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足の親指が痛い。

 真夜中に右足の親指が痛み出した。針で刺すような痛みだ。
これはまずい、痛風かな、そんなことを思い始めたら痛みもあって眠れなくなった。
 朝はぼんやりしていたので、久しぶりにゆっくり出社した。
 会社の隣のビルに内科が入っているので、そこで診てもらった。壁にかかっている何かの賞状に先生の生年月日があった。五十代のおじさんだが、ぼくより若いおじさんだった。
 半年前にここで採血して検査した時は、痛風の原因となる尿酸値は、境界線上にあった。
「痛風でしょうか」
「痛風だね」
 血液をとったので、数日後に結果を聞きに来るように言われた。
 尿酸値をおさえる薬と痛み止めが出た。指示通りにきっちり薬を飲んだ。
 ネットで調べたら、アルコールが尿酸値を上げる、とあったので、その日から晩酌をやめた。妻が毎晩飲むノンアルコールビールを付き合うことにした。ノンアルコールビールも昔よりだいぶビールらしくなって、コップを冷凍庫でキンキンに冷やしてそこへ注げば、ビールを飲んでいるような気になった。
 家ではサンダルを履いていたのだが、指の先がゴムでこすれてピリピリするので、妻に言ったら布のスリッパに代えてくれた。
 二日目の夜あたりから足の親指の痛みが薄らいできた。薬が効いてきたみたいだ。だいぶ楽になった。
 薬は五日分出ていたので、薬がなくなる前日に、もういちど内科に行った。血液検査の結果が出ていた。
「尿酸値は問題ないなあ。血糖値も高くないし。血圧も正常の範囲だし」
「やはり痛風でしょうか」
「症状が出てから尿酸値がぐっと下がることもありますから。痛風かもしれないし、そうじゃないかもしれないし」
「どっちでしょうか」
「もう少し薬飲んでみますか?」
「いえ、けっこうです」
「では、様子を見て、何かあったらまたいらしてください」
 先生の「痛風じゃないかもしれない」という言葉のほうを信じることにした。すると、その晩から親指の痛みがあまり気にならなくなった。
 妻に親指をよく見てもらったところ、
「足なのに皮が薄い気がする」と言われた。
 昔は、足の皮はもっとごわごわと厚かった気がする。そういえば、皮が薄くなったかもしれない。手の指で足の薄い皮のところをこすってみた。たしかにピリピリする。皮が薄くなって神経に触るようになったのだろうか。ネットで調べたが、結局よくわからないので、医者の「痛風じゃないかもしれない」という言葉をさらに信じることにした。
 そんなこんなでさらに数日がたってしまった。
 まだ、親指の先が少し気になるが、近所にお医者さんはいっぱいいるし、何とかなるわ、と思いながら過ごした。
 でも昨夜は少し眠りが浅かった。
 寝る前に、先の医者の「痛風じゃないかもしれない」という言葉を思い出し、「痛風じゃなかったら、ほかの病気なのか」と気になり始めたのだ。
 やはりほかの病気の可能性もあるのだろうか。
 そんなことを考えてひと晩過ごしたら、また足の親指の先がチクチクし始め、今朝は、頭がぼんやりするなあ、休もうか、などと思いながら通勤電車に揺られることになった。
 結局まだ晩酌は再開していない。親指がチクチクするので再開する勇気が出ないのだ。
 冷凍庫で冷やしたコップにうそのビールを注いで飲んでいる。
「うまい」と言いながら、「やっぱりほんとのビールが飲みたい」と心では思っている。
 コロナ禍になってから二年近くたつ。この間、外で飲んだことは一度もない。どうやらここにストレスの根っこがあるようだ。早くコロナ禍が明けることを願う。
「やっぱりもう一度医者に行こうかな」        了

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