さわって、反射で読む


ときどき衝動的に本を買い求める。

新品の本、古本、電子本。学生時代は、本を一冊買うのにも、あれを諦め、これを借りて・・・と悩むことひとしおだったが、社会人になって予算の自由度が高くなった。本屋に足を運んで、気になったものをその場で買うのも好きだし、パソコンでの調べ物が高じて、Amazonで参考書を注文してしまうこともある。

紙の本は保管に場所をとるし、重いし、ホコリが積もらないよう掃除しなくてはいけないしと、色々と持っておくには大変な面も多い。それでも、電子本のみで満足できないのは、その本との間に、手ざわりを介した「親しい関係」が欲しいからだ。

ページの上に印字された文字。

点字の本や、活版印刷でないと、その文字ごとの感触を味わうことはない。けれど、ページを繰る際につまむ、話の筋を追いかけて行を指でなぞる、読んでいた途中で「似たようなことをどこかで読んだな」と、しおりや付箋を挟むときに感じる、冊子の厚みや手ざわりは、紙の本の共通した特徴で、光信号の本では、代わりを務められない。

個人的には、紙の本こそ、バーチャルリアリティー(VR)装置の「先達」であり、最先端だと思っている。


空気の乾湿によって膨らんだり、静電気でページがはり付いたりする紙の本は、まるで呼吸するように私たちの生活に寄り添い、人が歳を重ねるように、時が経てば相応に姿を変えていく。

本が、最初の持ち主の手を離れ、誰かの手に渡ることもある。その過程で補修されたり、人の寿命を超えて生き残る本もまれにあるけれど、その殆どは、数十年にも満たないうちに、本としての命数を終えてしまう。そして、そんな本を焼却処理という形ではなく、古紙再生リサイクルという循環の中で、再び「ふれる」ものへ生まれ変わらせる産業がある。


先日、ネット注文した中古本と一緒に、長野県にあるVALUE BOOKSさんという、事業体としては大手の古本屋さんの存在と、活動を知る機会に恵まれた。

そちらのwebマガジンサイトで、古紙再生の工程を追いかけた記事があり、小学生以来の工場見学気分を味わうことが出来た。


ふれて楽しむ本は、生き物のように変化があり、陽光や電灯など、私たちを包む光のもと、向かいに座った人、街並み、湯気の立つマグカップなどと同じ地平に存在する。外光の反射によって間接的に視認する文字と、直接的な手ざわりという実感との間に、なんともいえない、ゆったりとした時間が流れ、想像力の羽ばたく余地が生まれる。

魅力的な古本屋や、ブックカフェが新しくできるというニュースを聞くたび、心ときめく思いがするのは、そうした緩やかな、居心地の良い時間を、紙の本が与えてくれるという期待感があるからだ。


様々な情報が、よりスピーディーに飛び交う時代でも、人の心臓が1分間に脈打つ回数は変わらない。頭の中で求める速さに、身体を使って走れる速さが追いつくことは出来ない。

その埋まらない距離感が、日々開いていくように思うからこそ、その距離感を冷静に、静かに、縮めることで安らぎを得たい。

そんなことを思った。




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