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画家がプリクラのらくがきツールで本気で絵を描く

「最近のプリクラはらくがきをしないのがはやっている」
という事実を知ったときはけっこう衝撃的だった。

プリクラの醍醐味って、らくがきできることじゃなかったのか。
らくがきしないなんて、携帯でとる写真とそんなに変わらないのではないか。

時代は巡るのか……。次世代とのギャップに、しばらく遠くを見つめた。

今一度、プリクラにらくがきをする楽しさを皆に伝えたい。
どうしたらこの魅力が伝わるだろう。

そうだ!プロの画家に本気でプリクラに絵を描いてもらったらどうだろう??

もはやらくがきではなく、本気でプリクラというキャンバスに絵を描いたら……!!

新たな表現技法として、アート界がどよめくのが遠くで聞こえた気がした。

これは実現させなければいけない!という変な義務感にかられた私は画家の友人に連絡を取ったのだった。

私の誘いに二つ返事でOKしてくれた日本画作家のおきちゃん。(右)

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想像の世界に生きるアーティストのまなざし。

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ちなみに普段はこのような絵を描かれています。すてき……。

プリクラというキャンバスに、何を描いてくれるのだろうか。
期待が高まる。

ちなみにおきちゃんはプリクラを撮るのは3年ぶり、私は5年ぶりくらいである。

本気を出すために、ふたりとも普段の作業着でいどむことにした。

さぁ、気合をいれてゲーセンに行こう!!


ゲーセンに一歩あしを踏み入れると、そこは別世界。
懐かしい喧騒にノスタルジーを感じつつ、プリクラコーナーへと進む。

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プリクラコーナーの一角に必ずあるメイクルーム。
今はコロナ対策のため行っていないが、いつもならヘアアイロンの貸し出しもしてくれるらしい。
アイロンで髪を巻く、プリクラをとるためだけに……!!!
物理的な熱だけでなく、おしゃれに対してのあつい熱も感じる。

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機械の中に入ろうとすると、札がかかっていた。
誰かが使用するたびに除菌しているのだ!コロナ対策を徹底している!

除菌済みの機械をさがしてさっそく入ってみる。

1、「Mixme.」で撮ってみる

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最初に入ったのはこちらのプリクラ機。

モデルさんにかぶせて広告のポスターを貼ってメッセージ性を上げる作戦かもしれない。
「マスクしてね!」と強い目力で言われている気持ちになる。
あと肩にこびとがのってる!!南くんの恋人みたい!!


絵を描くのがメインなので、あまり写らない方が描きやすいだろうということになった。
できるだけはじっこにいて、カメラに写らないようにしよう。

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いまだかつて、プリクラを撮っているのに写らない努力をした人がいただろうか。

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がんばって写らないようにするバカバカしさにツボにはまる二人。

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「写らない」というだけで普通に撮る5倍くらいたのしい。

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この機種は天井にもカメラがついていることが判明し、
動揺しつつも天井モードのカメラもがんばってよける。

ひととおり撮り終わったので、いよいよここからが本番である。

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らくがきブースに移動。

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絵を描きはじめて、わずか2分くらいでらくがき終了のカウントダウンが始まった。

やばい!!まだ何描くか考えてる段階なのに!!
と思ったらプレゼントタイムになり、少し時間を増やされたようだった。

何このあせるシステム!!


「中間色がない〜!!」と横で叫ぶおきちゃん。
ペンは大体パステルカラーしかなく、絵を描くには色味が少ない。
ペンの太さは多少調節ができるため、あとで細かいかきこみをしよう!……と思っている間にらくがきタイムは終了した。
プレゼントタイム含めても、体感では全部で5分くらいであった。短い……!!

そして完成したのがこちら!!!

プリクラ1

さすがおきちゃん!おいしそうなオムライスである。

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たまご部分だけでも5色くらい使っている。
ちょうどいい色がなかったので、皿は描かず直置きとなったらしい。

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この写真は天井からのカメラをよけ切れず写ってしまっている。
ひよことたまごはもともと背景に合成されていたので、にわとりのおかあさんだけ私が描きこんだ。

一回描いてみてわかったことは、
とにかく時間が足りなすぎる!!!ということだ。
せっかく何枚も描けるのだから、全てに絵を描きたい気持ちになるが、ここは1点にしぼって描き込んだ方が作品としてのクオリティがあがるのではないか、という結論にいたった。

そして何を描くか事前に決めておいた方がいい。迷ってる時間がもったいない。

さぁ、次は何を描くか……、と考えていたら、おきちゃんが、
「わたし、プリクラの絵を描きます!」と言った。

話を聞くと、ケータイのアプリでプリクラ風に私たちの写真を撮り、その絵をプリクラに描きたいいうことだった。

プリクラ風の写真をプリクラに描く……!!!
その斬新な発想に、アーティストの魂がキラリとひかる片鱗を見たきがした。
かつてプリクラのらくがきでプリクラの絵を描いた人がいただろうか。

最初はらくがきの楽しさを再確認したい思いではじめたことだったが、
時代を逆走しているうちに、ついにプリクラの表現の向こう側に来てしまったのかもしれない。

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写真加工アプリSNOWを使い、プリクラ機の横でプリクラ風の写真を撮るふたり。

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そして撮った写真がこちら。すごい!!完全にプリクラの写り!!
今はケータイでこんなプリクラ風に撮れるのに、わざわざプリクラを撮る意味とは、やはりらくがきできる点に尽きるのではないだろうか。


私はゴッホの模写を描くことにした。

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一番有名な「星月夜」を描く。

よし、描く絵も決まったことだし、さっそくはじめよう。
次に入ったプリクラ機はこちら。


2、「Melulu」で撮ってみる

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らくがきブースのビニールシートをたぐり上げてモデルさんのフェイスシールド風になっている。ブースの通気性をよくしているのだろうか。

さっそく撮っていこう!

