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自分の国について考える【ユートピア】岩波文庫チャレンジ73/100冊目

ドリュー・バリモア主演のエバー・アフター、大好きな映画。

読書が大好きなダニエルの愛読書が「ユートピア」。盗みを犯した罪で奴隷として売られたおじいさんを取り戻すため、貴族になりすまして救いに行く。そこで「ユートピア」を引用したことが、彼女の運命を大きく動かす。

If you suffer your people to be ill-educated, and their manners to be corrupted from their infancy, and then punish them for those crimes to which their first education disposed them, what else is to be concluded from this, but that you first make thieves and then punish them.

映画エバーアフターより

「人民から教育を奪い、礼節を知らない人間に育てておいて、犯罪を犯したからと彼らを罰するなど。彼らを盗っ人にしたのは国を司る者だ。」


本作が書かれた当時のイギリスでは、窃盗罪に対する処罰はシ刑。ヘンリー8世の治世だけで、窃盗罪によるシ刑は1万2千人に及んだという・・(解説より)

ユートピアの持つ意味

「ユートピア」とはモアの造り出した造語で、not place=どこにもない、という意味。主に理想郷を指す言葉として用いられがちだが、オックスフォード英英辞典では、実現しそうもない事と言う否定的な意味も含むようだ。

本作は、ユートピアという架空の国を舞台に、自由・平等で戦争のない共産主義的理想社会を描く。あくまで当時の理想であり、汚い仕事を奴隷にやらせたり、戦争好きな野蛮人を傭兵とするなど、現在の倫理観に合わない描写もあるが、今でも通じる内容も十分あると思った。

「読者」にこそ議論させる、原点に帰って考えたくなる古典の名著。

原文もヨーロッパの知識人に広く読まれる事を願い、ラテン語で書かれた。

モアが語るユートピアとは一体どんなところか、生活編と国政編に分けて紹介する(本文は作中より抜粋)。

ユートピア人【生活編】

身分に関わらず働ける者はみな働く(そのため生活は豊か、資金も潤沢)

夥しいズボラ極まる司祭や聖職者なる者の一団、すべての金持ち、紳士とか貴族とか呼ばれている地主連中、無頼漢、病気だとかなんだとかいい加減な口実を設けて仕事をしないでぶらぶらしている乞食をつけ加えれば、労働者の数は十分。

・全ての国民が農業、毛織、石膏、家事、大工、何らかの技術を身につける
・田舎に2年滞在したものは20人ずつ毎年州の都会へ行く。入れ替わりに同数の人々が新しく都会から田舎に送られてくる
・午前は3時間労働、正午に昼食、食後2時間の休憩、その後3時間の労働、夕食
・昼食と朝食の決まった時刻には、会館に集まっておいしいご馳走を食べる

小さい時から生計のために然るべき職業や労働に従事して成長していけば、決して女々しい人間になる心配は無い。怠惰と安逸の生活に溺れると、柔軟にならざるを得ない。あまりに容易な仕事をしているとちょっとした苦労にも耐ええないような、なよなよした人間になる。

私有財産はなく、全ての物が共有(そのため貧乏人はいない)

・物資は平等に分配されるため、金・交換するものも不要
・全島(ユートピアは島)が1つの家族、1つの世帯

金銀の使い道は便器(そのため犯罪はない)

・金銀は便器の他、奴隷を縛る手枷足枷の鎖、犯罪者が耳につける耳飾りに使う
・汚いもの恥ずべきものと言う観念を人々の心に植え付ける

金と言うものは元来それ自体としては何の役にも立たない。人間が用いるからこそ尊重されていたのに、今では逆に人間自体よりももっと尊重されている

・詐欺・窃盗・強盗・殺人などというものは日毎に処罰しても復讐を企てこそすれ、決して防ぐことのできないもの
・貨幣がなくなれば、同時になくなるものである

それでも犯罪を犯したものは

・有罪の判決を受けた者は、盗んだ物を元の所有者に返すことになっている
・壊れた場合には同額の金銭が支払われる
・犯人は公共の労務に従う。耳を片一方、先端の方を少し削がれる

ユートピア人【国政編】

政治は国民のために

・(国を司る者は)いついかなる時でも千ポンド以上の金銀を所蔵しない旨を厳粛に宣誓しなければならない
・自分自身の富を増やすよりもむしろ、国民の富と繁栄を願うため
・たくさんの財産を蓄えようとするあまり、国民を貧窮のどん底に陥れないようにと戒めるため

君主間の同盟、実際には有名無実(そのため全ての同盟を退ける)

