黄金色の輝き

人の記憶は、どれくらい長く物事を覚えていることが出来るのだろうか。

どれくらい時間が経てば、今の気持ちを忘れてしまうのだろう。きっといつかは忘れる。

でも、たとえ忘れたつもりでも、突然ずっと昔の記憶がよみがえる時がある。

私の高校は、東京の荒川という川幅が1キロほどある巨大な人造河川の近くにあった。

荒川は私の家とは逆の方向にあるのだが、川を渡って帰る時があった。

親しくしていた友人の家がその方向にあり、時々回り道をして一緒に帰った。

川の上はいつも風が強く吹いていて、話もしにくいから、長い橋の上を二人並んで黙って歩いた。

私はいつもその友人の少し後ろを歩いていた気がする。彼女の長い髪の毛が風にあおられ、夕日に照らされて黄金色に輝いていた。

真っ黒な髪の毛なのに、夕日に照らされると黄金色に見えるのが不思議だと思った。それは川の水面をすかして、きらきらと輝いていた。

見とれてしまった時、風の音も、ひっきりなしに通り過ぎる車の音も一瞬聞こえなくなったような気がした。

そんなことはずっと忘れていたのに、ほとんど唐突に、その時の髪の毛が黄金色に輝く情景が、意識の中に浮かび上がってきた。

すると、長い間忘れていたその当時の記憶が、いろいろと思い出されて、心が震える思いがした。

ささいな出来事ほど、時間が経つと大切に思えるのはなぜだろう。

はるか昔の記憶でも、思い出すと心が温かくなることが不思議だった。

そして、この記憶もまた忘れてしまうのだろうけど、出来ればこの人生の間にもう一回くらい思い出されて欲しいと思う。