見出し画像

フランスの旅(2)オランジュリーとオルセーで印象派やポスト印象派の名画を堪能

朝6時半に起きて、原稿作業。8時頃ようやく終わり、急いで朝ごはんを食べる。

JO&JOE Paris Gentilly の朝食会場

外で食べると高いから、朝食付きの宿にして良かった。機内でガイドブックを眺めていて、とある人気カフェの朝ごはんは、パン2つとコーヒーで14ユーロ(約2300円)だった。

でもここは安宿の割にちゃんとしていて、クロワッサンやパン・オ・ショコラ、ハム、チーズ、ちょっとした野菜、ヨーグルト、シリアルを完備。少なくとも14ユーロの朝食よりはこっちのが魅力的。おいしいバターと様々な種類のジャムも嬉しい。そしてフルーツジュースが最高。マシンで各種コーヒーも飲める。

シンプルだけど十分な朝ごはん

急いで着替えて、9時過ぎに出発。駅で電車の10回券を買おうとするも、駅員さんが窓口にいないため仕方なくマシンで1回券(2.1ユーロ)を買う。毎回券売機で買うのが面倒だからまとめて買ってしまいたいのに。なんで駅員さんがいないんだろう。

「オルセー美術館駅」で降りて、改札を出ると、今度は窓口にお姉さんがいたので「10回券を買いたいんですけど」と尋ねた。「OK」と引き出しを開けるも、「今切らしてるの!別の駅で買って」。なかなかうまくいかない。日本の鉄道会社が当たり前にやっていることの偉大さをパリに来て感じた。

しかし、駅から地上に出ると、一瞬でテンションが上がった。まさにパリらしい光景が目の前に広がっていたからだ。セーヌ河と歴史的な建物が織り成す街並み。そして木々は陽の光を浴びて黄金に輝いている。

秋空のパリ

写真を撮っていると、ボードを持った怪しげな女性が「アンケートをお願いします」と近づいてきた。どうも向かってくる勢いが強過ぎる。そしてボードをぼくの胸に当てながら、貴重品の入ったポーチを触ろうとする。「アンケートをお願いします」こいつはスリだ!「No thank you!」と慌てて駆け出して逃げた。その様子を見て、別の仲間たちが「ダメだったな」みたいな感じで笑っている。みんなグルなんだ。ちょっと怖かった。

セーヌ河にかかる橋を渡り、対岸のチュイルリー公園を通ってオランジュリー美術館に入場。10時になってしまったため行列を危惧していたが、幸い5分も並ばずにすぐ入れた。

チュイルリー公園

チケットは11ユーロ。だが、夏にフランスで短期留学していたスタバの店員さんが教えてくれた情報を頼りに、ぼくは2日間有効の「ミュージアムパス」というものを55ユーロで買った。主要美術館の多くが入り放題になる。ちょっと忙しくなるけど、2日間で4つの美術館に行けば元を取れる。しかしこのパスの最も重要なメリットは、「行列に並ばずに済む」というものだった。その威力は後で実感することになる。

48時間有効のミュージアムパス

さて、オランジュリー美術館の名物といえば、モネの『睡蓮』である。モネは大小様々な『睡蓮』を残しているから、日本でも見たことのある方は多いだろう。しかし、ここの所蔵品はやはり特別なものだった。楕円形の部屋に、4枚の大きな『睡蓮』が一周するように張り巡らされている。そしてその部屋が、2つある。つまり高さ2メートル、全長で91メートルに及ぶ8枚の大作が、特別な空間に置かれているのだ。

モネの巨大な『睡蓮』が展示される部屋

モネはこの晩年の大睡蓮画を、「自分が亡くなるまで公開しないように」と言ったそうだ。そして展示する際の細かな注文を伝えていた。

具体的には、2つの間に他の絵画や彫刻を展示しないこと、作品は動かさないこと、作品にニスを塗らないこと、天井からの自然光を入れること、など。 

大胆な構図

ただ、「自然光を入れること」という注文は当時の技術では難しかったそうで、それだけは実現できずに1927年(モネが亡くなった翌年)から約80年間は自然光なしで展示していたが、モネの強い意志を引き継ぎ、2006年の大改装でついに自然光の下で作品を鑑賞できるようにになった。 モネは「永遠の自然を描くことで、人々を瞑想へと誘う安らぎの場を提供したい」と考えていたそう。観光客が多いのでザワザワしているが、確かにこの空間でひとりになれたら、素晴らしい瞑想の時間になるに違いない。ちなみに原田マハさんは取材のためにオランジュリー美術館を1時間借り切ったそうだ。羨ましい。

