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水素社会実現のためには?

水素社会の実現を目指す」といわれてから5年ほどが経過しました。水素社会とは、水素をエネルギー・燃料として活用する社会のことです。水素は、水や石油、天然ガス、石炭など、さまざまなエネルギー資源から作ることができます。その用途は発電のために利用したり、燃焼させてエネルギーとして利用したりできます。利用時にCO2を排出しないため、クリーンなエネルギーといわれています。

 水素エネルギー利活用の意義としては、日本のエネルギー政策の基本方針である「3E+S」を同時に達成することが出来る点です。「3E+S」とは、Safety(安全性)を大前提とし、3E、即ちEnergy Security(自給率)、Economic Efficiency(経済効率性)、Environment(環境適合)を同時達成するということです。

 経産省などでは、環境と自給率をともに解決する水素は、日本にとって究極のエネルギーとなり得ると捉えています。日本の水素・燃料電池分野の先進技術を生かすことによって、産業競争力強化にも資するとしています。

 水素エネルギーのエネルギー政策上の位置づけですが、以下のように説明されています。「日本は、一次エネルギーの90%以上を海外の化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)に依存しています。水素エネルギー利用は、現在の我が国のエネルギー供給構造を変革・多様化させ、大幅な低炭素化を実現するポテンシャルを有する手段です。」と。

 つまり、化石燃料を水素に代替することによって、エネルギー源の多様化が可能になり、同時にエネルギーの自給率をも向上させるというのです。水素を、発電や産業、運輸分野で利用することによって、エネルギー利用の低炭素にもつながるというのです。

 それでは、水素社会実現に向けた取り組みです。水素は、再エネ・水電気分解、石炭、天然ガスなどあらゆる資源から製造できるため、資源の調達先を多様化します。燃焼時にCO2を排出することがなく、水だけが排出されるので、環境にやさしいといわれます。例えば、燃料電池自動車、発電、製鉄などの産業部門などの幅広い分野で利用可能です。日本は技術力で世界をリードしていますが、課題はコストです。

 ここで、「3E+S」について、少し考えてみましょう。先ずは、Safety(安全性)です。

水素ステーションの建設時に水素の安全性確保のために、機器、設置面積、クリアランスなどについて特別の要件が課せられています。日本の安全基準は欧州などと比べて厳しいため設置費用も1.5~2倍する(5億円程度)といわれています。しかし、水素は、石油の水添脱硫などに古くから利用されているので、水素の危険性、安全性については、十分な知見が蓄積されていると考えられます。

 次に、Energy Security(自給率)です。現在、大規模水素については、2つのプロジェクトが動いています。一つは、川崎重工が中心となって進めているもので、豪州褐炭をガス化後、水性ガスシフト反応させて、水素とCO2を生産します。水素は液化して、特殊専用タンカーで日本まで輸送するというものです。現在、神戸市と一緒に実証試験が行われています。

 褐炭ガス化 ➡ CO, H2, CO2など ➡ CO + H2O -> CO2 + H2 (水性ガスシフト反応)

 もう一つのプロジェクトは、千代田化工建設が中心となり進めているもので、天然ガスをスチームで改質後、水性ガスシフト反応させて、水素とCO2を生産するというものです。この水素は液化するのではなく、トルエンと反応させメチルシクロヘキサン(MCH)をいう物質に変換します。MCHは、溶剤と近い物質なので、通常のタンカーで輸送することができます。

ブルネイの天然ガスから水素を生成し、MCHに変換して川崎市に運んでくるという実証試験を行っています。水素をMCHから取り出すためには、川崎市で脱水素という処理が必要になります。 

天然ガス改質 ➡ CO, H2, CO2など ➡ CO + H2O -> CO2 + H2 (水性ガスシフト反応)、H2 + トルエン(C6H5CH3)-> MCH (C6H11CH3)

両プロジェクトとも、海外で水素を生産し、日本まで海上輸送するというものです。自給率が高いとか、エネルギーとして確保されていると捉えて良いものか、疑問です。

 最後の、Economic Efficiency(経済効率性)についてですが、経産省などもコストが課題だといっています。ヨーロッパなどでは、発電コストが非常に安く2 円/kWhなどらしいのですが、電気代の廉価な国で水素生産して、日本に運搬してくる場合でも、最終的な水素は 32 円/kWhくらいだといわれています。

勿論、技術開発が進展して行けば、水素のライフサイクル、つまり製造、処理(液化やトルエンと反応)、貯蔵・運搬、処理(気化や脱水素反応)、国内輸送、ユーザーでの利用・消費という各工程でのコストが低減できます。

それで全体コストは下げられますが、どこまで下げられるのかという問題が残ります。原理的に困難というのであれば、そこが限界となるのでしょう。

 因みに、中国で試算した水素の製造コストは、以下のようになっています。

             (中国経済社会理事会2018年)

1元=16円だとすれば、化石燃料由来の水素(グレー水素)が10~24円/m3、再エネ由来水素(グリーン水素)は24円/m3となります。新産業技術総合開発機構(NEDO)の目標は2030年までに30円/m3、普及するためには20円/m3としています。

製鉄では水素=8円/m3程度でないと、事業として成り立たないとも聞いています。政府の試算やロードマップも、現場の声を聴いていない仮想上の数字とすれば大変困ります。水素社会は「絵にかいた餅」になってしまいかねませんね。

 


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