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苦手はあなた

 中国の歴史書、史記の中に「李陵りりょう」のお話があります。

 古代中国・漢の時代。漢は外敵である胡族こぞくに悩まされていました。李陵は少ない人数で胡族の一隊を撃破すると武帝に約束し出陣します。しかし胡族の策略や味方の裏切りにより、敵の本隊と戦い敗戦します。
 李陵は胡族に捕らえられてしまいますが、胡族の王である且鞮侯単于そていこうぜんうにとても厚く迎えられます。李陵はいつか手柄を立てて帰国するため、生きて敵方に下ることを選びます。しかしそれを漢の人々は裏切り者と決めつけるのです。
 そんな李陵を擁護する発言をした司馬遷しばせんは、宮刑を受けます。死を覚悟したとはいえ、生きながら屈辱を受けた司馬遷は、生きる意味に苦悩します。そしてかねてから取り組んでいた史記の執筆に没頭します。
 李陵よりも一年早く、胡地にとどめ置かれた蘇武そぶという男がいます。彼は胡族に下るくらいならと自害しようとしたこともある男です。
 胡族の大きな戦力として、李陵から説得されるのであれば蘇武は応じてくれるのではないかと期待し、当時の王狐鹿姑単于ごろくこぜんう(且鞮侯単于の子)は李陵へ使者としていくよう命じます。
 凍土ツンドラが溶ける4月、胡族の使者として、李陵は古い友である蘇武に極寒の地である北海バイカル湖で8年ぶりに再会します。
 李陵はこの8年のことを蘇武へ話をします。酒に酔って眠った蘇武を見て李陵は思います。

「なぜこれほどまでに祖国である漢に帰ろうとするのか。これほどの孤独と苦しみに耐えてまで。望郷の念か武帝に対する忠誠か、、、」

 その寝顔はまるで子供のように純真である姿をみて、李陵は気づきます。

「蘇武はただ純真に漢を思っている。自分の行いが漢に知られることなく予期せず、ただ一途に漢を想い、武帝に忠誠している。そう、蘇武の心に少しの打算もないのか。」と。

 この時、李陵は胡族に下り、これまで過ごした自分自身の行いを思い返しました。そして、なぜ自分が今ここにいるのかを思います。
 10日後、李陵はその地を離れます。20年来の友である蘇武に、食料と服を置いて。

講談社 久松文雄、久保田千太郎 史記 より

◎捉え方

 私たちが現実と捉えているものは、その事実と捉え方によって、個々に受ける影響がずいぶん異なります。どんな捉え方にも意味と価値がありますが、偏った捉え方の影響を受け続けるのではなく、別の捉え方もできるように、幅を持たせるようにバージョンアップしていく必要があります。
 先の李陵は、蘇武も自分と同じ思いを持っているに違いない、だからこそ自分の行ってきた8年を理解してもらえ、共に再興できると考えていたのでしょう。
 しかし、実際に会ってみて、その様子を見た李陵は思いを変えます。

◎相手はどんな人?

 人はそれぞれ違います。誰でもそのことは頭の中では理解していますが、実際のコミュニケーションの場面では、自分が扱われたように人を扱ってしまうことがあります。すると、人によっては、苦手な人と感じることもあるのではないでしょうか。
 あなたにとって苦手と感じる人は、その人にとってあなたのことを苦手と思っている可能性もあります。

 人は自分で「よし、やろう!」となったとき、生き生きと楽しく行動します。それを阻害されるといやだな、苦手だなとなっていきます。
 知らず知らずのうちに相手の「よし、やろう!」という自発性を阻害していませんか?
 もし、誰か苦手な人がいる、人間関係に煮詰まっていると感じたのなら、それはどんなタイプですか?どう関われば新しい接点を見つけることができるのでしょうか?

 自分の価値感や考え方、捉え方を脇に置いて、まずは観察してみるところから始めてみませんか?
 こうして相手について考える時間が増えることで、関わりが必要な瞬間を捉えることができ、関係性を築くことへつながります。

※過去観察について書いております。こちらも読んでいただけると嬉しいです。


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