見出し画像

世界に誇る伝統技術【日本の酒】岩波文庫チャレンジ76/100冊目

(トップ画にあるのは、目次にあった幸田露伴書、“酒”の字)

発酵学者・坂口謹一郎氏の1964年発行本。日本酒がすごい伝統技術だった事を初めて知った。ついでに曖昧だった日本酒の種類なども調べて勉強。

昔は寒造りと言って、酒作りは冬の朝4時スタート。農業の間の出稼ぎで働く人が主で、春に出回るものを新酒と言った。

四季折々、季節に応じて変わる仕事が、機械化による年中生産や1日中建物の中で仕事をするようになってから、色々な場面で自然を感じる事から遠ざかっている。ふとそんな事も思う。

50年以上前の本なので、今は?と思う所も多々あるが、職人さんに感謝して飲みたい。ちなみに感謝すると、セロトニン・オキシトシンなどのホルモンが分泌されるため、科学的にも幸福になれるみたい😊


日本の伝統技術

著者によれば、
「酒造りの第一歩と言われる糖化」と「発酵が同じ槽の中で同時に進行」というのが世界に類を見ない珍しいやり方。

日本の酒造りを科学的に説明するのは「誠に厄介」な事らしい。最近になってようやく科学的な研究も始まってはいるようだ。

ー(注)ー
以下、読んだ事を中心に並べています。
細心の注意を払って書いていますが「違うよ」という内容を見つけられた場合はご指摘頂ければ幸いです。何度も読み直して修正しているうちに、それだけ工程が複雑で奥が深い技術なんだと思うようになりました。必要に応じて現在の状況などは加筆したものになっています。

・日本酒の原料

日本酒の主原料は「玄米」「種麹」「酵母」「水」の4つ。
種類によってはこれにアルコールが添加される。

・麹

日本酒だけでなく醤油・みそ・みりんなど和食に欠かせない調味料の製造のほとんどに使われているという麹。果実が自然発酵してワインになるのとは違い、穀類は自然発酵しない

麹は、米に麹菌*を繁殖させたもの。
*カビの一種。単一の菌ではなく、数百種から成る菌株1大郡を指す。

米からアルコールを作るためには麹が必要で、蒸した米(蒸米)に含まれる澱粉を糖に変えることができる(糖化)。

「君の名は。」に出てきた口噛み酒こそ糖化の方法。

製麹(せいぎく)という工程を経て繁殖させ、蒸米に植え付けてお酒にしていく。この工程の最初に必要な、主原料の1つ「種麹」は、ほとんどの場合、酒造家が自製するのではなく、種麹の専門業者からの購入になっている。

全国でも7件程度しかないという種麹家さん。本書で紹介されていた、京都で三百年以上続く「足利幕府の免許の判型が今でも商標になっている」老舗とは「菱六もやし」さんだろうか。
(参考:https://haccomachi.jp/interview/647/
(参考:https://www.digistyle-kyoto.com/magazine/16193

・自然的純粋培養法

麹菌は自然にできるものではなく、人の手によって作り上げられた環境で育つ。たくみに環境を作り上げる製法の事を、ドイツの学者が自然的純粋培養法と名付けた。麹菌だけでなく、酵母を育てる場合にもこれが当てはまる。

例えばビールの場合は、完全殺菌した後に酵母のたねを植えて作るらしいのだが、日本酒の酵母は以下のように作られる。

1)麹菌が米の澱粉に作用して糖分ができる
2)冬の寒い気温を生かして、低温で生きられる菌だけが残る
 (この中に乳酸菌がいる)
3)乳酸菌による強い酸性でさらに生き残る菌の数が減る
4)暖気樽と加温による攪拌で、雑菌は全て排除される
5)酵母だけが残る

先人の知恵。

やや関係ないけれど、下は本書にあった酒屋の分布図。分布にではなく、ものすごく几帳面に丁寧に書かれている事に驚いた。こういう日本人の性格だからこそ生まれた伝統技術なのかもしれない、と心の内で思う。

本書より

・世界が驚いた技術

現在の日産化学工業の元となる、日本最初の人造肥料会社を設立した高峰譲吉*。「日本人はまず日本固有の事物を研究対象として取り上げなければならぬ」という信条の元、麹による酒製造法特許を取得。

この特許が元で、アメリカ最大手のウイスキー会社から現地指導を依頼される。シカゴで小麦麩から麹を作り、これで玉蜀黍を糖化して発酵させ、蒸留してウィスキーを作るも、ウイスキーの原料であった麦芽を作っていた製麦業者による大規模な排撃に会う。