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カメラにうつらないことが、私たちのキャンバスづくりである。
もうこの時点から制作は始まっている。



このあとらくがきブースに移ったのだが、描くのに集中していて写真をとるのをわすれてしまった。
はたしてどんなプリクラが出来上がったのだろうか。 

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完成はこちら!!

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私の顔の方だけ描き込んでくれてる……!!

時間短縮のために背景のベースの色をベージュにして肌の色を作りやすくしたりして工夫しているのがさすがだった。
でも、時間との戦いに勝てない。らくがき時間短すぎるよ!!!!

おきちゃんも全部描けなかったことがくやしそうだ。

でもまゆげの感じとか、私の特徴をこの5分くらいでとらえていてすごい。
プロの画家に似顔絵を描いてもらったぞ!!うれしい。


そして私の描いた絵はこちら。

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何となくゴッホっぽい雰囲気だけはでてるかな……?
本当はもう一段階深い青が欲しかったのだが、暗い色は黒しかなかった。

でもゴッホの模写は大雑把な線で描けるので、画面を埋め尽くすことはできた!!
印象派の模写いいかも!!

ちなみに印象派とは、一言で言えば筆の動きが見えるようなタッチの絵画を描く人たちのことで、モネとか、セザンヌとか、ゴッホとかである。(たぶん)


2つの機種を試して分かったこと
・めちゃくちゃ時間がないので細かい描き込み系は無理そう。
・パステル系の色が多い。
・印象派の模写向いてるかも。

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…………モネだ!!!!!
パステルで印象派の画家と言えばモネ!!!!

「私、最後に本気でモネを描きます!」
とおきちゃんが高らかに宣言したので、最後にもう一回、プリクラを撮ることになった。
作家魂に火がついた瞬間をみた。

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よし!私はムンクの「叫び」を描くぞ!
パステルじゃないけど、今はなんだか叫びたい気分だ!!

今までつちかった技術を全て出し切ろう!!!!
二人のやる気は燃えに燃えて、消毒済みの空いているプリクラ機を探すのだった。

3、「SUU THREE」で撮ってみる

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最後に選んだのはこのプリクラ機である。

ほとんどの機械がそうだけど、この顔にチラシを貼るセンス一体なんなんだ。

ちなみにこの機種は透明感のある写真が撮れるらしい。
画質を生かして透明感のある絵が描けそうだ。


まずは撮影!と思ったら、なんとこの機種は写ってなさすぎると撮り直しになってしまう機能がついていた。
写ってなさすぎたら撮り直し、でも写りすぎていると絵を描くとき邪魔という板ばさみ状態。
描くとき邪魔にならない程度にちょっとうつりこむという高等技術がもとめられる事態となった。

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手だけうつりこんでみたり。

このちょっとだけうつるというのがかなり難しく、「写っていないので撮りなおします」と機械に言われてさんざん撮りなおしするはめになった。

何とか撮り終わり、メインのらくがきブースへ移動する。

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目の大きさと濃さを調整する画面になった。
通常はそれぞれの顔が映し出されて調整するみたいだが、私たちは一切顔認証されておらず、無の空間が広がっているだけだ。
喜怒哀楽のどれにも当てはまらない感情が私たちをつつんだ。

しかし、選択しないと次の画面にいけない。
業務的に無の空間の目の大きさ、濃さを選んだ。
何となくこわい気持ちになった。

気をとりなおして、制作に移ろう。

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これが撮りなおしにならない程度に微妙にうつり込む高等技術である。

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隣を見ると色々なペンツールをおきちゃんはたくみに使いわけている。
この機種はすかしペンがあり、しかもそのすかし具合を調節できるというハイテクな機能があった。
おきちゃんは、このすかし技法を使って下に描いた色との混色という新たな技法を生み出していた。

……すごい!!!
今までの人生で見てきた中で、一番クオリティが高いプリクラの絵だ……!!!

「プリクラ画」という絵画技法が産声をあげた瞬間であった。

そんなこんなで、出来上がったおきちゃんの作品がこちら。

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……モネだ!!!
モネの「散歩、日傘をさす女性」だ!!!

モネ→

実は左下の黒いかげはわたしの頭である。
図らずもおきちゃんとコラボすることに成功した。

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そして私のムンクの叫びはこちら。

思わず叫びが聞こえてきそうな躍動感!!
私もすかしの技法をつかって、ちょっとにごったような色味をだした。
1枚目に描いたものと比べたら驚くほどの成長だ。自分をほめたい。

こうして印刷されたプリクラシール。

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今までこんなプリクラみたことない!!
美術館のグッズみたい!

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そしてなんと半透明!!!
今どきのプリクラってこんな感じなの!!??
知らなかった……。

透明感のある写真が撮れるって、物理的な透明感の方だったのだろうか。

これ

絵をかかなかった写真には私たちの努力の爪あとが残っていた。

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戦い終えた二人は、さわやかな疲労感でいっぱいだった。
絵を描くのってこんな汗かくんだな……。

でもプリクラの新しい可能性を開拓できた気がする。
他の機種もいろいろ試せば、まだまだ新しい技法が生まれそうだ。

私たちは久しぶりにプリクラ に絵を描く楽しさを再確認したのだった。


是非皆さんも、絵を描くためだけにゲームセンターに行ってみてははいかがだろうか。

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こうして5年ぶりに更新された私のプリクラ帳は、芸術的な1ページとなったのであった。

おわり。

サポートしていただくと、次の工作記事がとっても豪華になります。