・同盟を結ぶと言う慣習自体がそもそも始めからいけない
・条文中のアラ探し、曖昧な言葉がわざと巧みに挿入されていたりするもの

人間本来の友愛の精神こそ、最も強固な同盟に他ならない

法律は少なく、単純明快(そのため代弁人、弁護人は全て不要)

・言うことがあれば、それをそのまま裁判官に言ったら良い
・言葉の駆け引きもなくなる
・一人ひとりが皆優れた法律家
・生活のために日夜多忙を極めている者に、複雑極まる法律は、及ぶところではない

戦争で得られた名誉ほど不名誉なものは無い

・戦争は、自分の国を守るためか、友邦に侵入してきた敵軍を撃退するため
・自分1個のために多数の人民を塗炭の苦しみに投ずるような戦争の準備を強行しても、結局何らかの支障にあって失敗に帰する

全力を尽くして国民を富裕にし、繁栄させること
決して他国に干渉などすべきではない

モアはこの他、
宗教の自由を説いたり、子供たちの頭が柔らかくてしなやかな間に、国家の発展に必要な正しい信念を叩き込む事を説くなどして、人民の生活を良くする手立てを語っている。

その富と幸福を奪う以外には、なんら打つべき手を知らないといった国王は、自由人を統治する術を知らないことを白状すべき

このように、
ユートピアについて語るも、自身の政治参加については、プラトンが「国家論」で述べている「賢人は国家のことに関わるべきでない」事を引用して強く否定。

こういう連中の仲間に入ったが最後、良いことをする機会は絶対にありません。彼らは善良な人間を悪人にこそすれ、自分たちが善人になると言う事は無い。少しでも事情を好転させようとする事は不可能です。

果たして、どのようにすれば国あるいは生活は豊かになるのか。

若い内から楽をすればなよなよした人間になる、と述べている箇所が特に心に留まった。政治は政治家の仕事だが、土台になるのは国民だ。あえて苦労する必要はないけれど、気骨ある人が少なくなったように感じるのは、生活が豊かになった弊害でもあるように思った。

トマス・モアの最期

国家に尽力したものの、宗教的立場から教皇を裏切る事ができず、治世者ヘンリー8世の離婚に賛成できない事に端を発し、反逆者扱いされる。倫敦塔に15ヶ月幽閉された後、処刑された。

「法の名のもとに行われたイギリス史上最も暗黒なる犯罪」と呼ばれ、解説には「秩序は無秩序に敗れた」とある。

現在は世界遺産になっている倫敦塔、監獄としても使われていたため、モアだけでなく数々の著名人の処刑場にもなった。イギリス留学中の夏目漱石が訪れ、作品にも残している(これはいつか読む)。

永世中立国スイス

ユートピア人は戦争をしない(仕掛けない)と言う記述から、永世中立国スイスを思い出した。どのような経緯で永世中立国になったのかさらっと復習。

中立国とはいかなる国際紛争にも参加せず、軍事同盟にも入らない国家の事。

スイスは、ドイツ、フランス、イタリア、オーストリア、リヒテンシュタインに囲まれた内陸に位置。緩衝地域であり、どの国もスイスを支配したがっていた。

ナポレオン失脚後のウィーン会議でスイス独立が宣言。スイスが永世中立国になるのは周辺国にとって都合の良い事であった。

永世中立とは言っても、スイスは国民皆兵・徴兵制度がある。軍を有し、有事の際は焦土作戦も辞さない、毅然とした国家意思を表明している。

地理的な理由からの永世中立という選択。しかし完全に永世中立を信用している訳でもなく、自己防衛を怠らない

「人類みな家族」と言えれば用心など無用だが、仮に近所に泥棒がいると分かっていて防犯対策を何らしないのは、単なる不用心。

昔本で読んだスイス政府発行「民間防衛」の書を思い出す。

武力を使わない戦争の形
・第一段階:工作員を政府中枢に送り込む
・第二段階:宣伝工作。メディアを掌握、大衆の意識を操作
・第三段階:教育現場に浸透し、「国家意識」を破壊
・第四段階:抵抗意識を徐々に破壊し、平和や人類愛をプロパガンダとして利用
・第五段階:テレビ局などの宣伝メディアを利用し、自分で考える力を奪う
・最終段階:ターゲット国の民衆が、無抵抗で腑抜けになったら大量移民

スイス「民間防衛」の書より

決して他人事でない。
が、あなたの周りに政治の話ができる人はどれくらいいるだろうか。

イケメン庭師、村雨氏がその著書で「政治の話をもっとしたいのに、日本には興味がある人がいない」と漏らしていたのも印象的・・


本書は、再読だったが、岩波文庫チャレンジ前なので、内容を覚えておらず、アウトプットの効果を噛み締めながらこちらへ記載した。

岩波文庫100冊チャレンジ、残り27冊🌟


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