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ゲストハウスなんくる荘5 新しい滞在者

あらすじ:那覇にあるゲストハウス・なんくる荘にやってきた未夏子。「滞在は、一週間かもしれないし一年かもしれない」と話す彼女の生き方とは?

前回まではこちらから読めます。

ヒロキ君が少しなんくる荘になじんできた五月の末、富山からまどかちゃんという二十五歳の女の子が来た。色黒ではっきりとした顔立ち、背が高くてモデルのように手足が長い綺麗な子だ。彼女も「いつまでいるかわからない」組だった。

まどかちゃんは個室に泊まっていた。なんくる荘は八号室だけが一泊千五百円の個室なのだ。

「他人と同じ部屋に寝泊りするの嫌なの?」
「嫌じゃないんだけど、慣れてなくて」

話を聞くと、まどかちゃんは親しい友人がいたことがなく、共同生活をうまく営める自信がないという。

それならなぜ、わざわざゲストハウスに来たのだろう?

あたしはまどかちゃんに興味を持った。他人に興味を持つのは、あたしにはめずらしいことだ。

「あたしね」

まどかちゃんは言った。

「今まで、いろんなものに縛られてたんだ。でも、本当は誰も、あたしを縛りつけてなんかいなかったんだよね。あたしが勝手に、そう思い込んでたの。でも、あるとき急にね、あたしはどこで何をして暮らしてもいいんだ、って気づいたんだ」

ちょっと怯む。自己啓発とか、そういう話だろうか。

そんな私の気持ちを見抜いたのか、まどかちゃんは、

「単純に、父が家業を畳むことになったから私も仕事探さなきゃいけなくて、それなら地元にこだわる必要ないって気づいただけなんだけどね」

と言った。

「いろんなところに行って住む町を見つけようと思って。それで、まず一番南から攻めることにしたの」

「47都道府県行く?」

「もちろん」

そう言って、まどかちゃんはにこっと笑った。

彼女はとても感じのいい子だけど、親しい友人がいないというのは本当なのだろう。まっすぐで自分にも他人にも嘘がつけなさそうだし、自分が傷つくことにも、不用意に誰かを傷つけてしまうことにも敏感そうだった。


そしてもう一人(?)、長期滞在予定者があらわれた。

「ちょっとそこまで」と散歩に出たモンちゃんの後についてきた、茶色い縞模様のオスの仔猫だ。猫はまるで、自分の家に帰ってくるような自然さでなんくる荘に上がりこんだ。

みんなで猫の名前について話し合い、「ネコンチュ」に決定した。マナブさんはすぐに、キャットフードを用意した。

ネコンチュは誰にでもなついた。

あたしはすずらんテープでチアガールが持つぽんぽんの小さいものを作り、それと割り箸を紐で結んだ。特製ねこじゃらしだ。

「ミカコちゃん、意外と器用なんだね」

アキバさんが言う。

「意外とってなんだよ。普通に器用だよ」

あたしのねこじゃらしはネコンチュに大好評だった。誰かがねこじゃらしを手に取ると、ネコンチュはどこにいてもすぐさまそれに突進してきた。

ネコンチュは外に出たいときは窓をカリカリとひっかき、誰かに窓を開けてもらって外に出る。

そして、みんながしばらくネコンチュの存在を忘れていて、誰かが「そういえばネコンチュいないね」などと言うと必ず、見計らったかのようなタイミングで、「にぃ~ん」と鳴く。驚いて窓の外を見ると、ネコンチュが「開けてー。入れてー」と訴えているのだった。



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