それにしても、モネの絵は不思議だ。近くで絵を凝視しても、漠然としていて、何が描かれているのかよくわからない。筆遣いが雑に感じることもある。だが、数歩後ろに下がり、全体を捉えると、完璧な絵が浮かび上がる。

これだけ見てもよくわからないけど、
離れてみると完璧に整っている

目玉を堪能したあとは、下の階で特別展の「モディリアーニ展」をサラッと見てから、ピカソ、モネ、シスレー、ルノワール、セザンヌ、マティス、ユトリロなど印象派やその後の時代の名画が並ぶ常設展示を鑑賞。

ルノワール
ユトリロ

特に嬉しかったのは、大好きなシスレーの素晴らしい作品があったことだ。印象派の画家たちは空を美しく描くが、ぼくはモネやピサロよりも、シスレーの描く爽やかな空が好きだ。なんとも言えない良さがある。

シスレー

そしてマティスの部屋でも、見たことのない作品があった。これまでマティスの作品をたくさん観てきたから知った気になっていたけど、まだまだ全然だった。南仏ニースのマティス美術館も行ったし、日本で開催されたマティス展にも行った。それでたくさん眺められたと感じたが、実際に見たのは彼の作品のごく一部に過ぎない。

マティス
マティス

11時半過ぎに美術館を出ると、ものすごい行列ができていた。その行列は「チケットを持っていない人」と「チケットやミュージアムパスを持っている人」に分かれ、後者の列は短かった。

昼前には大行列ができていた

小雨の降るチュイルリー公園をルーヴル美術館方面へ進む。近くのコンコルド広場からは、シャンゼリゼ通りが真っ直ぐに伸び、その奥には凱旋門が見えた。

エッフェル塔

ルーヴル美術館は過去に2度訪れているから、今回はパスする予定。相変わらず人がすごい。チケットがないと何時間も並びそうだ。

ルーヴル美術館はまた次回に

ルーヴルの外観だけ写真を撮ってから、「Palais Royal - Musée du Louvre」駅前で、12時半にフランス人女性と再会した。

「ヨウタサン、デスカ?」
「ハーイ、カルリーナさん。またお会いできて嬉しいです」

今年4月、長崎と佐賀を旅した。つつじの名所である佐賀県の御船山楽園を訪ねた際、片言の日本語を話すフランス人女性と出会った。彼女の名はカルリーナさん。日本にはもう17回来ているという大の日本好きで、パリ在住。

今年4月、佐賀にて

以前「11月にパリへ行きます」とメールで連絡を取ったところ、「ランチをしましょう」と言ってくれた。無事にパリで再会し、パレ・ロワイヤルを抜けて、映画にも使われた「Le Grand Colbert」という有名なレストランへ。ひとりでは来づらい、素敵なお店だった。

芸能人も訪れるという「Le Grand Colbert」
カルリーナさん

「お通し」的に出てくるオリーブがメチャクチャおいしくて、ひたすら食べていた。前菜はサーモンのパテとパン、メインは魚料理。魚の種類はわからなかったけど、クリームソースがかかっていて、ほうれん草とポテトが添えられている。

メインの魚料理

デザートに、「ババ」というお菓子を食べた。ラム酒をたっぷりかけて、ホイップクリームを載せて食べる。酔っ払いそう。外国の味だ。コースは26ユーロ(約4200円)だけど、カルリーネさんがご馳走してくれた。

ラム酒をかけて食べるデザートの「ババ」

日本語と英語で、たくさん話せて良かった。来年3月にまた日本に来るそう。まさか佐賀での出会いがパリにつながっているとは思いもしなかった。出会いの奇跡に感謝だ。

カルリーネさんと別れたあと、オルセー美術館を訪ねた。ここでもミュージアムパスはすごい威力を発揮して、大行列ができているなか、全く並ばずに入れた。東北の旅に続き、スタバの店員さんに感謝だ。長文でほかにもおすすめスポットを教わったので、また後日行ってみたい。スタバの店員さんたちはそれぞれが独自の強みや魅力を持っていて、ぼくはその個性を感じる時間が好きだ。

