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ウェブサービスのデザイナーを分ける訳

こんにちは。デザイナーの吉川雅彦です。

転職活動をしているときに気づいたことがあります。「自社サービスデザイナー募集」「UI/UXデザイナー募集」の業務内容が文脈や人によって言っていることがかなり違う!ということに。

業務内容のミスマッチを防ぐ目的で、言語化してみました。デザイナーとして転職を考えている人、デザイナーを募集している採用担当者を対象に書いています。

ウェブサービスに関わるデザイナーは主に2種類

デザイン組織のつくりかた』には、次の2つのが出てきます(正確にはもっとありますが大きくはこの2つ)。

  • コミュニケーションデザイナー(マーケティングデザイナー)

  • プロダクトデザイナー(UI/UXデザイナー)

「ウェブサービス」に関わるデザイナーは「プロダクトデザイナー(UI/UXデザイナー)」と呼ばれることが多いですが、コミュニケーションデザイン寄りのウェブサービスと2つに分けることができます。

両者の違いのイメージ

上の2つの職種は、雑な言い方をすると、次のような違いがあります。

  • 営業とカスタマーサクセスくらい違う

  • ソシャゲを作ることとソシャゲ以前のゲームを作ることくらい違う

  • スーパーマーケットを作ることと掃除機を作ることくらい違う

求められるスキル・素質は被る部分も多いですが、違っている部分も多くあります。

以下、それぞれの担当するウェブサービスと違いと比較表です。

コミュニケーションデザイン寄りのウェブサービス

■サイト種別
情報・コンテンツの提供、販売、マッチング

■サービス例
Amazon、MERY、SmartNews、求人ボックス、Uber、Wikipedia

■主に解決する課題
事業の課題

■主な制作物
プロダクトビジュアル、ワイヤーフレーム、カスタマージャーニーマップ、ペルソナ、プロトタイプ

■主に設計するもの
購入前の体験、予期的UX、コンバージョン率

■主な使用ツール
Photoshop、Illustrator、Adobe XD、Figma

■関係が深そうなキーワード
企画、グラフィック、ブランディング、マーケティング、クリエイティブ、SEO、UI、UX、IA

■ウェブ以外に例えると
スーパーの売り場、展示会のイベントの設計をしているイメージに近い

■よくある過ち
消費者やユーザーに好ましくない意思決定や行動をさせて売上を優先させる

プロダクトデザイン寄りのウェブサービス

■サイト種別
ソフトウェア、プロダクト

■サービス例
Notion、Trello、Miro、Zoom、IFTTT、freee

■主に解決する課題
人々の課題

■主な制作物
プロダクトビジュアル、ワイヤーフレーム、カスタマージャーニーマップ、ペルソナ、プロトタイプ

■主に設計するもの
購入後の体験、一時的UX、価値

■主な使用ツール
Adobe XD、Figma

■関係が深そうなキーワード
UI、UX、IA、人間中心設計、コンピューターサイエンス、コンピューターシステム

■ウェブ以外に例えると
メガネ、掃除機、車の製品自体を作っているイメージに近い

■よくある過ち
誰も欲しいと思わないものを時間と工数をかけて作る

コニュニケーションデザイナーとプロダクトデザイナーの比較表

比較表2

比較表の左端が本来いわれるコミュニケーションデザインの領域、真ん中がコミュニケーションデザイン寄りのウェブサービス、右端がプロダクトデザイン寄りのウェブサービス。2つのデザイナーでいうとどちらが相対的に比重が高いかを書いています(そのためここに含まれていないことはしないという意味ではありません)。

特に真ん中にあたるウェブサービスが肝で、かなり性質が違うにも関わらず、同じプロダクトデザイナー(UI/UXデザイナー)というくくりで会話の中で話されることが多くあります。性質的にはコミュニケーションデザイン寄りなのではと考えています。

日本ではUI/UXデザイナーとして募集していても、コミュニケーションデザイナーのことをさしているのをよく見かけます。

素質の違い

以下、偏見多めの感想です。ということを前置きしつつ、次のような印象が強いです。

  • コミュニケーションデザイナーは感覚派が多い(感性が豊か、エモさに敏感)

  • プロダクトデザイナーは理論派が多い(考えることが好き、わかりにくさに敏感)

感性も考えることも、もちろんどちらのデザイナーにも必要なものです。どちらも好きで得意であることに越したことはありません。しかし、どちらも得意であることは稀です。概念や抽象的な意味の処理に深く関与する脳の場所を抑制するとデッサンの質が上がるという研究もあるくらいです(『教養としての認知科学』第4章より)。これは仮説に近いものなので根拠にするのには弱いですが、少なくとも人には得意不得意があるので、両者の募集で、何を優先するかが変わってくるはずです。

例えばコミュニケーションデザイナーはフィードバックの機会が相対的に多く、言語化できることは相対的に少ないので、何度も実践し感覚をやしなっていく必要があります。それらが好きで得意な人が必然的に向いてきます。

逆にプロダクトデザイナーはフィードバックの機会が相対的に少なく、言語化できることは相対的に多いので、使ってもらう前にステークホルダーと対話をする機会も多数あります。情報を集めてそれらからロジックを組み意思決定していくことが好きで得意な人が必然的に向いてきます。

それぞれの事例を挙げます。あるコミュニケーションデザイナーはこう言っていました。「体験を設計するのに必要な情報が多すぎて、それらを全部考慮して一貫性を保たせて作っていくことに苦痛を感じる。それであればビフォーアフターがわかりやすいデザインをしているほうが楽しい」と。

私はその逆で、「わかりやすさの機微な違いはわかるけど美しくエモいものを作る構成要素がよくわからず作るのも苦手。また、根拠なく『これはこうしたほうがいい』とレビューされることが苦痛」に感じています。

なぜ分けて考えるたほうがいいか

分けてしまうことで、消費者にとって一貫した体験を提供できないなどの問題や、「私の担当ではない」という人が出てくる問題があります。

しかし、今回の話はそれとは別で、「スキルセットが違うのに向いていないポジションに配属される」ことが起きてしまうという話です。そのため分けて考えたほうがそれらが解消されます。「目で認識したときの機微な違いがわからず美的感覚も鈍い人がコミュニケーションデザイナーになる」と目も当てられない状況になりますし、「人の声を聞くことが苦手で推論・問題解決・意思決定が苦手な人がプロダクトデザイナーになる」と誰にも使われないプロダクトができあがってしまいます。

プロダクトデザイナーはデザイナーの中で割合はとても少なく、齟齬が起こる原因のひとつでしょう。プロダクトの話なのに「使いやすさ」や「人がどうしたら幸せになるか」の話題が出ず、「どうしたら売れるか」「どう見せればイケてるか」みたいな話ばかり出ているのであれば確認をしてみるのもいいでしょう。

転職時・転職後、採用時などの参考になって、幸せなデザイナーライフを送っていただければ幸いです。



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