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柔く、脆く、薄氷に立つように笑うんだ

 大丈夫?優しい言葉がとげとなり、心を突き刺す。
”よく頑張ったね”張り詰めた心がやわく、ほぐれていく。

 頑張ってね!励ましの言葉が刃となり、心を切りつける。
”もう十分だよ、頑張らなくてもいい、一緒に休もうか”
頑丈な心の壁が脆く崩れ、涙が溢れ出すの。

 なまけてるね、たるんでるんじゃない?叱咤しったの言葉に打ちのめされる。
”ゆっくり大きく息を吸って、吐いてごらん?もう怖くないんだよ”
包み込まれる安心感に安堵あんどし、心が穏やかに落ち着いていくの。

 出来ないじゃない、やるんだよ!薄氷が割れ、凍てつく水底すいていに心が沈む。
”自分のペースでいいんだよ、出来たじゃん!凄いね、頑張ったね!”
小さな肯定が自己否定で閉ざした心の扉をノックするの。

 何黙ってんの?早く答えなよ!あせるほどに声を失っていくの。
”言葉にならなくてもいいよ、話さなきゃって頑張ってるの伝わってるよ”
ごめんなさい……話さなきゃ……話せない……ごめんなさい……
――でも、少しだけ心の扉、開けてみようかな。
恐怖が少しだけ薄らいでいくの。

 頑張らなくちゃいけないことも分かっているの。
心が弱くて、どうしようもない自分だって知っているの。
柔く、脆く、薄氷に立つように笑っているの。
そうやって頑張ろうとしているの。

 分かって欲しい訳じゃないの。
ただ、少しだけでいい……知ってくれたら嬉しいの。
僕は僕が誰より一番嫌いだから、誰よりも弱いって知ってるから
そんな僕でも此処ここにいてもいいんだって思えたらまだ生きていられるの。

 名前も知らない何処かの誰かに届いてくれたらいいな……。
こんな僕が言うのも烏滸おこがましいけれど、あなたはもう十分頑張ってるよ。

――だから、大丈夫だよ。生きてていいんだよ。

もしも明日……いや、今日、あなたが死んでしまっても僕は責めないよ。
だけどね、生きていてくれたら嬉しいな。

最後まで読んでくれてありがとう。


                         可惜 夜-Atarai Yoru-

 

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