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【観劇レポート】『ザ・空気 ver.3 そして彼は去った・・・』(オンライン視聴)

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本作は、報道番組の裏側を舞台に繰り広げられる、報道の自由を巡る物語である。

「報道9」という番組にゲストとして招かれた政治ジャーナリストの横松(佐藤B作)は、体温が37.4℃だったためコロナ対策で別室に隔離される。しかし、そこはかつて旧知の仲でもある桜木が自死した部屋だったと知り、横松の様子が変わっていく。

番組の打合せでは、新政権に対するコメントを求められたところで、普段なら政権に忖度するはずの横松が、総理の批判をしてしまう。それはまるで、若い頃は忖度なしのコメントをしていたにも拘わらず、いつからか「落とし穴」に嵌った自分への言葉のように反響するのだった。

番組プロデューサーの星野(神野三鈴)曰く、「落とし穴」とは、正論に耳を傾けずに政府を妄信する大衆に疲れ切った知識人が、世論の「空気」に合わせるための理屈を悪気なく展開してしまうことである。さらに星野は、横松は権力に屈したとか金に目が眩んだというより、その「落とし穴」に嵌ったのだと生前の桜木がこぼしたということを話す。

それを聞いた横松は、「学術アカデミー」の会員候補に対する採点表を持っていて、それを公表することを提案する。この採点表は、候補者の政府に対する批判の度合いが強ければ強いほど評価は悪くなるというもので、この採点は内閣官房機密費からの資金提供を受けて横松が行ったということを告白した。そしてこれを使って、任免に関して思想信条は関係ないと説明してきた総理の虚偽答弁を世間に暴露しようと言うのだった。

番組の制作陣が協力して番組で革命が起こるかと思いきや、直前になって星野は「機を見て出直した方がいい」と怖気づき、横松も番組の出演を取りやめ、告発がされることはなかった。星野もまた、「落とし穴」に嵌っていたのだった。

新型コロナウイルスが蔓延する実際の世の中と同じ世界観で、政権の体たらくや権力による報道規制に対する批判が強烈かつ分かりやすい形で訴えられていた。コメディタッチな場面もあり、見易さと主題の訴求力が共存している。

本作で特筆すべきなのは、正義を貫こうとする星野でさえも、「邪魔をしてくれる誰かがいたから正義派として立ち回れた」という皮肉な事実が露呈したことである。権力に屈すると言うよりも、結局何もせずに言い訳とともに自重する正義派の狡さとそのどうしようもなさを浮遊させたまま、観客に問題意識を残す幕引きだった。(990字)

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