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侍 遠藤周作

小説やエッセイ、時にはサスペンス・マンガなども人生や価値観を大きく変える事がある。それは作者の「思い」や「テクニック」だけではなく、その時の自分の境遇や考え等にどのようにフィットするかも大事な要素であろう。

その意味で私が最初に、価値感と言うか人生観を大きく変えられた一冊遠藤周作の「侍」である。

この物語は、主人公が藩の命によりローマ法王に謁見する為、メキシコ~スペイン~ローマへと旅をする。(だったと思う。)その旅路での苦難や現地の人々の暮らし、宗教観を見ながら「なぜこのようにみすぼらしい人間を崇拝するのか?」など、次第に疑問に思いつつ何かに惹かれながら、とうとうローマにたどり着く、しかしそこでは洗礼を迫られ…
そして日本に帰ればキリシタン禁制となっており、さらに人生は苦境を迎える。

時代の渦、周りの変化に飲まれながら自分の運命を受け入れて行く主人公、人から見れば不運な人生に見えるが、本人が何を思い、どう考えたのかはその当時高校1年生であった私には文章的には分からなかった。しかしながら頭より心の奥で納得感があり一瞬主人公と同化したようにさえ思えた。

当時の私は、中学3年のほとんどを大病による長い入院生活に費やすという経験をした後だった。これまで努力してきた事が全て無に帰したように思えた絶望感。その当時は、なぜか勉学もスポーツも1年近くのブランクを余儀なくされる事の方が、自分の命の危険より絶望的に思えた。そしてつらい闘病生活。「侍」を読んだのは退院し回復してからだったが、達成できなかった目標そしてその直接的な原因となった病気と言う環境を引きずり、悲観的ですべてを不幸な状況のせいにしており、厭世的になっていた。

そんな自分が侍を読み終わった時に、パッと目の前の霧が晴れた。良く聞く表現ですがそんなことはあり得ないと思っていた事が自分の身に起こりびっくりしたのを覚えている。それ以来、親や友人でさえビックリするくらい性格が変わったと言われる。なにより自分でもその様に感じる。

この一冊に出会えたことは、自分の人生を豊かに・華やかに・幸せにしてくれたと本当に感謝している。これからもそんな一冊に出会える人生を送りたい。

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