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欧州 酒文化:食後酒を楽しむ

日本語として「酒文化」なる単語が存在するのかどうかは知らないが、お酒・アルコール飲料にまつわる考え方やその楽しみ方は国や地域によって大きく異なる。

数年前から仕事の関係でフランスに住んでいて、現地の人たちと一緒に食事やアルコール飲料を楽しむ機会が多くあるので、そのような「お酒・アルコール飲料にまつわる考え方や楽しみ方(以降『酒文化』と言わせて頂く)」の違いを見聞きする機会が多いのも事実である。 そんな中で、ヨーロッパと日本の「酒文化」で大きく異なるのは「食後酒」の存在があるような気がしている。

日本においては、食事の後にわざわざ取り立てて特別なお酒を飲む習慣はあまりない(と、ボクは思っている)。 
ところが、ヨーロッパでは、多くのレストランのアルコール飲料のメニューに「食後酒」がラインナップされている。

フランスなら、コニャックやオードヴィーが有名だし、イタリアならグラッパやそれ以外にも何種類もの食後酒が知られている。

それら一般的に飲まれている「食後酒」たちに共通しているのは、アルコール飲料として非常に個性的と言うか、ある種「癖の強い」お酒が多いことである。
コニャックは日本でも一般的に飲まれているので口にされた方は多いと思うが、オードヴィーやグラッパは、なんというか、非常に「刺激的な味」がする。

その主たる原因はアルコール度数の高さによるところも大きとは思う。多くの食後酒は、そのアルコール度数が30度を超えるものが一般的なので、口に含むと何とも言えない「クワッァ」って感じの呑み心地がする。

ヨーロッパに住み始めたばかりのころに、イタリアに出張する機会があり、イタリアの現地の方と食事をとることがあった。
初夏の頃だったこともあり、レストランの前のテラスで食事をとることになり、まずは手始めに食前酒としてビールを軽く1杯頂き、その後はワインを飲みながら食事を頂いた。

個人的にイタリアの食事はメニューは何であれ、基本的に大好きだし、気候の良い時期にテラスで頂く食事はなんとも気分が良い。
さらには出張先が海に近い場所だったこともあり、イタリアンシーフードと白ワインの取り合わせが抜群で、前菜とパスタとメインで満腹・大満足状態であった。
ただ、こちらでは食事の後はデザート、イタリアンではドルチェを食べるのが普通なので、満腹ではあったけれど現地の方と同じようにデザートを頂いたので、「もう後は何も食べられません」と言うほどの超満腹になってしまった。

「もう後はゆっくり寝るだけだな」なんて思っていたら、食事を共にした現地の方が・・・

「俺は食後酒呑むけど、お前も飲むか?」 
とのお誘いがあったが、さすが食べ過ぎ状態だったので・・・

「いや、いや、もうお腹いっぱいなので、これ以上飲み食いはできないよ」とお断りしたところ・・・

「何言ってるんだよ! お腹いっぱい、食べ過ぎならなおさら食後酒は飲んだ方が良いんだよ。 こういう度数の高いアルコール飲料を飲めば、胃が刺激されて消化が促進されるし、胃につながる食道部分もアルコールですっきりするんだ。 なので、明日の朝の「胃もたれ」も食後酒を飲めば随分と軽減されるんだ。 もし『食べ過ぎだ』って言うなら、お前は食後酒を飲まなきゃいけないんだよ。」
と力説された。

無論この時のやり取りは「英語」でなされていたのだけど、
It means it is better for me to have Grappa, isn’t it?
みたいな小職のコメントに対してその相棒からは・・・

Not better to have ! You must have it, You have to have it!
と言われたのを今でも覚えている。

まぁ、そこまで言われたので、むげに断るのも申し訳ないし、グラス1杯ぐらいなら飲めない訳ではないので騙されたと思って食後酒を頂くことにした。 その時頂いたのが「グラッパ」だった。
恐らく「グラッパ」なるお酒を頂いたのはその時が初めてで、あの独特の香りとアルコール度数の高さに驚いたものの、

「それを飲めば食道がすっきりするから・・・」
と、現地人スタッフに薦められるがまま、小さなグラスとは言え、並々注がれたグラッパを何度かに分けて飲み干した。
その時の喉の奥から胃の手前当たりに感じた強い刺激をいまでも覚えている。 その夜はそのままベッドへ直行し、朝までぐっすり眠った・・・と思う。

で、明くる日、若干の二日酔いと胸焼けは感じるものの、前夜の食べ過ぎの度合いから考えるに、二日酔いも胸焼けも軽減されていたと記憶している。

流石 食後酒!

で、それからと言うものボク、もしくは我が家(つまり、嫁ハン)では、食べ過ぎた後の食後酒が定番となった。

イタリアに出張に行くたびに、ボクはグラッパとリモンチェッロを買って帰ったし、イタリア以外の国に出張に行った際にはその国特有の食後酒を買って帰ったし、フランス版の食後酒のカルバドス、コニャック、アルマニャックのいずれかは自宅に常備するようになった。 で、晩御飯(その晩御飯が洋食だろうが和食だろうが)が終わると、ボクもしくは嫁ハンから意味もなく・・・

「食べ過ぎちゃったかなぁ・・・? 食後酒呑まないといけないねぇ」
なんて言いながら食後酒の瓶に手を伸ばすのが日常となっていった。

特に気に入ったのがチェコの食後酒である「ベヘロフカ(Becherovka)」 何が気に入ったって、味は「太田胃散」そのもの!
そりゃぁ、消化にいいに決まってるよなぁ。

それにしても、ヨーロッパ域内の食後酒の種類の多さには驚かされる。
イタリア、フランス、スペイン、北欧、東欧の国々にもそれぞれの独特の食後酒がある。

「欧州の人々」ってそんなにいつも食い過ぎて「胸焼け」に困っているんだろうか? と妙なことに関心してしまう今日この頃なのです。

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