セーヌ河とオルセー美術館

2014年に来日したオルセー美術館展にも行ったし、当初は「オルセーはいいかな」と思ってた。でもスタバの子もオルセーは素晴らしかったと言っていたので、やっぱり気になって行ってみることにした。そしたら本当に良かった。

確かに、マネの『笛を吹く少年』をはじめ、日本で見た作品もあったけど、そんなのは全体からしたらごく一部に過ぎなくて、ほとんど初めて見る作品ばかりだった。そして素晴らしい。「全然日本に来てないじゃん」と思った。来日したからといって全部を見た気になっちゃいけないな。いくつかの作品が来日して、PR会社やメディアは「あの傑作が初来日!」と大々的に謳うけど、オルセーからしたら、たくさんあるうちのちょっこと分けただけ。この広大な空間に身を置くと、そのことがよくわかる。来日してくれてありがたいが、真実を知らずにありがたがり過ぎるのも良くない。東京ではあんなに人の群がっていた『笛を吹く少年』は、おばちゃんがひとり眺めているだけだった。なんとも言えない気持ちになった。やはりできれば、現地の美術館を訪ねよう。

以前日本にも来て話題になったマネ『笛を吹く少年』

オルセーの建物は、もともと1900年に建てられた駅舎だった。それを改装し、1986年に美術館としてオープンした。駅舎時代の窓や大時計も残っていて、趣がある。

1階、2階にはたくさんの彫刻が
あちこちに名画が並ぶ

ここでもシスレーに感激したけど、いちばん良かったのはゴッホの『星降る夜』だった。本物を目にすると、星々の煌めき、水面に反射する光のなんと美しいことか。

シスレー
生で観るゴッホ『星降る夜』は本当に美しかった

印象派の作品が並ぶ5階は、書き切れないほど名画だらけだった。モネの連作『ルーアン大聖堂』も5点並んでいて贅沢だった。シニャックやスーラも良かった。それにしてもルノワールのツヤ感って何なんだろう。あのシルキーな絵、すごいよなあ。

モネの連作『大聖堂』
シニャック
ルノワール
ロートレック
モネ
モネ
ドガ
ルノワール
衣のリアリティに感銘を受けた彫刻
ミレー

地上階では、ゴッホの特別展も見られた。ゴッホはパリ近郊のオーヴェル=シュル=オワーズで亡くなるまでの最後の2ヶ月間を過ごしたが、実はその短い期間に、実に 74点の絵画と 33点の素描を制作したという。その「オーヴェル=シュル=オワーズでの作品」のみにテーマを絞った展覧会はかつてなかったらしく、今回が初めて。そのため、今世界的に注目を浴びている特別展のようで、たまたま見られたのはラッキーだった。「ゴッホにこんな絵があったのか?」と驚く作品ばかり。知らないことが多かった。

有名なゴッホの自画像
以下は全て最晩年のゴッホの作品

すっかり18時を過ぎ暗くなっていた。もう歩き回って疲れたので、宿へ戻ることに。

Gentilly駅で降りる際、ほとんどがICカード専用改札で、切符の入る改札はひとつしかなかった。にもかかわらず、その改札が壊れていて、切符が入らないのだ。これでは出られないじゃないか。そして、やっぱり駅員は誰もいない。通りかかった女性に窮状を訴えたら、「私が出してあげるから、後ろにくっついて」とICカードをタッチして一緒に出てくれた。助かった。人は親切だけど、機械は怪しい。やっぱり昨日書いたとおりだ。

そういえばオルセー美術館駅でもそうだった。切符を買う場所がひとつしかなく、メチャクチャ並ぶ。これだけ観光客が多いのに、なんで券売機がひとつしかないのだ。そういえば、オランジュリー美術館のチケット売り場もたったひとりの対応だったから行列ができてた。なんで世界トップクラスの美術館の窓口がひとつだけやねん。

ひとつしかない券売機で行列ができるオルセー美術館駅

夜は昨日のパン屋さんで買ったサーモンのクレープみたいなものを食べた。5ユーロ。良心的だ。

いつもお読みいただきありがとうございます! よろしければ、記事のシェアやサポートをしていただけたら嬉しいです! 執筆時のコーヒー代に使わせていただきます。