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【第43話】銃デビューの38歳、ありがとう囁き女将

ついに恐怖の日がやってきた。

鉄砲が撃てるハンターになりたい!と思ったときに、避けては通れないのがこの「教習射撃」。すなわち、射撃の実技試験である。

おいしいイノシシやカモを獲りたいけれど、鉄砲はコワい。だって武器じゃん、爆発物じゃん。ああ、神様。こんなチキン野郎が、果たして試験に合格できるんでしょうか…。

ちなみに狩猟で使える銃には2種類あって、空気を圧縮してその反動でポーンと弾を出す「空気銃」と、火薬を爆発させて弾をバーンと出す「装薬銃」となっている。前者は鳥などの小さい動物、後者は威力があるのでイノシシなどの大型獣が向いているんですね。で、その後者にだけ射撃の試験が求められるのだ。

試験内容のイメージとしては、ゴルフの打ちっぱなしやバッティングセンターに近いです。左右から、飛んでくる皿を撃ち落とします。正式には、クレー射撃のなかの「スキート」という種目。場所は、山奥の屋外射撃場でやります。基本各県にあるようですが、さすがに火薬を扱うとなると東京には場所がなくて、神奈川などに出向くみたいですね。

25発撃って、3発当たれば合格です。基本的に受験者が「本物の銃」にさわるのは、この日が初めて。いきなり試験はキツイので、まず50発ぐらい練習してから本番に臨みます。そういえば何年か前、AKBの永尾まりやさんという方は、16発も当てたそうだ。アイドルの集中力はすごいね。

射撃場でのルールや射撃のフォームなどは、教官が手取り足取り教えてくれるので大丈夫。

▲射台(野球でいうところのバッターボックス?)に入って弾込め

▲まるで囁き女将のように、ちくいちアドバイスをくれる教官Tさん

ふつうの人は「皿(クレー)に弾がちゃんと当たるか」が心配のタネだけど、わたしの場合はそれ以前に「銃を支え続ける筋肉がもつか」だった。だって重いんですよ。3kgぐらいはあるんじゃないか。わたしの師匠である、百獣の王・Tさんが譲ってくれる予定の銃は、水平二連銃の12番。12番はメジャーな銃のタイプで一番重い。

全国で装薬銃を使うハンターは、8万人近く。その中で、女性はたった1200人ぐらいだったと思う。完全なる男社会だ。(まぁ、だからこそ女ハンターはヘッポコでも優しく教えていただけるという利点はあるのだけど、そこに甘えちゃいけない。野生の動物にフェロモンは効かないのだ。たぶん)

あ、話は反れますが、タイピングしてたらじんじん腕が痛くなってきました…。実は今、人生初の絶賛「腱鞘炎」中なんですわ。

それもこれも、教習射撃のため。この1カ月ほどパンダの着ぐるみで夫の店の呼び込みをしていたのだが、その際、腕の筋トレと称して、ずーーーっと片手でのぼりを持っていたのだ。左手薬指に負荷がかかり過ぎ、整体にいったらバネ指の一歩手前。

すんません、仕事の原稿にチカラを残しとかなければならないので、ここからは駆け足で。

撃ったー! 当たったー!!

なんと一発目からビギナーズラック発動。

しかしスゴイ衝撃である。引き金を引くと、銃床を支えてる右肩がバーーン!と力いっぱいどつかれる感覚。思わず後ろに倒れそうになる。まるで獰猛な龍みたいだ。しがみつくので精いっぱい。

皿のオモテ面は、蛍光オレンジに塗ってあるので割れるとすぐ分かる。写真の奥に散らばっているのが、クレーの死骸…いや破片だ。1枚のサイズは、居酒屋の取り分け皿ぐらいの小ささなので、当たるとすごくうれしい。

とにかくありがとう、囁き女将!!

射台を移動するとき、一緒に来ていた百獣の王・Tさんと、しまなみイノシシ活用隊代表ヒデさん、夫がそろって拍手してくれた。彼らはすでに銃所持者。なんだ、この見守られている温かい雰囲気は。授業参観か。

試験の結果は、25発中7発当たって合格。「お釣りが出ましたね」と囁き女将は微笑んだ。

終了後。肩とアゴが死ぬほど痛い。発砲の衝撃に完全に負けている。それに夫が撮ってくれた写真を見て痛感したのだが、①銃床の位置が下すぎる ②引き金を引くと銃の先が下がる ③重心が前にとれておらず、反動で後ろにのけぞっていることなどは、今後の課題だ。いろいろと勉強になる。

そして勉強の成果はすぐに表れた。身体に。

帰り道にすぐ、湿布を買って貼ったんだけど……

翌日の朝にはコレだ。なんだろ、ボクサーですか? 奴隷ですか? ワタシダレデスカ?

記念に「教習射撃セミヌード」を撮って、師匠にLINEしておいた。皮膚も擦れているので寝返りもツラいほどの痛みだが、アドレナリンの残り香のおかげで問題なく耐えられる。むしろこの痛みが愛おしい。

そんなことも含めて、射撃は本当に楽しかった。血が騒ぎます。相手が野生の獣になったらどうなっちゃうんだろう。猟期が始まる前にまた練習したい。今度は自分の銃で。

                            (続く)

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