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短歌《いつかのわたしたち》

ミルク多めのカフェオレを飲みたいと優しさに飢えてるわたしたち

枯れかけの花束愛でるあのひとはきっと誰の死も愛してくれる

ぽつぽつと咲き始めてる桜見て散りゆくとこを想像してる

無意識に二人分の珈琲を淹れるくらいに君が好きだよ

誰もかも死んだ人には優しくて誰のための優しさなのか

みっちりと包まれている購買の惣菜パンの優しさを買う

まんまるのホットケーキにナイフ刺す世界を覗く切り込み入れる

君と僕 隔てるようにひらひらと舞い散る桜スローモーション

白鳥のボート漕ぐ足止め君と見つめ合うときふたりぼっち

猫を撮る君を撮る僕無意識にこれが恋だとあの日気付いて

ぐつぐつとレトルトカレー温める一人暮らしのワンルームにて

ドーナツの輪から覗いた青空は不幸なんて知らぬほど青く

珈琲ゼリーにメロディアンが広がる 心の染みを誤魔化すように

生きるため死を美化してるあの人は猫の死骸を無視して歩く

夏祭りで掬いとった金魚たちごめんねわたし死神みたい

公園のベンチで休む足元に近付く鳩は平和ボケして

大丈夫 過去のことにしてしまえば 捨ててもいいの おやすみなさい

夏服の衣装ケースを開けたならあの日の暑さが匂いとなって

夕方に虫の鳴く声拾う耳一足先に夏へと向かう

マスターの趣味なのかしら永遠に流れ続ける相撲中継

映えのため常連さんが減っていく喫茶店の良さも消えてく

真っ白のアイスが溶けるエメラルドソーダが濁るそれでも綺麗

あなたから借りた本に挟まったいつかの献立メモにときめく

テキトーな相槌さえもあなたなら許してしまうきっと愛だね

半袖の日焼けあとがうっすらと僕らの夏を過去にしていく

真っ青な食べ物で唯一好きよ 真夏に齧るガリガリ君

有線のイヤホンさしたスマートフォン リードをしてる犬と飼い主

人生を加筆修正されぬようマッキーではっきりと書く遺書

フォアグラを切り分けているそのナイフ血を見ることなく一生終える

シロップをいっぱいかけたかき氷スプーンで崩す溶ける南極

蝉の声聴こえた途端立ち止まる夏から目を逸らせなくなる

はみでたら地獄だからと軽快に日陰を歩くサンダルのきみ

床下にひっそり眠る梅酒の瓶 特別な日の光だけ浴びて

汗かいてポニーテールを結い直す 君のうなじが真夏を告げる

菜箸でスイカの種を取り除く普段のきみを知れて嬉しい

ちょっとずつウソを重ねてわたしたち世界をつくるホントの世界を

真っ青なガリガリ君を求めない夏がきた僕らは大人

人間のそれじゃないからお洒落なの動物皮の鞄や服が

枝豆をひたすら食べるきみを見て実家のハムスター思い出す

ぺしゃんこに潰れたストゼロ空き缶が車道でひとり夜風に揺られ

甘ったるいコーラの味で思い出す映画館で君と観たホラー

途中から字幕を追うの諦めたポップコーンに水分奪われ

パチパチと線香花火儚げに散りゆく火花君を照らして

チューハイをグラスに移し呑むあなたそういうところをすきになったの

ベランダで打ち上げ花火眺めつつ君との通話向こうで笛が

良い人でありたいと言うあなたから優しさ引いてもすきでいるから

君の吸う煙草の脆い灰になり落ちてもいいと思えた恋だね

色白の腕にぽつりと蚊にさされた跡があるからムヒを塗るね

逆光でちゃんと見えない いまどんな顔してわたしを見ているのか

食パンを掴んでついた指の跡ちゃんと生きてるわたしとあなた


わたしの日常あなたの日常誰かの日常を虫眼鏡で覗くように言葉を連ねる短歌がすきです
何気ない日々を優しく撫でて愛してあげられますように

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