アメリカ社会では受け入れられなかった技術だが、酵素学者でもあったオッペンハイマー*が高峰譲吉の発見したタカジアスターゼは「実に酵素の宝庫」と賞賛。

高峰譲吉
*アドレナリン抽出及び結晶化およびタカジアスターゼを発見(自身の苗字「タカ」+「ジアスターゼ」(アミラーゼ)澱粉を分解する酵素、消化酵素

オッペンハイマー
*原爆開発指導者、最近では映画も公開されているが、同じ人?かどうか不明確

ちなみに、現在のアメリカンウィスキーの代名詞バーボンは、51%以上が玉蜀黍由来、大麦麦芽を原料としたウィスキーはモルト

他にも、
パスツール低温殺菌法を発明する100年以上前に「火入れ」の方法や手順が細かく記載された書物が見つかっていたり、

ペニシリンの製法を戦後初めて日本に導入するためにアメリカから指導に来た学者が、それと同じ装置のしかも何十倍も大規模な工場が日本の各地の焼酎会社にあるのを見て大変に驚いた」とある。

カビの生えている近くには、悪いバクテリアが生えないことを見つけた事がペニシリン発見に繋がっている。チーズもカビの一種。生物とカビは切っても切り離せない。

日本酒を勉強する

・主要財源としての酒

朝廷のための酒造組織として出発した酒造り。時代と共に政府・権力者が特定の専業者を認定、酒造の特権を与え、権利を保護する代わりに、酒現物又はそれに代わる税を取り上げて、自家の用に供するような制度に変わっていった。

酒税は大きな税源として、政府の厳しい監督下にあり、大蔵省(現財務省)の免許がなければ開業すらできなかった。

酒造家が許可されている年間の造石高は、1938年に酒造原料米の割り当てが決まったのが大体の目安となり、容易に動かしがたい。多くは灘(白鶴、菊正宗)と伏見(月桂冠)に集中

家内工業的性格が強く、産業革命以前の状態に取り残された珍しい工業の1つで、通産省(現経産省)の中小企業近代化促進法の指定業種に入っている、との記述があるが、本制度は1999年廃止。しかし完全になくなった訳ではなく、何度か改正を重ねて、現在は「中小企業新事業活動促進法」として存続している。

現在でも新規参入には「酒類製造免許」の取得が必要。
勝手に自宅で作ってはいけない!

新規参入者により伝統産業が淘汰されないように、需給調整要件という一定条件をクリアする必要もあり、日本酒を世界に広めたいから一念発起してやってみよう!は簡単ではない。が道が閉ざされている訳ではない。

取り立ても3本立て:酒造免許の税、造石税(石高に対する税、
売れてなくても貯蔵しているだけでかかる税)、蔵出税又は庫出税(販売に対する税)。昭和の時代に造石税と蔵出税は一本化。

現在でも、消費者としては二重課税構造(消費税+酒税)になっている。

本書内で清酒1級35%、2級15%と言及されている日本酒は、現在行われている酒税法改正では減税対象。逆に発泡酒やチューハイ・サワーなどは増税。法改正でこれまでバラバラだった税額が一律化されていく。

財務省「酒税改正」より

そして悲しいかな、日本は世界一酒税が高い?国だそう。

日本のビール税は世界一高い!ビール(350㎖)あたりの酒税額は、
日本が70円に対して、イギリス39円、アメリカ7円、ドイツ4円と圧倒的・・

https://sakura-wks.com/blog/sake-tax-history/


酒レポート(財務省)
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2023/pdf/0002.pdf

・聞いたことあるけど、なんだっけ?言葉

純米酒:原材料のみ(アルコールを添加しない)
吟醸酒:4割以上の精白米(大吟醸は5割)
本醸造酒:3割以上の精白米+アルコール添加10%まで

清酒≒日本酒
 清酒が海外産を含めて米から作ったお酒を指すのに対し、
 日本酒は国産米、国内製造したお酒の事

醸造酒:原料を酵母によりアルコール発酵させて作ったもの
蒸留酒:醸造酒を蒸留して作ったもの、醸造に比べてアルコール度数は高い
 焼酎が代表格、ブランデー(果実酒を蒸留)、ウィスキー(ビールを蒸留)

その他
・秘蔵酒:5年以上貯蔵
・金魚酒:水で割った、金魚が泳げるほど薄い酒
どぶろく(濁酒)
 ①もろみが混ざったままのお酒(濾過しないため濁っている)
  ※濁り酒は①をあらごしして作ったもの
 ②一般家庭などで違法に作られるお酒を指す場合もある
  ※酒税法では、アルコール度数が1%を超えるお酒を造ることを禁止
・カストリ:粕取からくる言葉だが、粗悪な密造酒を指す
・杜氏:酒造の最高責任者または、日本酒の醸造工程を行う職人・技術集団

アルコール含量
・ビール:5〜6%
・ワイン:11〜13%
・日本酒:15〜16%
・焼酎:25〜30%


そういえば、ホリエモンが安すぎる日本酒に活路を見出して、高級日本酒「想定外」「想定内」を作っている。検索したらnoteの記事が出てきたので、気になる方はチェックしてみてくださいね。(https://note.com/takapon/n/nf428ed5e097b

いつの間にか世界で大ブームの和食。和食には「日本酒」が合いますよね。
かくいう自分はあまり飲めない口なのですが・・頑張れ!日本酒!🍶✨


岩波文庫100冊チャレンジ、残り24冊🌟

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?