記憶だと思う。


 007シリーズといえば、みなさんご存じのとおり(?)、少しエロいシーンが必ず入る。
 ボンドは無事任務を遂行し、世界の平和は保たれた。しかし、それを陰で実現したボンドは姿が見えない。MI6でボンドの上司であるMが監視カメラでボンドの姿を探していると、とあるホテルにボンドを発見。ホテルの一室にサーモカメラが寄っていくと、真っ赤に熱を帯びているボンド。Mは「やれやれ」といった顔でカメラをオフにする。
 みたいなシーンが多々あった印象。
 あの家族といるときのエロいシーンというのは、何とも言えずドキドキというか無表情というか早く終わってくれよボンドというか、筆舌に尽くし難いものがある。そんな絶妙な空気を初めて味わったのもあの頃のような気がする。自分とばあちゃんは必死に無表情を装いスクリーンを凝視していたに違いない。

 ジャッキーの映画でいえば、この頃記憶に強いのはレッドブロンクス、ファイナル・プロジェクト、Who am I?、ラッシュ・アワー、ゴージャス。今でも自分の中でのジャッキーがヒーローで、最新作を見続けているのはこの頃の映画がめちゃくちゃ面白かったからだと思う。今見ても、スタントでなく、CGでなく、身体ひとつであんな映画撮ってたんかい、とテンションがめっちゃ上がる。小学校のときに仲の良かった友達と、ジャッキーとクリス・タッカーが一緒に首を振りながら踊るやつ(ラッシュ・アワーですね)を、目が合うたびに踊っていたのも思い出す。目が合う、謎のダンスを踊る、笑い合う。これも映画を共有する楽しさ、という原体験か。


 そういえば、ばあちゃんとの映画鑑賞会は長くは続かなかった。自分が中学生になったこともあるのだけれど、ばあちゃんが映画を観れなくなった。母の話によると、一人で映画にはよく行っていたらしいが、サム・ライミ版のスパイダーマン(2002年)を見に行った時に、そのスピード感とアクションについていけず、気持ち悪くなってしまったらしい。新しいアクション映画にはついていけないとショックを受けて、それ以来あまり映画館にはいかなくなったようである。自分は、その頃血気盛んな青春ボーイだから、自分のことで精いっぱいだったのだろうけど、今となってはばあちゃんが映画を観なくなったのは悲しい。中途半端に尖った青春を送らずに、ばあちゃんに声をかけて、見れる映画を一緒に見ておけばよかったと思う。いまとなってはなんとやら。


 あ、ばあちゃんはまだ生きてます。生きてますが、やっぱり映画はみないみたい。孫にとっては一緒に映画が見れたらいいんだけど、今はもうそういう気分じゃないみたいだ。自分の今好きな趣味も、年をとったら楽しめなくなるのか。ばあちゃんに今楽しいことがあるのか。色々考えるけど、ばあちゃんの家の蜜柑ができるころには(毎年蜜柑狩りの手伝いに行く)、また家に行って昔見た映画の話でもしてみようか。うまくいったら、一緒に映画みれるかも。今のアクション映画でばあちゃんに合うものはあるだろうか。
エクスペンダブルズか。
ミッションインポッシブルか。
マーベルはだめかなぁ。



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